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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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25/76

混乱

テレビのワイドショーが南島原というワードでにぎわっている。


「皆さんご存知ですか!? 長崎の南島原市で起きている事件!?」


司会者の“庭根 誠司”が切り出す。

後ろのパネルには「神隠し事件」と見出しが大きく書かれ、

その下には羅列された説明文に視聴者が見えないように紙が張り付けられている。


コメンテーターの橋本 徹一が答える。


「5月頃に出たニュース関連ですか?」


「そう! それがまた続いているようなんです!」


もう一人のコメンテーターの若狭 法律一郎が尋ねた。


「あれがまた続いてるんですか?」


「そう~なんです!

じゃあ~、羽賀さん! 詳細を説明してもらえますか?」


「はい、わかりました。

まず、先ほど橋本さんが言われた5月頃のニュースは、

高校三年生の失踪事件として報道されました。」


「ええ、よく覚えてますよ。」と橋本。


「これ本当は、失踪ではなく“消えた”って話なんです。」


そう言って、羽賀は1行目を覆っていた紙を剥がした。


剥がす音に合わせてSEが鳴る。

剥がした後には“実は消滅だった!”と書かれていた。


「ええっ!? 消えたんですか?」橋本と若狭が、わざとらしく驚いてみせる。


「はい! 橋本さん若狭さん、信じてないでしょう?」


「人間は消えるもんじゃないですからね。」と庭根が突っ込む。


「5月、消えた高校生はなんと7人! みんなが見ている前で消えたそうです。」


「みんなが見ている前でですか!?」と驚く橋本

「それは、本当なんですか?」と若狭。


「はい。」


そう言って、羽賀は2行目の紙を剥がす。

紙の下には、“自宅で消えた男子高校生”と書かれている。


「6月28日のことだそうです。」


「ここでちょっとVTRを観てもらいましょう。」

庭根が手を前に出して、キューを出す。


画面が切り替わる。モザイク付きの学生が映る。

画面の右側には“消えた男子高校生について”とテロップ。


「成績がトップの先輩だって聞いてます。」

(2年生H君、音声は変えてあります。)と表示される。


テロップが変わる。“どんな先輩でしたか?”


「真面目な先輩でしたよ。いつも図書室で勉強してました。」


そこへ大人が画面に入り、カメラを遮る。


「勝手に撮らんでください!!」


VTRが止まる。


「なかなか現場では取材が大変なようです。」と庭根。


「それで、消えた高校生はどこに行ったんでしょうね?」

「分からないから神隠しなんでしょー?」


橋本と若狭がやり取りする。

羽賀が、二人を抑えるように語りだす。


「橋本さん、若狭さん、実はこれ、続きがあるんです。

男子高生が消えてから6日後、二人の女子高生が消えたらしいんです。」


「ええっ、さらに!?」と橋本が驚く。


「ウチの報道では知らなかったんですが、今日発売の週刊誌に

写真と実名が載ってます。」


羽賀が週刊誌を開いて見せるが、画面はアップにしないため、

実名はテレビには流れなかった。


若狭が、腕を組みながら“元検事”らしい口調で話し始める。


「・・・これはですね、非常に異例です。

まず、短期間に未成年が連続して“行方不明”になるケースは、

通常、事件性を強く疑うべき状況なんですよ。」


橋本が相槌を打つ。


「やっぱり事件なんですか?」


若狭は少しだけ首を振る。


「ただ、今回のケースは“事件”と断定する材料が乏しい。

これは、知り合いの関係者から聞いた話ですが、

痕跡がない。防犯カメラにも映ってない。目の前で消えた。

これは、捜査の観点からすると“説明不能”に近いんです。」


庭根が食いつく。


「じゃあ、どういうことなんですか?」


若狭は、わざとらしく深刻な顔を作る。


「――普通の事件ではない、ということだけは言えますね。」


スタジオがざわつく。


「警察も相当困っているはずです。

証拠がない以上、犯人像も動機も立てられない。

こうなると、捜査は“止まる”んですよ。」


橋本が眉をひそめる。


「じゃあ、どうすればいいんです?」


「ええ。だからこそ、世間が不安になる。

そして、報道も過熱する。

でも――現時点では、誰にも説明できないんです。」


若狭がそう締めると、スタジオが一瞬だけ静まった。


庭根がすぐに橋本へ振る。


「なるほど・・・では、元弁護士の橋本さんはどう思われますか?」


橋本は、待ってましたと言わんばかりに姿勢を正し、

“専門家らしい”落ち着いた声で話し始める。


「そうですね・・・まず、未成年が連続して行方不明になるというだけで、

本来は警察も相当な危機感を持つべき状況です。

ただ、今回のケースは“事件性があるのに証拠がない”という、

非常に難しいタイプなんですよ。」


若狭が横でうなずく。


橋本は続ける。


「痕跡がない以上、強制的な捜査もできませんし、

犯人像も動機も立てられない。

つまり、法律的にも“手の打ちようがない”状態なんです。」


庭根が食いつく。


「じゃあ、警察はどうすればいいんでしょう?」


橋本は、わざとらしく肩をすくめる。


「現状では、追加の失踪が起きないように

地域全体で警戒を強めるしかありませんね。

ただ・・・これだけ不可解なケースが続くと、

世間が不安になるのも当然です。」


庭根が軽くまとめる。


「なるほど、現状では何もわからないということですね・・・

では、続報を待つことにしましょう。」


―――


民放各局のワイドショーは、神隠し事件を取り上げた。

そのワイドショーにSNSも反応し、トレンドに入った。


【トレンド】#南島原 #神隠し事件


「消えたってマジ? 怖すぎるんだけど」


「ワイドショーのやつ見た。紙ペラ剥がす演出いらんだろ…」


「“消えた”って言い方やめろよ。煽ってるだけじゃん」


「7人→男子1人→女子2人? これもう事件じゃなくね?」


「元検事も元弁護士も、結局なんも言ってなくて草」


「南島原ってどこ? 長崎? 田舎こわ…」


「週刊誌に実名出てるって言ってたけど、誰か持ってない?」


「学校どこなん? 特定班はよ」


「週刊誌買ってきた、県立口加高校ってとこらしいぞ。」


「これ、親御さんどうなってんの…」


「南島原の人、外出控えたほうがよくね?」


「女子高生2人の写真、週刊誌に載ってるってマジ? やば」


「ワイドショー軽すぎて逆に怖い」


―――


テレビや週刊誌の報道に、地元の住民の怒りが爆発する。

そこに全国からのいたずら電話や嘘情報が飛び交い始めた。


学校や警察の電話は、鳴りやむことがなかった。


対応に追われる教員たちの姿を見て、教頭が頭を抱える。


「こ、こんなの・・・どうすればいいんだ・・・

校長は校長室から出ようともしないし・・・」


「電話線を抜こう!」


体育教員の井上だった。

騒然とした職員室だったが、その声はよく通った。

すでに、自分の目の前の電話からコードを抜き、皆に見せている。


「我々は、生徒たちを守る立場!

電話対応で、それがおろそかになることは許されんとばい!」


その言葉に、他の教員たちも次々と電話線を抜いていく。

職員室に、久しぶりに静寂が戻った。


「井上先生、ありがとう。」


教頭が立ち上がり、井上に感謝を述べた。


「教頭も落ち着いて対応しましょう!」


教頭は大きく頷く。


「そ、そうですね・・・い、一度保護者会を開きましょう。

電話対応ではなく、保護者会で親御さんに現状の報告を行います。


だれか、報告用の資料を作ってもらえませんか。」


「僕がやります。」


先ほどまで文句を言っていた若い教員が手を上げた。


「もう、こんなの勘弁です!

こんな電話対応をするために僕は教員になったんじゃない!」


「その通りです。

――私も手伝います。」


同年代の女性教員も手を上げた。

若いだけあって、まだ目が死んでいなかった。


「お願いできますか?」


「はい!」

「もちろん!」


二人はそう言うと、ノートパソコンを職員室の後方にある

ミーティング用の机へ運び、電源を繋ぐと、

協力しながら報告用の書類作成を始めた。


教頭が他の教員に指示を出す。


「保護者全員へ“7月18日、保護者会開催”のメールを出してください。

議題は“失踪した学生と今後の対応・対処について”にしましょう。」


「わかりました。」


「井上先生!」


教頭が井上を呼ぶ。

呼ばれた井上は、急ぎ足で教頭のもとへ向かった。


「警察にも協力してもらわないと、保護者会は大変なことになると思うんです。

井上先生が、こちら側のパイプとして警察と対応してもらえますか?」


「わかりました。

鍛えたこん体ば披露してあげますばい!」


「暴力沙汰はダメですよ。」


「わかっとります! わはは!」


井上の豪快な笑い声が、張り詰めた職員室に少しだけ空気を戻した。


教頭は、保護者会で何も起きないことを願った。


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