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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ
呪いのゲーム

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限界の音

夏休み前の7月中旬。

今年の梅雨はまだ明けず、口加高校の体育館前には、今日も雨が降りしきっていた。

傘を広げた生徒たちが、下駄箱のある玄関へとぞろぞろ歩いていく。


校門の外では、何台ものテレビ局のカメラから生徒を守るように、

教員や保護者たちがロープを持ってずらりと並んでいた。

口加高校へ続く両サイドの上り坂は、生徒、教員、警官、報道陣、保護者で埋まり、

過疎化し始めた田舎とは思えないほどごった返していた。


―――


そんな時間帯でも、安永久美はすでに教室の自分の席にいた。

一枚の紙を握りしめ、肩をフルフルと震わせている。


模試の結果には、“B+”の判定。

落ち続けていた成績が、ようやく上向き始めていた。


「よし・・・よし、よし・・・戻ってきた・・・」


久美は小さくつぶやく。


すでに三人を消し、“邪魔者は消せる”という確信が焦りを消し、

その余裕が集中力を呼び戻し、成績を押し上げていた。


逆に、成績上位の生徒たちは、トップ3が消失したことで動揺し、

「次は自分ではないか」という恐怖が襲い、バランスが崩れていく。


さらに、久美より下の順位だった生徒たちも、

“上位に行けるチャンス”と考える者が増え、下からの突き上げも強まっていた。


この時の口加高校は、本当に微妙な均衡の上に成り立っていた。


久美は抑えきれない感情が口元に滲むのを止められなかった。

無意識のうちに口角が上がり、閉じた口から笑いが漏れる。


クフッ・・・クフッ・・・クフフッ・・・


―――職員室


朝の朝礼では、生徒たちのカウンセリング、毎日のように鳴る電話への対応、

報道陣への対応、保護者への説明、警察への協力と、

頭を抱えるほどの報告が並んだ。


教員の多くは疲れ果て、皆うつむき気味だ。

その中で、教頭が口を開く。


「あと数日で夏休みとなります。

休みに入ると、学校に来ない生徒たちに報道陣が接触する可能性があります。

報道陣への対策案は何かありませんか?」


「・・・・・・」


長い沈黙が続く。


一人の若い教員が、堪えきれずに声を上げた。


「無理ですよ! 学校に来ない生徒たちを、我々が監視できるわけないでしょ?」


若い教員の声が職員室に響き、空気がわずかにざわついた。

しかし、誰も反論しない。

皆、同じことを思っていた。


教頭は眉間を押さえ、深く息を吐いた。


「・・・分かっています。ですが、何かしらの対策を示さなければ、保護者会で追及されます。『学校は何をしているのか』と。」


別の中堅教員が、机に肘をついたままぼそりと漏らす。


「そもそも・・・十人が消えた理由すら分からないのに、対策なんて立てようがないでしょう・・・」


その言葉に、誰も返さなかった。

返せる者がいなかった。


電話が鳴る。

誰も動かない。

数秒の沈黙のあと、事務員が慌てて受話器を取った。


「・・・はい、口加高校です。・・・はい。・・・はい。・・・申し訳ありません、現在お答えできる情報は・・・」


報道対応の声が、職員室の重い空気に吸い込まれていく。


教頭は机の上の資料を見つめたまま、かすれた声で続けた。


「・・・夏休み中の巡回を、地域の見回り隊に依頼する案もあります。

ただ、あちらも人手が足りません。警察も“警戒はする”と言っていますが・・・」


「実質、何もできないってことですよね。」


若い教員が吐き捨てるように言った。


誰も否定しなかった。


職員室の時計の秒針だけが、やけに大きく響いていた。


キーンコぉーン…カぁ〜〜ンコーン!


その時、時間を知らせるチャイムが高校に響いた。

機器が悪いのか、どこか歪んだ音に聞こえる。


「こんチャイム・・・早よ直してくれんかしら・・・気持ち悪い・・・」


女性教諭が体を震わせながらぼやいた。


教頭は眉間にしわを寄せ、朝礼を締めくくる。


「朝の朝礼はこれで終了します。三年の担任と副担任は、

ホームルームで生徒たちの顔色や精神状態も見ておいてください。

よろしくお願いします。」


教員たちは立ち上がり、気怠そうに職員室を出ていった。

若い教員がぼやく。


「この状況で何ができるって言うんだ・・・」


―――南島原警察署


薄暗い廊下の先にある会議室の入り口には、「口加高校・失踪事件対策本部」と、

縦型のホワイトボードに記されている。


会議室は、いつもなら長机が整然と並べられている場所だが、

対策本部となったことで、長机が輪を作るように並べられ、

全員が向かい合える配置になっていた。


その輪の外側には、大きなホワイトボードが複数台置かれ、

失踪事件の時系列、失踪者の写真と名前、家庭環境などが記されている。


会議室では、新たに発生した二人の女子高生の失踪が報告されていた。


笹田が立ち上がり、報告を始める。


「7月4日に発生した新たな失踪者の二人についてですが、

まず、配ったプリントをご覧ください。」


出席者たちは机に配られたプリントを手に取った。


「今回は、“榊原雫”、“朝比奈由宇”が失踪しました。

前回の“篠原直哉”と同じく、口加高校の成績上位者です。


なお、“朝比奈由宇”は朝食の途中、母親が“目を離した瞬間に消えた”と証言しており、

5月18日の授業中に消えた“立花真央”と“柏木彩乃”と同じ状況と考えられます。


これまで消えた十人は、同じ“失踪事件”と見て間違いないと思われます。」


会議の輪のど真ん中に座っていた男が口を開いた。


「事件というが、痕跡も何も見つからないんだろ?

これ、本当に我々が担当して良いのか?」


その発言に、会議に出ていた全員が固まった。


「あ、ああ・・・すまん。単なる愚痴だ。」


そう言って、手にしていたプリントを机に放り、続けた。


「こんなド田舎で発生した事件に、全国から報道番組や記者が大量に集まっている。

宿泊施設や飲食店はホクホクだろうが、住民たちは困惑して、署の電話も鳴りっぱなしだ。

何も見つからないから、取材に答えようもない・・・


それに、人員がまったく足りん・・・

現場には悪いが、上の連中がそろそろ何か言ってきそうだぞ。」


立っていた報告していた笹田が口をはさむ。


「斎藤警部・・・おっしゃることは分かります。

ですが、我々以外に住民たちの不安を払拭できる者がいるでしょうか?」


斎藤が続けた。


「だがなあ・・・もし今後も続くと、上を抑え込めないぞ。

今回の二人はまだ実名は出てないが、いずれは報道される。


報道されれば、家族に取材が行く。

我々が保護するには人員が足りん・・・

もう県警に応援を求めるしかないんじゃないか?」


斎藤の言葉に、誰も反論できなかった。


田中が立ち上がる。会議に出席している全員が田中を見つめた。


「自分はもう一度、最初から洗いなおしてきます。」


そう言うと、田中は会議室を出ていった。

その様子を見ていた笹田がプリントを置き、田中を追いかける。


「待ってください! 田中さん!」


斎藤はそれを見て頭を掻いた。

隣に座っていた女性が口を開く。


「斎藤警部。あんな言い方をしたら、現場担当は憤慨しますよ。

もう少し言葉を選んで発言してください。」


斎藤は眉を上げ、少し間を置いて答えた。


「――安藤・・・

そりゃ、お前の言うこともわかるがな。」


斎藤は折り畳み椅子の背にもたれ、机に手を置く。


「だが、南島原じゃ発生する事件なんて年に十数件だ。

こんな大事件、オレの経歴でも経験がない。

いや、うちの所轄じゃ初めての大事件だ・・・


しかも、ホシとかそういう話じゃない。

だれも理解できない“現象”だってことだ。」


斎藤の発言に、会議室がシンと静まる。


「では、どうしますか?」


「もし・・・もし次に何かあったら・・・

警視正殿に“現場はもうお手上げ”だって進言する。」


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