帰還
「よく思い出せ! オレは何をやっていた?」
まばゆい光の中で、朦朧とする意識を必死につなぎとめる。
光の膜の向こうには、骸骨の面をつけた男が立っていた。
(苦しい・・・酸欠みたいだ・・・)
一度大きく息を吸い込む。
吸い込んだ瞬間、煙と埃が喉に流れ込み、激しく咳き込んだ。
「ゲホゲホッ! そうだ!! ここは地下迷宮だ!
オレは最終階層のボスと戦闘中だったんだ!」
光が収まるにつれ、舞い上がる埃と煙が視界に広がる。
咳き込んだおかげで意識がはっきりし、周囲を見渡すと、そこにはオレとボスの二人だけ。
パーティメンバーの姿はどこにもない。
(コータ達はどうなったんだ?)
「ほう、レジストしたのか?」
「何をした?」
「いやなに、転移魔法だったのだが、貴様が残っただけの話だ」
「どこへ飛ばした!?」
「さあ? ランダムなのでわからんな……壁の中かもしれん……」
「貴様ァッ!!」
怒りがこみ上げるが、ひとりだけ残された状況を理解し、頭は冷静さを保つ。
長い戦いで互いにMPは尽きかけているが、相手は最下層のボス。油断はできない。
ヤツはMPが尽きる前に転移魔法を選んだのだろう。
だが、オレが残ったのは想定外だったはずだ。
オレは村正を握り直し、残った力を振り絞って振り下ろす。
確かな手応えがあった。
「フフフ……」
余裕の笑い声に、心拍数が跳ね上がる。
手応えとは裏腹に、ボスは揺るぎない。
― ドッ!ドッ!ドッ!・・・
(心臓の音がうるさい・・・だ・・・だめか・・・)
「ハハハハハハハハ!!」
体力が落ちていく中、まだ戦闘は続くと覚悟を決めた瞬間、
ボスは高らかに笑い始めた。
(な、なんだ?)
「みごとなり、人間『魔王』よ!」
「!?」
静かな声に変わったその呼びかけに、思考が止まる。
(しかも呼んだ名前は、オレのキャラクター名だ。
なぜ知っている?)
「我を打倒した人間『魔王』には、一つ目の褒美として『ブルーメダル』の称号をやろう!」
「は? なにッ!?」
聞いたことない称号を敵から与えられ、戸惑う中、さらに続く。
「さて、もう一つの褒美として、原点への帰還!!」
その言葉に、嫌な予感が走った。
「ダメだッ! このタイミングで!!」
光が収束し、暗闇が背後から押し寄せてくる。
この世界では経験したことのない感覚。
落ちていく。
「あああ・・・これは・・・」
そして、オレは闇に飲み込まれた。
――――――――――――
薄曇りが空を覆う、三日月がオブラートに包まれたようにボウっと光っている。
広い敷地の高校は街灯も届かず真っ暗だ。
非常口の緑の光だけが、建物の内側から弱く浮かび上がっている。
その闇の中、三階の窓がぼうっと光り始め、徐々に強くなる。
フラッシュのような光が漏れ、机が動くような音が響いた。
― ガタガタガタッ!!
そして再び、真っ暗な高校へと戻った。。
「ここは・・・夜の・・・教室?」
光の中から現れたのは、日本刀を持ち、鎧を着た男。
現れた男は先ほどまで敵ボスと戦っていた“立花真央”だ。
闇に閉じ込められていたせいか、暗い教室の輪郭が妙にくっきり見える。
時計は9時55分を指し、黒板には5月21日と書かれている。
窓の外には、彼が一年ほど前まで見慣れていた風景が広がっていた。
「やはり、帰還って元の世界への事だったのか・・・
オレ一人だけが帰ってきてしまったのか・・・
原点への帰還ね。
まさにその通りだな・・・」
机の中を覗き込むと、真央は怪訝な顔をした。
「机の中身が違う、向こうの世界で約1年過ごしたけど・・・
今は何年なんだろうか?
ズレがなければいいんだけど・・・」
手に持っていた日本刀を鞘に収め、大きく息を吐く。
「とりあえず、家に帰ってみよう!
しかし、この姿はまずいな・・・
日本刀もあるし、人に見られたら最悪刑務所行きだな・・・ははは・・・」
一歩動くたび、鎧の金属が乾いた音を響かせながら、教室をあとにした。
マンガ版アクチュアリーの表紙は、アクチュアリーのパッケージイラストだったので、pixivに公開しました。
表紙のあとは、この2話の出だしになります。
よろしければ、楽しんでもらえればと思います。
https://www.pixiv.net/artworks/141442799




