102話 推理
朝比奈が漏らした名前に全員が反応して、朝比奈を見つめた。
「陽菜って・・・誰?」
「クラスメイトの木下陽菜乃よ。 なんで・・・彼女が?」
彩乃が尋ねると、朝比奈が木下のことを教えた。
だが、朝比奈は木下の順位を知っていたので、アクトリアにいることを疑問に感じた。
「そりゃ、キャラメイクされたってことだろ?」
タツヤが“はあ~、またか・・・”とうんざり気味にぼやいた。
「陽菜はそんなスコアじゃないのよ!」
そう言って朝比奈は、木下のいる外城壁の内側へと登る階段へと走りだした。
―――
真央たちが迷宮から戻ったのを確認して、セルディオが立ち上がる。
「ヒナ、よかったですね。 お仲間に会えましたね。」
セルディオがそう言うと、木下は申し訳なさそうな顔をして、腰を折って頭を下げる。
「す、すいませんでしたー! ・・・セルディオさんたちのことを信じなくて・・・」
その木下の行為にセルディオは“フッ・・・”と笑い、肩に手を置いた。
「逆ですよ。」
セルディオの言葉に木下は“えっ?”と、その表情を確認するように首を上げると、それを見てセルディオは続ける。
「我々は・・・800年もの間、呪いにより封印されています・・・・・・代替わりはしたとはいえ、このアクトリアでは知らない人間がいない世界です。
つまり、住人どうしで疑うという術を知りません。
要は緩いのです・・・城には門番も立たず、危機感がない・・・
城を守る騎士長である私ですら、その行動が思いもよらぬものだったのです。」
木下は「いや、それは・・・」と口にすると、セルディオが手を開いて、その次の言葉を遮った。
「ヒナ、あなたの行動はすばらしい!
私は城主を守る騎士長として、あなたの行動はとても素晴らしいと思いました。
なので、謝ることなど、何ひとつもありません!」
木下はセルディオの説明に、自分の非礼を余計に感じたが、世界観の違いを改めて認識し、これ以上の反論を止めた。
「さあ、皆さんとの再会を楽しんでください。」
セルディオはそう言うと、侍女に視線を配る。
侍女はその視線の意図を理解し、城門の方へ手を上げる。
すると数名の侍女が門を開けて石橋を渡ってくると、木下とセルディオが使っていた、テーブルと椅子を抱えて城へと戻っていく。
侍女もまたサービスワゴンを押して石橋を渡っていく。
セルディオも城へ戻ろうとした時、木下が尋ねる。
「もうひとつ聞きたいことが・・・」
セルディオは足を止めて木下の方を向くと、
「なんでしょう?」
「来訪者・・・・・・私たちを来訪者と呼ぶのは何故です?
なにか・・・意図を感じるんですが・・・」
セルディオは、“ほう・・・”と感心するような表情を浮かべ、木下を見つめながら尋ねる。
「意図ですか・・・・・・それはなぜ?」
「同じ人間なのに・・・まるで区別するかのような呼び方ですよね・・・来訪者っていうのは・・・なにか意図を感じます。」
セルディオは目を閉じて数回頷いて、木下の直観を感心した。
「そのとおりですね・・・我々アクトリアに住む住人と、あなた方来訪者では明確な差があります。」
「差・・・ですかー?」
「ええ、我々アクトリアの住人が職業を得られるのは、ほんの一握り・・・・・・
ですが、あなた方来訪者は、この世界に来た時点で職業を持っているのです。」
「職業?」
「はい、あなたがた来訪者は全員、こちらに来た時点で何かしら職業を持っています。
だから、同じヒューマンのようでも、あなた方は人間という来訪者・・・」
「ま、待ってください・・・人間とヒューマンって・・・なんで区別するんですー?」
木下は手を広げて、腕を少しセルディオに向けた。
「それは、ただ存在が違うからです。」
「存在・・・?」
木下は、意味がわからず首をかしげた。
セルディオはその様子に少し笑い、
「ここで生活していけば、我々とヒナが違うということに気づきますよ。」
そして指さし、「ほら、お友達が来てますよ。」
木下はその指の方を振り返る。
「陽菜っ!!」
階段を勢いよく朝比奈が上がってくると、心配そうに木下を見つめた。
木下の表情が“パァ”と明るくなり、朝比奈の方へ駆け寄り、両手を取った。
「由宇・・・消えたって聞いた時は、本当に驚いたけどー・・・」
「バカ! 今度は陽菜が消えたって騒ぎになってるよ。」
朝比奈はつないだ手を、軽く木下のほうへ押す。
「あー、そう言えば、そうですねー」と上目遣いで首を傾げた。
「もう、あんたって・・・」と呆れて笑い、続ける。
「ねえ、陽菜の成績20番より下だったよね? なんで、この世界に来てるの?」
「え? 成績?」
木下は、久美がキャラメイクする条件を知らなかったので、目を瞬きさせて首を軽く捻る。
「高校の成績よ! 藤堂くんが言ってたけど、
3年生の中では『成績上位者が神隠しにあってる。』って噂になってたでしょ?」
「はてー?」
「もう・・・あんたって・・・ほんと、人の噂とか気にしないんだから・・・
だから、キャラメイクされたのよ!」
「きゃらめいくー?」
首を傾げる木下を見て、朝比奈は「あ~・・・」と、“ゲームのことを知らないことを思い出し”、ゲームに関して説明する。
「――じゃあー、そのアクチュアリーってゲームに名前を刻まれると、
この世界にやってくるってことですかー?」
「そういうこと。 そして、狙われてたのが成績上位者。」
木下は乾いた笑いを浮かべ、頭の後ろを掻く。
「あー、私やっちゃいましたねー・・・」
朝比奈が「ん?」と確認するように首を傾げる。
「ここ最近調子よくってー、他の人達が調子崩してたってのもあってですねー
実は京都大学の推薦も決まっちゃったんですよー」
木下は目を閉じてヘラ~と笑い、上半身を横に傾けた。
「本当なら、おめでとうなのに・・・残念でしかないわね・・・」
「ですねー」
そこに真央たちがガチャガチャと鎧の音を響かせて階段を上がってくる。
「ホントだ~、陽菜ちゃんだ~! オーイ!」
イチゴが第一声を上げると真央とタツヤが驚き、タツヤが尋ねた。
「オマエ、木下さんと接点があったのか?」
「ほら、パピーの件でさ・・・放課後、たまに音楽の原田先生に相談してたんだ。
陽菜ちゃんは吹奏楽部だから、部活動の時に会ってたんだよね~」
「あ~・・・例の専門学校か・・・」
「そんなに日は経ってないのに、ずいぶん昔のことのように感じるな。」
イチゴの答えに、二人は“そう言えば・・・”と春先のことを思い出して納得する。
「彩乃も元気そうでよかった。 心配してたんだよー」
近づいた彩乃に木下が手を顔より上に差し出して、彩乃もその手に自分の手を組むように握った。
「今度は陽菜が心配される側だけどね。」
「あははー、ほんとそれー!」と木下は笑って続ける。
「由宇もそうだけどー、彩乃もすごいかっこー」
木下はそう言って、朝比奈のプレートメイルの胸部分をコンコンと叩き、彩乃の持つ杖に体を近づけてまじまじと見つめた。
「そう? 由宇の恰好はすごいと思うけど・・・私は、まだ普通じゃない?」
彩乃は両腕を斜めに広げ、自分のローブ姿を頭を振って確認する。
木下は笑いながら首を振る。
「ははははは、彩乃もかなり染まってるねー」
「え~、うそ!」
「彩乃さんは、ここに来た時から、この世界にすぐ馴染んだよね。」
真央が後ろから近づきながら、ツッコミをいれる。
すると、彩乃が真央を一度見て、顔をツーンと少し上の方へ流し、
「そ、そんなことないわよー・・・」とドギマギしながら返す。
そんな彩乃にイチゴが突っ込む。
「柏木さんは~、オレがあった時には、すでにこっちの人だったね~」
「ちょっと! イチゴくんまで・・・」
全員が笑うと、彩乃が照れくさそうにして、真央に向きを変えて杖で殴る。
「もう! 真央くんのせいだからね!!」
真央はその杖を腕で防御しながら、
「そりゃ、オレが彩乃さんを、この世界に送り込んで悪いとは思ってるよ・・・」
彩乃はそこで一旦固まると、頬を膨らませて「もう~、そうじゃない!!」と今度は強く叩きつける。
「痛て! ちょっと、何!? おい、見てないで助けろよ!」
真央は腕で防御しながら、皆に助けを求めると、
タツヤが腕を組みながら「今のは、真央がダメだな。」
「そだね~」とイチゴも笑った。
それを見ていた木下が、「ねえ、由宇・・・あの二人って・・・?」と尋ねた。
朝比奈は二人を見つめたまま「・・・・・・。」と黙り込む。
「ねえ、由宇・・・?」
「えっ、な、何?」
朝比奈はハッとして、木下に顔を向けるが、楽しそうに笑いあう声に視線が戻る。
その様子を木下は黙って見つめた。
「ねえ! ねえって、彩乃さん!
き、木下さん来たばっかなんだからさ・・・早く着替えて朝ごはん行こうよ!」
彩乃の攻撃を捌きながら、真央がそう言うと、彩乃は杖を振りかぶった所で“ピタッ”と動きを止めた。
「それもそうね! お腹も減ったし」と、くるりと向きを変えて杖を下ろした。
真央は「はぁ~・・・」と頭を俯かせつつ、“よかった~”と大きなため息を吐いた。
「あのー、篠原くんとか門畑くん・・・他の人は一緒じゃないんですかー?」
木下が現実世界で神隠しにあったメンバーの残りのことを尋ねた。
「あー、アイツらは迷宮に行かない組なんだ・・・」
真央がそう言うと、「行かない組?」と木下が首を傾げる。
「あのね・・・戦うのが嫌だったり、運動が苦手だったりした場合、
迷宮に潜らないでもいいようにしてるの。強制的に迷宮に潜るのって嫌でしょ?
今、迷宮に潜るメンバーはここにいる5人だけ、残りの4人は行かない組。」
朝比奈が行かない組のことを説明した。
「えー? 神隠し事件は12人だよねー? 今の説明だと9人・・・足りなくない?」
朝比奈は“ドキッ!”と体を震わせると、真央たちの方を見た。
その視線に、真央は少し視線を落とし、額を人差し指でカリカリ…と何度か掻いて、木下に視線を向けた。
「木下さん・・・驚かないで聞いてほしいんだけど・・・
それと、これから言うことには嘘は一切ないので、
木下さんが信じられなくても、本当のことだから・・・」
木下は真央の辛そうな表情に、何かがあることに気づき喉を鳴らした。
「わかりました。」
木下は真央の目をまっすぐに見て、コクリと頷く。
「まず・・・木下さんの言う“神隠し事件”で足らないのは・・・3人で間違いないよね?」
「はい。」と、頷く。
「よかった・・・ここで違うと、色々前提が覆っちゃうところだった・・・・・・」
コン、コン、コン、コン!
真央は自分を落ち着かせるように、鎧の胸プレートをこぶしの親指側で叩き、話を続ける。
「山本幸太郎、広瀬誠治、岡部雄志・・・足りないこの3人は、現在は死んでる状態なんだ・・・」
木下は少し驚いた表情をするが、すぐに真央の言ったことを頭の中で整理する。
「・・・・・・質問良いですか?」
木下の思わぬ反応に、全員に“えっ?”と驚いて顔を見合わせる。
「いいよ。」と真央は頷く。
「最初に5人が消えたはずです。 そして、そのあと学校で、立花さんと彩乃が神隠しにあった・・・2人が後からこの世界に来て、5人は死んでたんじゃないんですかー?」
「えっ!?」
「嘘だろ? 何でわかるんだ?」
「なんで~?」
「陽菜・・・すごい・・・」
後ろで4人が驚きの声をあげた。
真央は、目をパチパチとさせて驚いて、
「なんで、順番を? 学校を休んでたのは確かだけど・・・」
「順番なんて、日本中の人が知ってますよー。
TVのワイドショーで、何度も言ってましたからー」
木下はそう言って笑うと、真央は恥ずかしくなって顔を両手で押さえると、「ワイドショー・・・」と、頭を下に向ける。
後ろからイチゴが乗り出して、
「も、もしかして~・・・ワイドショーにオレ達の顔出てるの~?」と尋ねた。
「TVはさすがに倫理的配慮で、ここは隠されてましたよー」
両手の人差し指と親指で囲いを作り、眉間から外側へ移動させると、続ける。
「でも、雑誌では顔写真出されてましたねー」と、クスクス笑う。
「それって、全国紙?」と彩乃が尋ねる。
「です!」と親指を立てた。
「顔バレかー・・・」彩乃も手で目元を覆い、天を仰ぐ。
「向こうに戻ったら、大変そうですね・・・」と朝比奈。
タツヤは「でも、なんで最初のオレ達が死んでるってわかったんだ!?」と尋ねた。
「あ~、それオレも気になる~」とイチゴが言うと、全員が木下へ興味津々な視線を向ける。
「簡単な推理ですよー。 立花さんが、まず『嘘じゃない』って言ったじゃないですかー
そのあとで、『3人は死んでる』、『現在は』って、言いましたよねー?」
全員がその問いに頷く。
「5人と2人の時間差を考えれば、3人だけが死んでるって考えづらい。
もしかしたらー、5人は先に迷宮に潜って全滅したんじゃないかと思ったんですー」
「すご~」とイチゴが驚くと、タツヤがイチゴの前に“待て”と手を差し出す。
「いや、オレとイチゴが生き残って、3人が死んだ可能性だってあるだろ?」
「そうですねー、その可能性も考えましたよー。
でも、『現在は』って言葉が引っかかるんですよー」
「なぜ?」
「だってー、3人だけが死んだ状態で、そのままであれば、『現在は』って使いますかー?
でもー、本田さんと山下さんの2人は生き返った後の話なら使いますよねー?
『現在は』って・・・」
「“現在はー”って使わないかな?」と首を傾げながら真央が尋ねる。
「確かに使いづらいかも・・・でも、生き返った事実があるなら使いやすいかも・・・」
口元を手で押さえながら、視線を左右に動かしながら、俯き気味に彩乃が答える。
「すごいよ、陽菜!! 何よ、その推理!!」
朝比奈が興奮気味に木下の手を取り、ブンブンと上下に振る。
「ははは、まあミステリー物が好物なだけあるでしょー?
でもー、この世界のことが、何となくわかってきましたよー」
「ははは~、すっご~~~・・・」
イチゴが呆れ気味に首を少し傾げる。
彩乃は木下の腰に手を回し、体の向きを変える。
「え? 何? 力つよー・・・何、彩乃・・・」
木下は強引に向きを変えられ、驚きの声を出した。
「ちょっと、陽菜! あなた、そんな趣味あったなんて・・・
門番亭でもっと聞かせてよ!!」
彩乃は強引に回した腕で木下を押して、コンティル城の外門を抜けていく。
「わわわ、ちょっとー、彩乃・・・強いってー」
朝比奈もその直後をついていく。
「柏木さん、どうしたんだ?」
門を抜けていく3人を指さしながらタツヤが真央に尋ねた。
「彩乃さん、たぶんミステリー系も大好きなんだと思う。」
真央は鼻で笑いながら答えた。
“あぁ~”とタツヤが大きく頷く。
「オレ達も、早く帰ろ~」
「そうだな。」
タツヤがそう言うと、3人の後を追いかけた。




