第100話 夜明けの来訪者
100話ですが、この話は70話と71話の間の話です。
70話と71話の間には、アクトリア時系列で半年ぐらいの期間があるんですが、その半年の間の話を少し書きたくなったので、少し埋めていこうと思います。
当初、70.**として書き始めたんですが、何話書くか分からなかったので、100話として書き始めますw
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東の空がやっと明るくなり始めたころ、寝静まるアクトリアの住人にほとんど気づかれずに、木下陽菜乃は光の筋の中から教会裏に現れた。
気づいたのは、コンディル城にある迷宮の門番だった。
門番の男が、迷宮の入り口正面の方にあるナゼール教会に、光が降り注ぐのを見て慌てる。
「おい! あれ!!」
隣にいた同僚に肘で、“ドン”と小突く。
眠そうにあくびをしていた男は、「なんだよ・・・? わあぁ~・・・ふ・・・」と目を開けて、目を丸くして驚いた。
「ま、まさか! ら、来訪者なのか!?」
「多分・・・だが、この時間帯は皆寝てるから、誰も保護に行かないだろう・・・」
「ど、どうする? オレらは門番の時間だから行けないぞ!」
「今夜は騎士長が宿泊だったな・・・オレ、ちょっと報告に行ってくる!
しばらく、迷宮の番を頼む!」
そう言って、男は外城門への階段を登っていくと、内城門への石橋を渡り、城内へと入っていった。
残された男は、その動きをずっと目で追っていた。
「1人で門番って・・・・・・」
オオオオオォォ………
背中側の穴から不気味な音が聞こえ、男は「ヒッ!!」と体をビクッとさせると、持っていた槍を構えて迷宮の穴に向けた。
「こ・・・こええよ~~・・・・・・は、早く・・・帰ってきてくれぇ~~~・・・」
バンッ!!
高見台の方からドアが何かに当たるような音を響かせた。
その音に、ビクッと体を震わせ、上の方を見上げた。
ダッダッダッダッ・・・・・・
誰かが走っている音がした。
「セルディオ騎士長! 私は門番に戻りますので!」
「お前もついてこい!!」
「えっ・・・迷宮の門番は?」
「あそこは一人いれば大丈夫だ!!」
城門が開き、カンテラを持った二人が石橋を渡っていく。
途中、同僚の男が迷宮の方を見て、 “すまん!”と手を顔の前に立てる。そして、開け放たれている外城門を出て行った。
「ま、マジかよぉ~~~・・・」
オオオオオォォ……
男はビクリとして、首を回し視線を穴へとゆっくりと流した。
――― ナゼール教会裏
「こ、ここどこ? さっきまで・・・体育館で・・・」
木下は手に持っていたはずのフルートが無いことに気づく。
「あ・・・フルートが・・・」
そこで、正気になり周囲を見回す。
徐々に目が慣れてくる。
東の空は少し明るくなってきていたが、頭上では真っ暗で星が瞬いている。
「ほ、星ぃ!?」と、木下は目開いた。
外灯は夕方のオイルが切れ、どこも消えており真っ暗闇だった。
だが、星がまたたく空が、人工物と思われるような壁が星空を閉ざしていた。
木下は眉をひそめながら、その境界線を追って、首を横に振ると体を回していく。
「何か・・・ある・・・」
そして、後ろを振り返る。
「うわ・・・これ・・・・・・教会・・・?」
真っ暗な中でも目の前の教会は、聖堂の奥から24時間絶やされることのない聖体灯の淡い光が、ユラユラと教会の窓を世界に浮かび上がらせていた。
ゴシック調の巨大なバラ窓と、細く尖った鐘楼とその周囲に棘のような彫像が見える。
「ガーゴイル・・・?」
木下には目の前に広がる景色に親近感を覚えた。
木下の両親は、真摯な信仰を持つキリスト教徒だった。
その為、夏休みになるとヨーロッパ各地の教会に足を運んでいた。だからなのか、目の前に建っている建物をすぐに教会だと認識する。
「ま、まさか・・・ここって・・・フランスとか・・・?」
そんな時だった。 その教会の向こう側が何かに照らされ、オレンジ色の瓦や、目の前の教会のシルエットがはっきりと見て取れた。
ザッザッザッザッ………
木下は誰かが近づいてくる足音に気づき、慌てて隠れ場所を探す。
だが、すべてが真っ暗で隠れ場所が見つからなかった。
柔らかな光が足音と共に近づいてきて、木下の周りがぼんやりと見えるようになった。
木下は警戒して身構えた。
「私はセルディオ・ラグナス。 危害を加えるつもりはない!」
セルディオはそう言って、両手を掲げた。
後ろについて来た門番は、その行動を“なんだ?”と見上げた。
セルディオは後ろにいるその男に、「同じように行動しろ!」と声を出して指示を出す。
慌てて門番も「はいっ!!」と言って、両手を上げた。
木下はその行動に少し驚き、たじろいでしまう。
「え? 何・・・?」
そう言った矢先にセルディオは、
「ダ、ダメか? 前に来た来訪者に、初めて会う時に警戒心を解くには、こうすれば良いと教えられたんだが・・・?」と、両手を上げたまま言った。
そもそも海外だと思っていた木下は、言葉が通じることに驚いていた。
そして、その日本人らしい無抵抗の行動に目を丸くしていた。
「い、いえ、間違いではないですよー、ちょっと驚いただけです。」と警戒を解いて、自分自身も手を上げた。
木下の行動を見たセルディオは、緊張した表情からホッと緩ませる。
そして、「異世界からの来訪者の少女よ! 私たちはあなた達の来訪を歓迎します!」と手を差しだした。
木下はその言葉に“え?”となった。
「異世界?」
木下は、再び周囲を見回す。
先ほどより、東の空が明るくなっており、徐々に世界が明るくなり、周囲の状況が把握できるようになっていた。
近くの教会の姿ははっきりと認識でき、反対側の城壁は城壁を登るための階段も認識できた。
(こりゃ、マジなのかもー・・・)
「それで、私をどうするんですかー?」
「いえ、保護するだけですよ。」
思ってもいなかった言葉に木下は戸惑い、逆に警戒感を出す。
「いや、いや、保護って・・・囲いたいってことですか?」
木下は相手の言う話に、違和感を覚えていた。
「いえ、自由に生活してもらって大丈夫です。
当面の資金は城主が3か月分は負担します。
その間に仕事を見つけてもらえれば、それで大丈夫です。」
セルディオの説明を受けて、木下は余計に違和感を覚えていた。
(ここって一体どこなの・・・・・・
社会主義・・・? 進んでない資本主義で、“保護”ってあり得るのかしら・・・?)
「なぜ、そこまでやってくれるんですかー?」
「貴方たちの進んだ技術や知識を、我々の城主は欲しいんです!」
(その話は理解できる・・・)
セルディオの持つカンテラに視線を送った。
木下が警戒する様子を見て、セルディオは来訪者の名前をカタコトに口にした。
「シノハラナオヤ・・・サカキバラユウ・・・アサヒナユウ・・・タチバナマオ・・・カシワギアヤノ・・・カドハタリョウヘイ・・・トウドウトモヒサ・・・」
「え!?」
カタコトな発音で聞き取りづらかったが、知った名前に木下は驚きを隠せなかった。
「やはり、ご存知のようですね。
いいですか? 今言った来訪者は我々が保護しています。
なので、警戒を解いていただけると助かります。」
セルディオはそう言って、木下の方へ手を差し出すと柔らかな笑顔を見せた。
「全員、ここで保護されているんですかー?」
「はい、そうです。」
「・・・で、あれば・・・すぐ会わせてください・・・
貴方が名前を知っているだけかもしれないので・・・」
「もちろん、会っていただいて問題ありません。
我々は歓迎しますし、外から来る人間を誰一人として拒むことはありません。」
「・・・・・・。」
木下はそれでも警戒を解かなかった。
セルディオは門番の男に尋ねる。
「マオ=タチバナは今どこにいる?」
「昨日の夕方に迷宮に入りましたから、もうじき戻るかもしれません・・・」
「ゲートウォッチはどうだ?」
「今の時間帯は、管理人がいないので、対応できる者はいないと思います。」
徐々に世界が明るくなる中、木下の視界が徐々に色を持ち始めた。
バタタタタタタ…………キュキュキュッ……
鳩の群れが音を立てて、城壁から飛び立った。
木下はその群れを目で追った。
鳩の群れは城壁に沿って飛び、ぐるりと回って後ろ側から城壁の外へと飛んで行った。
光りが強くなる中、城壁外の障壁に光が当たり始めると、夜空の中にオーロラのように動く膜が浮かび上がった。
「あ、あれは・・・?」
「このアクトリアを封印する障壁ですよ。」
木下の問いに、嫌な物を見るようにセルディオが答える。
「封印・・・? 障壁・・・?」
飛んでいた鳩の群れが障壁にぶつかる。
木下はその瞬間「あっ!?」という声を上げた。
だが、鳩は何事もなく、その障壁の向こうへ消えていく。
「き、消えた・・・?」
驚く木下の横にセルディオが並び立つと、
「あの障壁は人間だけを拒みます。 人間だけを閉じ込める鳥かごなのです。」
次の瞬間、地平線から太陽が昇り、ザァ……っと光の筋が溢れた。
木下がその荘厳な光の筋を見て、「わっ」と、声を出した。
内城壁の上面から、何本もの光の筋が伸び、すぐ後ろの教会の鐘楼に光が当たると、コォーン……と、何度も鐘が鳴り響いた。
荘厳な鐘の音に木下が見上げていると、セルディオが持ってきたカンテラを開けて、火を“フッ!”と、吹き消した。
「そろそろ、行きましょうか。」
「どこへ?」
木下は視線をセルディオに向けて尋ねる。
「この都市の城主がいるコンティル城です。
本来、来訪者を保護する施設が、まだこの時間は開いてないのです。
なので、城の宿舎でマオたちが帰ってくるのを待ちませんか?
もうじき、住民達も目を覚まし、街も騒がしくなります。
ここでこうして問答するより、温かい飲み物でも飲みながら、この世界のことを説明させてください。」
木下にとって、セルディオのその提案は納得できるものだった。
だが、全面的に信じることはできなかった。
今までの話を頭の中で積み上げていく。
(消えた同級生の名前を知っているだけでも信ぴょう性はある・・・でも、会えない理由は信じられない・・・
技術や知識が欲しいというのは分かる・・・都市って言ったけど、都市と言うには真っ暗だった・・・インフラも整っていない・・・オイルが貴重な時代、中世と同じレベルってことか・・・)
「わかったわ。 でも、城内には入らない・・・出来れば外でお願いします。」
セルディオは、警戒を解かない木下に感心した。
状況を理解して、出来るだけ不利な状況に置かない姿勢に驚かされた。
(まだ、若いというのに、冷静な判断力を持っているな・・・大したもんだ・・・)
「おい! 悪いんだが、先に城に戻って、門衛室からテーブルと椅子2脚を、
迷宮が見える外城門の内側に設置しておいてくれ。
そして、侍女長に『温かいお茶を用意させるように』と私が言っていると伝えてくれ。」
門番をしていた男に、セルディオがそう指示すると、「分かりました!」と言って、明るくなったサン=ラミ通りを城に向かって走っていった。
セルディオは戻っていく門番を確認して、木下に顔を向ける。
「そう言えば、名前を聞いてませんでした。」
「木下陽菜乃です。」
「キノスタビナノ?」
セルディオは口をモゴモゴさせながら復唱したが、まともに発音できなかった。
眉間にしわを寄せながら続けた。
「・・・君たちの名前は本当に練習が必要なほど難しい。」
木下は先ほど口にした同級生の名前を、相当練習したのだと考えると、笑いがこぼれた。
「ははは、陽菜で良いですよ。」
「ヒナ! ヒナね! それなら練習しなくても呼べる! ヒナ! ヒナ!」と、セルディオが何度も復唱した。
「じゃあ、ヒナ、城へ案内しよう!」
二人は、どんどん明るくなるサン=ラミ通りを、話をしながら城へと歩いて行った。




