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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ
呪いのゲーム

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105/112

第100話 夜明けの来訪者

100話ですが、この話は70話と71話の間の話です。

70話と71話の間には、アクトリア時系列で半年ぐらいの期間があるんですが、その半年の間の話を少し書きたくなったので、少し埋めていこうと思います。


当初、70.**として書き始めたんですが、何話書くか分からなかったので、100話として書き始めますw


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

東の空がやっと明るくなり始めたころ、寝静まるアクトリアの住人にほとんど気づかれずに、木下陽菜乃は光の筋の中から教会裏に現れた。


気づいたのは、コンディル城にある迷宮の門番だった。


門番の男が、迷宮の入り口正面の方にあるナゼール教会に、光が降り注ぐのを見て慌てる。


「おい! あれ!!」


隣にいた同僚に肘で、“ドン”と小突く。

眠そうにあくびをしていた男は、「なんだよ・・・? わあぁ~・・・ふ・・・」と目を開けて、目を丸くして驚いた。


「ま、まさか! ら、来訪者なのか!?」

「多分・・・だが、この時間帯は皆寝てるから、誰も保護に行かないだろう・・・」

「ど、どうする? オレらは門番の時間だから行けないぞ!」

「今夜は騎士長が宿泊だったな・・・オレ、ちょっと報告に行ってくる!

しばらく、迷宮の番を頼む!」


そう言って、男は外城門への階段を登っていくと、内城門への石橋を渡り、城内へと入っていった。

残された男は、その動きをずっと目で追っていた。


「1人で門番って・・・・・・」


オオオオオォォ………


背中側の穴から不気味な音が聞こえ、男は「ヒッ!!」と体をビクッとさせると、持っていた槍を構えて迷宮の穴に向けた。


「こ・・・こええよ~~・・・・・・は、早く・・・帰ってきてくれぇ~~~・・・」


バンッ!!


高見台の方からドアが何かに当たるような音を響かせた。

その音に、ビクッと体を震わせ、上の方を見上げた。


ダッダッダッダッ・・・・・・


誰かが走っている音がした。


「セルディオ騎士長! 私は門番に戻りますので!」


「お前もついてこい!!」


「えっ・・・迷宮の門番は?」


「あそこは一人いれば大丈夫だ!!」


城門が開き、カンテラを持った二人が石橋を渡っていく。

途中、同僚の男が迷宮の方を見て、 “すまん!”と手を顔の前に立てる。そして、開け放たれている外城門を出て行った。


「ま、マジかよぉ~~~・・・」


オオオオオォォ……


男はビクリとして、首を回し視線を穴へとゆっくりと流した。



――― ナゼール教会裏


「こ、ここどこ? さっきまで・・・体育館で・・・」


木下は手に持っていたはずのフルートが無いことに気づく。


「あ・・・フルートが・・・」


そこで、正気になり周囲を見回す。

徐々に目が慣れてくる。

東の空は少し明るくなってきていたが、頭上では真っ暗で星が瞬いている。


「ほ、星ぃ!?」と、木下は目開いた。


外灯は夕方のオイルが切れ、どこも消えており真っ暗闇だった。

だが、星がまたたく空が、人工物と思われるような壁が星空を閉ざしていた。

木下は眉をひそめながら、その境界線を追って、首を横に振ると体を回していく。


「何か・・・ある・・・」


そして、後ろを振り返る。


「うわ・・・これ・・・・・・教会・・・?」


真っ暗な中でも目の前の教会は、聖堂の奥から24時間絶やされることのない聖体灯の淡い光が、ユラユラと教会の窓を世界に浮かび上がらせていた。


ゴシック調の巨大なバラ窓と、細く尖った鐘楼とその周囲に棘のような彫像が見える。


「ガーゴイル・・・?」


木下には目の前に広がる景色に親近感を覚えた。


木下の両親は、真摯な信仰を持つキリスト教徒だった。

その為、夏休みになるとヨーロッパ各地の教会に足を運んでいた。だからなのか、目の前に建っている建物をすぐに教会だと認識する。


「ま、まさか・・・ここって・・・フランスとか・・・?」


そんな時だった。 その教会の向こう側が何かに照らされ、オレンジ色の瓦や、目の前の教会のシルエットがはっきりと見て取れた。


ザッザッザッザッ………


木下は誰かが近づいてくる足音に気づき、慌てて隠れ場所を探す。

だが、すべてが真っ暗で隠れ場所が見つからなかった。


柔らかな光が足音と共に近づいてきて、木下の周りがぼんやりと見えるようになった。

木下は警戒して身構えた。


「私はセルディオ・ラグナス。 危害を加えるつもりはない!」


セルディオはそう言って、両手を掲げた。

後ろについて来た門番は、その行動を“なんだ?”と見上げた。


セルディオは後ろにいるその男に、「同じように行動しろ!」と声を出して指示を出す。

慌てて門番も「はいっ!!」と言って、両手を上げた。


木下はその行動に少し驚き、たじろいでしまう。


「え? 何・・・?」


そう言った矢先にセルディオは、


「ダ、ダメか? 前に来た来訪者に、初めて会う時に警戒心を解くには、こうすれば良いと教えられたんだが・・・?」と、両手を上げたまま言った。


そもそも海外だと思っていた木下は、言葉が通じることに驚いていた。

そして、その日本人らしい無抵抗の行動に目を丸くしていた。


「い、いえ、間違いではないですよー、ちょっと驚いただけです。」と警戒を解いて、自分自身も手を上げた。


木下の行動を見たセルディオは、緊張した表情からホッと緩ませる。

そして、「異世界からの来訪者の少女よ! 私たちはあなた達の来訪を歓迎します!」と手を差しだした。


木下はその言葉に“え?”となった。


「異世界?」


木下は、再び周囲を見回す。

先ほどより、東の空が明るくなっており、徐々に世界が明るくなり、周囲の状況が把握できるようになっていた。

近くの教会の姿ははっきりと認識でき、反対側の城壁は城壁を登るための階段も認識できた。


(こりゃ、マジなのかもー・・・)


「それで、私をどうするんですかー?」


「いえ、保護するだけですよ。」


思ってもいなかった言葉に木下は戸惑い、逆に警戒感を出す。


「いや、いや、保護って・・・囲いたいってことですか?」


木下は相手の言う話に、違和感を覚えていた。


「いえ、自由に生活してもらって大丈夫です。

当面の資金は城主が3か月分は負担します。

その間に仕事を見つけてもらえれば、それで大丈夫です。」


セルディオの説明を受けて、木下は余計に違和感を覚えていた。


(ここって一体どこなの・・・・・・

社会主義・・・? 進んでない資本主義で、“保護”ってあり得るのかしら・・・?)


「なぜ、そこまでやってくれるんですかー?」


「貴方たちの進んだ技術や知識を、我々の城主は欲しいんです!」


(その話は理解できる・・・)

セルディオの持つカンテラに視線を送った。

木下が警戒する様子を見て、セルディオは来訪者の名前をカタコトに口にした。


「シノハラナオヤ・・・サカキバラユウ・・・アサヒナユウ・・・タチバナマオ・・・カシワギアヤノ・・・カドハタリョウヘイ・・・トウドウトモヒサ・・・」


「え!?」


カタコトな発音で聞き取りづらかったが、知った名前に木下は驚きを隠せなかった。


「やはり、ご存知のようですね。

いいですか? 今言った来訪者は我々が保護しています。

なので、警戒を解いていただけると助かります。」


セルディオはそう言って、木下の方へ手を差し出すと柔らかな笑顔を見せた。


「全員、ここで保護されているんですかー?」


「はい、そうです。」


「・・・で、あれば・・・すぐ会わせてください・・・

貴方が名前を知っているだけかもしれないので・・・」


「もちろん、会っていただいて問題ありません。

我々は歓迎しますし、外から来る人間を誰一人として拒むことはありません。」


「・・・・・・。」

木下はそれでも警戒を解かなかった。


セルディオは門番の男に尋ねる。

「マオ=タチバナは今どこにいる?」


「昨日の夕方に迷宮に入りましたから、もうじき戻るかもしれません・・・」

「ゲートウォッチはどうだ?」


「今の時間帯は、管理人がいないので、対応できる者はいないと思います。」


徐々に世界が明るくなる中、木下の視界が徐々に色を持ち始めた。


バタタタタタタ…………キュキュキュッ……


鳩の群れが音を立てて、城壁から飛び立った。

木下はその群れを目で追った。

鳩の群れは城壁に沿って飛び、ぐるりと回って後ろ側から城壁の外へと飛んで行った。


光りが強くなる中、城壁外の障壁に光が当たり始めると、夜空の中にオーロラのように動く膜が浮かび上がった。


「あ、あれは・・・?」


「このアクトリアを封印する障壁ですよ。」

木下の問いに、嫌な物を見るようにセルディオが答える。


「封印・・・? 障壁・・・?」


飛んでいた鳩の群れが障壁にぶつかる。

木下はその瞬間「あっ!?」という声を上げた。


だが、鳩は何事もなく、その障壁の向こうへ消えていく。


「き、消えた・・・?」


驚く木下の横にセルディオが並び立つと、


「あの障壁は人間だけを拒みます。 人間だけを閉じ込める鳥かごなのです。」


次の瞬間、地平線から太陽が昇り、ザァ……っと光の筋が溢れた。

木下がその荘厳な光の筋を見て、「わっ」と、声を出した。


内城壁の上面から、何本もの光の筋が伸び、すぐ後ろの教会の鐘楼に光が当たると、コォーン……と、何度も鐘が鳴り響いた。


荘厳な鐘の音に木下が見上げていると、セルディオが持ってきたカンテラを開けて、火を“フッ!”と、吹き消した。


「そろそろ、行きましょうか。」


「どこへ?」

木下は視線をセルディオに向けて尋ねる。


「この都市の城主がいるコンティル城です。

本来、来訪者を保護する施設が、まだこの時間は開いてないのです。

なので、城の宿舎でマオたちが帰ってくるのを待ちませんか?


もうじき、住民達も目を覚まし、街も騒がしくなります。

ここでこうして問答するより、温かい飲み物でも飲みながら、この世界のことを説明させてください。」


木下にとって、セルディオのその提案は納得できるものだった。

だが、全面的に信じることはできなかった。

今までの話を頭の中で積み上げていく。


(消えた同級生の名前を知っているだけでも信ぴょう性はある・・・でも、会えない理由は信じられない・・・


技術や知識が欲しいというのは分かる・・・都市って言ったけど、都市と言うには真っ暗だった・・・インフラも整っていない・・・オイルが貴重な時代、中世と同じレベルってことか・・・)


「わかったわ。 でも、城内には入らない・・・出来れば外でお願いします。」


セルディオは、警戒を解かない木下に感心した。

状況を理解して、出来るだけ不利な状況に置かない姿勢に驚かされた。


(まだ、若いというのに、冷静な判断力を持っているな・・・大したもんだ・・・)


「おい! 悪いんだが、先に城に戻って、門衛室からテーブルと椅子2脚を、

迷宮が見える外城門の内側に設置しておいてくれ。

そして、侍女長に『温かいお茶を用意させるように』と私が言っていると伝えてくれ。」


門番をしていた男に、セルディオがそう指示すると、「分かりました!」と言って、明るくなったサン=ラミ通りを城に向かって走っていった。


セルディオは戻っていく門番を確認して、木下に顔を向ける。


「そう言えば、名前を聞いてませんでした。」


「木下陽菜乃です。」


「キノスタビナノ?」


セルディオは口をモゴモゴさせながら復唱したが、まともに発音できなかった。

眉間にしわを寄せながら続けた。


「・・・君たちの名前は本当に練習が必要なほど難しい。」


木下は先ほど口にした同級生の名前を、相当練習したのだと考えると、笑いがこぼれた。


「ははは、陽菜で良いですよ。」


「ヒナ! ヒナね! それなら練習しなくても呼べる! ヒナ! ヒナ!」と、セルディオが何度も復唱した。


「じゃあ、ヒナ、城へ案内しよう!」


二人は、どんどん明るくなるサン=ラミ通りを、話をしながら城へと歩いて行った。


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