98.9話 光の向こうに
マコールを使って迷宮の6階へ飛び、すぐそばの下り階段から7階へと降りるという作戦は、当初うまく行っているように思えた。
だが、7階に現れる強敵に対して、効率のよく攻略できずにいた。そして、何度も戦闘でパニック状態に陥りつつも、なんとか生き延びる。
しかし、生き延びることで、得るものはある。それは、レベルアップだ。
イチゴと木下とユージの3人がレベルアップの予兆を感じ、パーティは戦力アップを求めて撤退を決める。
彩乃がマコールを発動させると、7階の迷宮へと視線を流す。
「――明日こそは!!」
―――真央が消えて8日目
夜が明け、3人がレベルアップした。
セージが、再びユージとのレベルの差が離されたことに、イライラしていたが、8日目も同じように迷宮へと挑戦した。
3人がレベルアップしたことで、7階の攻略はずいぶんと楽になった。
だが、何度も戦闘をこなす中、MPとアイテムが底をついていく。
「ダメだ~・・・ここまでが限界だよ~! 柏木さん! 今日は諦めて~!!」
イチゴが彩乃の腕を引っ張る。
彩乃は唇を噛み、迷宮の闇を睨みつけた。
イチゴが腕を引き寄せ、彩乃の体を自分に向けた。
「大丈夫~、ここまでのマッピングは出来たから! 明日はココから始められるよ~!」
イチゴの言葉に唇を噛みつつも頷く。
「戻ろう!!」
そう言って、彩乃はマコールを発動させた。
―――真央が消えて9日目
ブゥゥーン!ブンッ! ブゥーン! ボッ! ボッ!
彩乃は素振りの音で目を覚ます。
「・・・朝?」
ブウーン! ブン!ブンッ!
木下が借りている拠点の中庭で、剣の自主練を行っていた。
何度迷宮に潜っても最下層にすら届かず、7階での撤退が続いていたからだ。
「くそ! くそっ! くそぉーっ!」
剣を振り払うと、そこで止まる。そして、その剣を地面に突き刺して片膝を落とした。
「はっ!はっ!・・・はあ・・・はあ・・・」
(こ、こんなんじゃ届かない・・・)
昨日の戦闘を思い出していた、剣を何度振ろうとも、忍者レベル6はその剣をクナイで受け、するりと避けてしまう。
(アイツらに余裕で勝つには、私の技術ではレベルが足らない・・・)
ギィー……
後ろの方で音がして、木下はその音の方を見上げた。
彩乃が板戸を開けた音だった。
「・・・陽菜・・・おはよう。」
「あっ! おはようございます!」
眠そうな彩乃を見て、「あ、もしかしてうるさかったですか?」と慌てて頭を下げる。
「ううん・・・眠いのは疲れ・・・疲労が溜まってるみたい・・・」
彩乃は首を押さえながら、頭を前後左右に動かして筋を伸ばす。
そして、指を組んで手のひらを向けて腕を伸ばして、体を左右に振って体をほぐす。
だが、筋肉の張りを覚え、少し辛そうな顔をする。
それを見て、木下は眉を寄せる。
(私たちのせいだ・・・)
木下、セージ、ユージの3人は、彩乃達に比べてレベルが低い。
前衛に必要な圧倒的な攻撃力が足らないため、どうしても後衛の攻撃力が必要になる。
そして、その攻撃力はMPという回数制限があるため、MPの早期枯渇につながる。
「ごめんなさい・・・私がもっと強ければ・・・」
俯いて謝る木下を見て、彩乃は窓枠に頬杖をつきながら、“フッ・・・”と目を伏せて笑う。
「陽菜は分かってないなあー・・・・・・」
「え?」と木下は顔を上げて彩乃を見ると、彩乃は窓枠に肘をつけた頬杖とは逆の手で、木下を指さす。
「あのね、陽菜はそもそも吹奏楽部なんだよ・・・
今は剣の指南ができる“真央くんと由宇”がいないから、全部自分自身で考えながらやってる・・・
私はね、そっちのほうが凄いって思ってるよ。
だから、いつも『陽菜に負けないように私も頑張らなきゃ・・・』ってね。」
「・・・・・・・・・。」
木下は何も言わず彩乃を見つめ続けた。
彩乃は頬杖を止め、窓枠に二の腕をかけるようにして手を伸ばして、窓枠に顎を乗せる。
「はあ~・・・・・・私の“我がまま”が強すぎて、皆の負担になってるよね・・・
なんか自己嫌悪に陥りそう・・・」
口を尖らせるようにして、目を強く閉じた。
「“我がまま”なんかじゃないです!」
その大きな声に彩乃は目を開ける。
「彩乃だけじゃないから!」
「え?」
「立花くんを助けたいって、全員が思ってますから!!」
「その通り!」
「そうそう、“我がまま”とは思ってないね!」
彩乃はどこからともなく聞こえた声に、窓から体を乗り出し、声の主を探す。
「あっ!」と彩乃が驚く。
3階の自分たちの部屋の窓からセージとユージが顔を出していた。
「柏木さんだけじゃないよ。 オレ自身が、親友の真央を助け出したいんだ。」
ユージは窓の片側の窓枠に背中を預けながら、彩乃を真っ直ぐに見つめながら、こぶしを握ってみせる。
「そうそう、コータはさ・・・まだ生き返らせれてないけどさ。
オレたちって6人が揃わないと、なんか調子出ないんだよね。
ん~、つまりさ・・・オレは、柏木さんのために迷宮に挑んでるんじゃないよ。
だからさ・・・」
セージは窓枠に手のひらを重ねる様に肘から先を乗せ、その手に顎を乗せ彩乃の方へ顔を向けてニコリと笑う。
「だから・・・?」
彩乃は上のセージを見ながら首を傾げる。
「んんっ・・・」ユージが、握った手を口に当てて咳払いをした。
彩乃は意味が分からず、再び首を傾げる。
「“大好きな真央の為に一生懸命にやってくれる”と、見てるオレ達もうれしいってこと!」
「大好きな真央の為に・・・・・・」彩乃は意味が分からず復唱すると、“ハッ”として、
「な、なな、な、何を言ってるのよ!!」
恥ずかしそうに窓に向かう体を反転させ、背中を向けた。
だが、耳が真っ赤なのは、下の木下にははっきりと見えた。
「あー、あーーーっ! ありがとう!!」
彩乃が背中を向けたまま大声で礼を言う。
「すっごく! 楽になったよ! じゃっ!!」
彩乃は窓の板戸を“パタン!”と逃げる様に閉めた。
その様子を見て、3人が笑う。
―――
彩乃は暗い部屋の中、窓辺に立ち床を見つめている。
「・・・早く戻ってよ・・・みんなが待ってるよ・・・」
寂しそうにつぶやいたが、表情は柔らかく微笑んでいた。
―――
9日目のこの日は、迷宮へは潜らずに休息日になった。
体力は戻るので体は動くのだが、精神の疲れが残り判断が鈍るという判断だった。
イチゴからの提案だったのだが、彩乃も賛同した。
これには皆が驚いたが、理由を聞いて納得した。
「最近分かったんだけど、頭の回転が悪くなると、呪文の選択をミスしちゃうの・・・」
「あ、それ分かる! 今まで真央が呪文の指示をしてくれてたもんな・・・
自分で考えて全部やると、間違えた時の精神的ダメージがデカいんだよな・・・」
彩乃が説明すると、タツヤも同意した。
魔術師と僧侶の二人が同じように思っていたことに、皆が驚いた。
「じゃあ~、今日は完全休養で! 休みだからって、ユージとセージは遊びまわらないでね~!」
イチゴが手をパンパンと叩き、パーティの全員に指示を出した。
「イチゴ、うるせー!」
「そうだ! そうだ! オレ達は遊び回らねえよ!」
ユージとセージが文句を言うのを見て、「じゃあ~、オレと戦闘訓練でもしよっか~?」
二人の首をつかんで、中庭へと出て行く。
「オレはもうちょい寝る。」
タツヤは眠そうにあくびをしながら、部屋へと戻って行く。
彩乃と木下が二人っきりになった。
見つめあい、「どうする?」と彩乃が尋ねる。
すると、木下が指をパチンと鳴らす
「買い出しに行きません?」
「買い出し? 武器関係?」
「違いますよー。 食材です。
さっき見たら、あんまりなかったんですよ。」
「あ、そっか・・・最近、毎日迷宮に潜ってたから・・・
篠原君と藤堂君は自炊しないから・・・雫だけだと、一人分の自炊だから買い出ししないからか・・・・・・うん、いいね。 買い出し!」
二人は、買い出し用の大き目のトートバッグみたいなバッグを持って拠点を出ると、城壁の方へと向かった。
――― アクトリア
二人はポルト通りからコンティル城を左手に見ながら外城門を目指して坂道を登っていた。
目的地は様々な出店が並ぶジャドー広場だった。
城壁と建物に挟まれた坂を上り切ると、ポルト通りとサン=ラミ通りが接続する交差点に来ると空が少し広くなった。
そんな時、右側の空に異変が起きる。
光の粒が空から降り注ぎ、次第に巨大化するように光の柱が空から降り注いだ。
「あ、あれ・・・彩乃・・・」
木下が光の柱を指さす。
彩乃が木下の指さす方向を向くと、瞳に光の柱が映り込んだ。
次の瞬間、彩乃がサン=ラミ通りに駆け出した。
「あ、彩乃っ!」
木下も慌てて彩乃の後を追いかける。
光の柱が収束していく。
「き、消えますよ・・・ハッ、ハッ・・・」
「い、急いで!!」
教会の祭壇側のステンドグラスの前を駆け抜け、城壁の方へ回り込んでいった。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・ハッ・・・ハァ・・・・・・」
すでに、教会裏には人が集まっていた。
彩乃はつま先で立ち、人の輪の中心を見る。
「なに!? なんなの? 何が起こったの・・・?」
知らない年上の女性が輪の中心にいて、錯乱状態だった。
彩乃はそれを見て、“クルリ”と向きを変えて、肩を落として歩き始めた。
「あ、彩乃・・・」
それを見て木下が声をかける。
「うん・・・大丈夫。 そうだよね・・・真央くんが戻る可能性は低いよね・・・」
そんな時誰かが叫んだ。
「また来たぞ!!」
その声に彩乃と木下が振り返る。
「あああっ!?」
「う、嘘でしょ・・・来訪者が連続で?」
空から光の粒が降り注ぎ始め、徐々に光が強くなっていく。
「危ないぞ、みんな下がれ!!」
先ほどの女性を囲んでいた輪が、“サァッ…”と広がる。
「え? え?」
「君、危ないぞ! こっちに来なさい!」
光の中にいた、女性をアクトリアの男が腕を掴んで女性を光から離した。
女性は一瞬抵抗するが、正体不明の光を避ける様に後ずさりしながら、光から離れていく。
光が次第に弱まり、その中から女性が現れた。
その女性は先ほどまでいた場所は椅子に座っていたのか、そのまま後ろに尻餅をつく。
「キャアッ!!」
ビックリした様子で後ろへ手をついた。
そして、その柔らかい感触に驚いて、手を顔の前に動かして確認する。
「え? ど、泥?」
そこで、初めて周りに視線を送り、驚きながら何度も首を振った。
「え? どこ・・・ここ? さっきまで居酒屋にいたのに・・・」
その姿を見た彩乃が「また、年上の女性・・・ある時から、来訪者って年上になった・・・」と口元を押さえて考え込む。
「ほ、本田さん!?」
先ほど来ていた女性が名前を呼ぶと、尻餅をついていた女性が声の方へ顔を向ける。
「し・・・らい・・・え? 白井さん!?」
名前を呼ばれ、白井が本田のそばへ駆け寄る。
「私も・・・今さっき・・・ここに・・・この人たちが私のことを来訪者って・・・・・・・・・」
彩乃は興味がなくなり、再びポルト通りへの方向へ歩み始める。
「陽菜、行こう・・・」
「う、うん・・・」
木下は速歩で彩乃の横へと並ぶと、同じ速度で歩く。
その歩みはトボトボと少し落ち込んでいるようだった。
「立花くんじゃなくて、残念でしたね・・・」
「うん・・・でも、教会裏に戻るってなると、自力で戻るってことだよね・・・」
「あ、そうですね・・・立花くんも“マコール”が使えますもんね。」
「生きてるなら、すぐ戻ってくるよね・・・8日後なんて・・・ありえない・・・」
落ち込む彩乃に、木下は返す言葉が見つからなかった。
眉を顰めて、瞬きが早くなり、少し俯き加減になった。
そんな時、後ろでザワザワと雑踏が大きくなる。
木下が振り返ると、先ほど来た白井と本田をアクトリアの住人が左側の方へと導いていくのが見えた。
(・・・ゲートウォッチに連れて行くんでしょうか・・・・・・)
教会を通り過ぎて、細い路地に入る時だった。
後方から光に照らされ、彩乃と木下の影が伸びていく。
木下がそれに気づいて振り返る。
空から再び光の粒が現れた。
「え・・・また・・・? あ、彩乃・・・また、光の柱が!!」
彩乃の肩を叩く。
だが、彩乃はもうすでに興味がなかった。
「ほら、彩乃! 来て!!」
木下は彩乃の手を取り、無理やり教会裏へ引っ張っていく。
「いいよ・・・もう・・・無駄だって・・・」
彩乃はすでに諦めていて、足を前に出そうともしない。
教会のステンドグラスの付近で、光が収束していく。
「ほら、早く!!」
そんな時、教会裏から、今までとは違う住民たちの反応と騒ぎ声が聞こえた。
その声に彩乃が顔を上げ、目を開くと足の動きが速まる。
教会裏に着くと、住民たちの輪はなく崩れており、全員が同じ方向を向いていた。
来訪者は見当たらなかった。
「何かあったんですか?」
木下が尋ねると、集まっていた住民の数名が振り返った。
「ああ、あんたらか・・・
いやね、髪の長い女性の来訪者が来たんだけどね。
何かを見たあと、向こうの武闘場の方へ走って行ったんだ。」
そう言って、走って行った方を指さした。
「なんで、逃げたんでしょう?」
「さあ~?」
「彼女たちを見てたわよ?」
女性の住民が指さす。
彩乃と木下がその指の指す方を向くと、先ほどやってきた白井と本田がいた。
二人は不思議そうな顔でこちら側を見ている。
だが、何事もなかったかのように住人に案内されて、お店が並ぶ通りをメインゲートの方へと歩いていく。
「しかし、いきなり3人連続とはね・・・何があったんだろうね。」
「3人連続なんて・・・10年ぶりに“5人”がやって来たとき以来じゃないか?」
「ああ、そうだね。 確かにあの時も連続だった。」
「もしかしたら、まだ来るかもしれないね・・・」
住民たちはそんな話をしていた。
木下は白井と本田を見て、“そうだ!”という表情を浮かべ、彩乃に向き合った。
「ねえ、彩乃。 買い物はそこの通りでやりませんかー?」
「え・・・? ジャドー広場じゃなくて?」
彩乃は首を傾げる。
「そこの通りのお店にも食料は売ってますよー。
そこでだったら、誰かやってきたらすぐ対応できます。」
「まあ、陽菜がそうしたいなら、私はかまわないけど・・・」
「よし、じゃあ、色々買い込みましょう!」
木下は片方の腕を上げて、お店の方へ歩いていく。
彩乃はそんな木下に苦笑してついていった。
木下は落ち込む彩乃の気を紛らわすため、食材を大量に買い込み、彩乃の持つ大きなバッグに突っ込んでいく。
「ねえ、ちょっと陽菜! こんなにいるの!?」
「いる、いる! あ、これください! これ、生ハムですよね?」
「そうだよ。 自分で好きなだけ削って食べるんだ。 熟成が進んでて美味いぞ!」
「きゃー! ください、くださ~い!」
「う、うそでしょ・・・?」
木下は、店主が差し出す“豚の太もも”を手に取った。
それを片手に取ると、蹄の方を手に持って、肩にロングソードを置くように太ももをトンと当てた。
「おほーっ! ねえちゃん、その細腕でスゲエな!」
店主が感心して拍手をする。
それを見て彩乃が「ブーーッ!」と噴き出した。
「あははははっ! まいった、マジで陽菜には勝てない!」
そんな時、後ろで光が溢れた。
彩乃と木下は、ジッとその光を見つめる。そして、徐々に光が収束していく。
「う・・・うそ・・・」
彩乃のバッグを持つ手がブルブルと震える。
光が完全に消え去ると、そこには真央がいた。
真央は周囲を見回し、教会の方を見つめた。
そして、城壁の方を見る。
彩乃は目に映るその姿に耐えきれず、バッグを“ドサッ”と落とした。
そして、一歩前に進み。
「ま、真央くん・・・!?」
声が聞こえたのか、真央が振り返る。
彩乃は口元を押さえ、感情を押さえようとするが、視界がグラグラと歪む。
「よ・・・よく・・・・・・よく無事で・・・・・」
瞳の中の涙が今にもあふれそうだったが、彩乃は真央を見つめて瞬きをすることすら忘れていた。
「彩乃さん!」
真央がそう言って笑った瞬間だった。
彩乃は走り出し、こぼれる涙がその軌跡を描く。
そして、思いのすべてを吐き出すかのように、頭から飛び込み強く首に腕を回した。
真央は驚いた様子だが、彩乃の腰に手を回す。
木下はその様子をお店の前で、クシャクシャな顔をして見つめていた。
「お、おい、ねえちゃん・・・そ、そんなに泣いて・・・どうしたんだい?」
肉屋の亭主がボロボロと涙を流す木下を見て、びっくりしながら恐る恐る声をかける。
「・・・グスッ・・・うれしいんです~~!
ズズッ・・・まさかこんな光景が見れるなんて・・・」
肉屋の店主が、奥さんからハンカチを受け取り、泣き続ける木下の涙をふき取る。
「彩乃・・・・・・よかったねえ~・・・」
店主の手からハンカチを取ると、自分であふれる涙をふき取り。
「ありがとうございます。 ちょっと、隠れさせてくれませんか!?」
「え? うちの店内ってことか?」
「ええ、あの二人から隠れたいんです!」
そう言って真央と彩乃に指を向ける。
それを店主と奥さんが確認すると“ああ~”と理解し、店内の奥さんが手招きする。
木下は、店の奥の方へ案内されると、店の奥の方から木下の泣き声が響きわたった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ あとがき
これで、最後の話付近のサイドストーリーは終わりです。
ラストは彩乃ではなく、それを見つめる木下陽菜乃の視点です。
陽菜は良いキャラだなあ~と思いながら書きました。
キャラ構成に結構厚みが出せたかな~と思ってます。




