98.8話 再び迷宮へ
――― 拠点(真央が消えて6日目)
地下7階からマコールを使って戻った彩乃たちは、城壁外の借りている拠点へと戻った。
戻るとすぐに、拠点にいた篠原たちに文句を言われた。
「オマエら、臭い! 野生動物みたいな匂いがする! まじで近寄るなよ!」
「え~・・・そんな匂うかな~?」と、イチゴが自分の匂いを確認する。
「この間の立花がいなくなった日より臭いぞ!!」
そう言われると、思い当たる節はあった。
マコールで迷宮から一気に地上に飛ぶと、理由はわからないが教会裏に必ず戻る。
教会は城壁から20メートルほどのところに建っているため、都市の中を通る必要がなく、すぐそばを通るサン=ラミ通りは内城壁の角塔につながり、その一番下には、外へ出ることが出来る門があった。
門と言っても、ウッディコが常駐するような大きな門ではない。
内城壁の壁から飛び出した角塔の角に、3人ほどが行き交うことが出来る程度の小さな門だった。
その角塔内部は、それほど高くないゴシック調の天井アーチが組まれ、門以外は密閉されたような空間になっていた。
そこを通って城壁外へ出たのだが、後から角塔に入った住人たちが、不快な表情を浮かべていたのを思い出した。
「あ~~、なんか思い当たるかもーですね・・・」
木下が、視線を上に流しながら、そんなシーンを思い出した。
迷宮での4日間、戦闘と探索に明け暮れ、キャンプを張っても体の汚れを拭きとる水などない。 それほど迷宮探索において、重量物となる水は、水分補給や食事だけに使うのみだった。
地下迷宮には、水脈に近い場所に水が湧き出している所もある。
強行探索でなければ、真央はそういう場所へ戻ってキャンプを張っていたが、今回の迷宮へ潜った理由は、急いで真央を救うためであり、水場を選ぶなど、パーティにそんな余裕はまったくなかった。
その為、ほとんど体の汚れはそのままに、陰湿な迷宮内を4日間潜っていたのだ。
「さっさと風呂入って来いよ!」
篠原は鼻をつまんで、シッシッ…と手のひらをはらった。
タツヤが驚いて「え? 風呂沸いてるのか?」と、尋ねた。
「沸いてるわけないだろ! “裏庭の温水器”の分だけで、その匂いと汚れを何とかしろよ!」
全員が、“まあ、しょうがない。”という表情で、浴室のある奥の方へと進んでいった。
「使った分の水は、ちゃんと補充しとけよ!!」
篠原が拠点の入口側から響いた。
―――
裏庭の温水器は、快晴と昼過ぎだったおかげで、お風呂で使う以上の温度まで熱くなっていた。井戸水を足して温度を下げ、全員が快適に入ることができた。
「あ~、水じゃなくてよかったね~・・・」
イチゴが湯船につかりながら、しみじみとつぶやいた。
「篠原と藤堂のおかげで、お風呂に簡単に入れるようになったよな・・・」
「あはは・・・そこは感謝しなくちゃね~」
*(この裏庭の温水器のお話はまた別の話で)
風呂から上がった後、全員が食堂に集まり、次の迷宮に対する攻略案を話し合っていた。
食堂には宿屋に残されていた6人座りのテーブルが6つ残されていた。
それを4つくっ付け、12人が余裕で座れるようにしてあった。
余った2つのテーブルは、食堂の壁際に寄せられていた。
迷宮であまり水分を取れなかったため、テーブルには水が入った大きめのピッチャーと、お茶の入った大きな急須が載っていた。
おのおの好きな方を自分のマグカップに注ぎ、席に腰を下す。
だが、迷宮から戻ってお風呂で暖まった体は眠気が押し寄せ、頭がよく回らない。
そんな中、彩乃だけは今すぐにでも迷宮に戻りたかった。
「今日は無理だけど、明日起きたらすぐに迷宮に潜りたい!」
その無茶な発言に、腕を組み黙り込む者、天井を仰ぐ者、俯き彩乃から視線を外す者、様々だったが、“それは無理”という意志の表れだった。
その皆の態度に彩乃が苛立ち、「だったら、意見を言ってよ!!」と大きな声を出した。
「うん、そうだね・・・・・・柏木さんの言いたいことはわかる。
でも、無策でただ突っ込むのは、無謀だというのが今回の探索で分かったことだよね。」
タツヤは目を伏せ、首を少し傾けると、その生え際付近をゆっくりと撫でながら言った。
タツヤの言葉に彩乃はテーブルに視線を落とす。
「なあ・・・根本的に戦略を変えないと、無理じゃないか?
オレとセージのレベル上げを優先させるとかさ・・・」
今回の遠征で大ポカを犯し、ユージは自分たちが実力不足だということを認めたうえで、そう訴えた。
「私は、火力を増やした方がいいと思います・・・」
木下がそう言うと、タツヤが「火力? 魔術師を増やすってことか?」と尋ねた。
「いえ、立花さんがいなくなって、火力不足になってるので、
私が上級職に転職してってことです。」
「侍に転職ってこと~?」
イチゴが尋ねると、木下は「そうです。」と頷いた。
「そんな・・・て・・・ない。」
彩乃が何かをつぶやいたことに気づき、全員が彩乃に視線を送る。
「そんな時間なんてないよ!!」
彩乃が吐き捨てるように、木下に向かって言い放つと続けて口を開く。
「転職すると、レベル1に戻るんだよ・・・
またレベルアップからなんて、いつになったら最下層に到達できるのよ!?」
彩乃の言葉に、全員が言葉を失う。
このパーティには余力がなかった。
迷宮に潜るメンバーが限られている条件下では、出来る選択肢は本当に少なかった。
もし仮に一人でも死んだ場合、恐ろしいほど攻撃力が落ちるのは誰もが理解していた。
「こんな時・・・真央だったらさ・・・どんなこと言うんだろうな・・・・・・?」
ユージが悔しそうに唇をブルブルと震わせ、みんなに尋ねた。
「真央ならか~・・・アイツのゲーム脳だったら~・・・そうだね~・・・」
コンッ…! イチゴが「う~ん・・・」と、椅子の背もたれに後頭部をぶつける。
「ポーションを大量に持ち込むとか?」
セージが思いついたことを、何も考えず言うと、
木下が反応して「それはゲーム脳じゃなく、普通の考え方ですね。」とあっさり否定する。
「性能のいい武器でも見繕うってのはどうだ?」
タツヤが頬杖を突きながら、マグカップの水をひと口飲み、そのカップをみんなの方に向けて尋ねた。
「確かにそれはありかも・・・オレ達の装備は安物が多いから、攻撃力は上がるかも・・・」
ユージが“それはいい!”と、タツヤを指さした。
「そんなこと・・・真央くんは言わないわ。」
「だよなあー・・・」彩乃の突っ込みにタツヤが同意する。
ユージは二人の態度に“え~っ・・・”と眉を寄せる。
「もう、いっそのこと最下層まで一気に飛んじゃう~?」
イチゴが天井を見ながら、投げやりにつぶやいた。
それを聞いて、彩乃が目をパチパチと驚いた表情になった。
「それ、真央っぽいな・・・」
タツヤがイチゴを指さす。
イチゴは「えっ!?」と、驚いて頭を起こした。
「それ、いいよ! なんで思いつかなかったんだろう!?」
「ですね! さすが、立花くんと付き合いが長いだけありますね。」
「うん、うん!」
彩乃と木下がそう言って、お互いの両手を組んで頷く。
「下層の敵とならレベルアップも早いもんな! オレ達もどんどん強くなれる!」
「ああ、早くみんなに追いつくナイスアイデアだ!」
イチゴが盛り上がるメンバーを首を振って話を聞く。
「ちょっと待って~!」
イチゴが立ち上がって、両手を広げ、テーブルに座るメンバーに向けた。
盛り上がっていたメンバーが、発言を止め、イチゴを見つめた。
「どうした、イチゴ?」
タツヤが尋ねると、イチゴが「ふぅ~っ」と深呼吸した。
「言った本人がこういうのもアレだけど、6階層より下は無理だから!」
「え?」と、彩乃は続く言葉が出なかった。
「マッピングが・・・正確なマッピングが7階層は出来てない。」
「嘘だろ!? マッピングしてたじゃないか・・・」
「マッピングはね・・・敵が強かったから索敵優先で、
迷宮の正確な距離や位置関係がとれてないんだよね~
それに~、10階のこと覚えない?
宝箱の“テレポート”の解除をミスって、テレポートしたよね・・・
その先に進んだら、偶然あの覆面の男と遭遇した。」
イチゴの説明で、全員が思い出した。
「確かにそうだったな・・・」
「そういや、あの時、真央がめっちゃ焦ってたな・・・」
「ああ・・・真央が言うには、
ゲームの場合、“10階は通路以外は、全部石だ”って言ってたな。」
「そうそう、それで、“全滅だって思った”って言ってた。」
タツヤとセージとユージが思い出しながら、話し合っている。
「・・・じゃあ、行けるのは6階までってこと?」
彩乃が尋ねた。
「6階は6階だけど、下り階段の目の前までは正確に記録してる。」
「じゃ、じゃあ7階入り口ってことですか?」
「そゆこと~」
木下が驚いた顔して、彩乃を見つめる。
「それでも、7階まではすぐ行けますね・・・」
彩乃が木下を見て、「うん、うん。」と頷いて顔が明るくなった。
その様子を見たイチゴが、目を擦ってあくびをする。
「じゃあ~、明日からの方針は決定だね~・・・もう休ませて~、オレ限界~~」
そう言って、座るとテーブルに突っ伏した。
「そうだな・・・とりあえず、休もうか・・・セージとユージは明日、武器と防具を探してくれ。」
イチゴの様子を見て、タツヤも眠そうにしながらセージとユージに指示をだした。
二人は頷いて、「わかった。」と答えた。
「じゃあ、そういうことで・・・オレももう限界だ・・・」
タツヤは立ち上がると、イチゴをゆすって起こす。
「イチゴ、寝るならベッドに寝ろ。こんな所じゃ、体休まらないぞ・・・」
イチゴは「うぅ~ん」と体を起こし、両腕を伸ばす「引っ張ってって~」とタツヤに訴えた。
タツヤは「はいはい・・・」と、イチゴの腕を引っ張って、立ち上がらせる。
「あとは、自分で歩け!」
「え~~・・・」
男4人はゾロゾロと食堂を出て行った。
その様子を彩乃と木下が、穏やかな顔で見つめていた。
「私たちも休みましょうか・・・」
木下がそう言って立ち上がると、「陽菜・・・いつもありがとうね・・・最近、余裕がなくて・・・」と彩乃が申し訳なさそうな表情で見つめて言った。
「なーに言ってるんですかー。
私たち、口加高校“迷宮部”じゃないですかー!!」
彩乃はポカンとした表情になって固まると、そのあと「ブーッ・・・!」と噴き出した。
「あはは、それ・・・久しぶり聞いた。 その設定生きてたんだ。」
そう言って、目じりを手で拭きとった。
「え~、なんで死んでる設定なんですかー!?」
木下は手をブンブンと振って口を尖らせた。
彩乃は腹を抱えて笑う。
「だ、だって、たまにしか出てこないじゃない、“迷宮部”ってさ。」
「しょうがないんです! 忘れちゃうから!」
「ブフーッ! それ、自慢しないで・・・あー、おかしー・・・」
そんな話をしながら、彩乃と木下も食堂を出て行く。
そのあとも、廊下の方から笑い声がずっと響いていた。
――― 真央が消えて7日目
午前中、パーティメンバーは分担して迷宮で必要な物品を購入し、拠点へと戻った。
それらを拠点の入口を入った所にあるロビーに続く長いカウンターの上に並べると、それらをメンバーに振り分けていく。
「迷宮で何日も潜らない予定だと、荷物も少ないな・・・」
買ってきた物をリュックに入れながら、タツヤがつぶやくと、イチゴが同意した。
「だね~、食料と水が減ると、ずいぶん軽くなるね~」
「セージとユージは良い武器あったか?」
タツヤが二人に視線を送る。
「ガラリエさんのとこ行ったら、“$10,000”でコレくれた。」
そう言って、買った剣をテーブルに乗せる。
「あと、コレ・・・“$3,000”」
ヘルメットをテーブルに乗せた。
木下が剣を手に取り、鞘から抜き出す
“ツィィー……ン”と、金属が共鳴するような音を響かせた。
木下はそれを縦に構えて見つめる。
「ロングソード+1だね。 今まで使ってたのより、ダメージが通るよ。」と説明した。
「ひょ~!」とセージとユージが、パチン!と手を合わせた。
「調子に乗るなって! ガラリエさんもそれを心配して“兜+1”も出してくれたんだな。
まあ、少しは防御力が上がる。」と、タツヤが説明した。
「じゃあ、そろそろ行くわよ!」
パンパンと手を叩いて彩乃が言うと、全員が彩乃に向き合った。
「ええ・・・口加高校“迷宮部”、ファイトでーす!」
木下が「ファイトォー」と、手を振り上げると、彩乃が顔を背ける。
すると、木下は“なんでー?”という顔をした。
「ああ、今回の対策は万全だ!」
タツヤはグッドサインを彩乃に示した。
「まかせろ!」
「腕がなるな!」
セージとユージはこぶしを作ると、お互いの小指球をぶつけ合わせた。
「セージとユージは、調子に乗らないでね~~」
「あ、イチゴ、てめえ・・・盛り上がってるところを落とすなよ~!」
そして、全員がリュックを手に取ると拠点を出て、アクトリアの城壁を目指して土手を登っていった。
――再び迷宮へ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
98.75話でサイドストーリーは終わりかな・・・って思ってたんですが・・・
文字数が増えすぎたので、ここで一旦切り。
なので、話数が98.8話になりましたwww
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
98.75話でサイドストーリーは終わりかな・・・って思ってたんですが・・・
文字数が増えすぎたので、ここで一旦切り。
なので、話数が98.8話になりましたwww




