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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ
呪いのゲーム

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第98.5話 届かない場所

真央が消えてから4日が経っていた。


イチゴ、タツヤ、彩乃、木下、セージ、ユージの6人は、3日目の昼頃に迷宮に潜り、地下4階で一晩を過ごした。


そして4日目の今日、4階と5階を踏破し、6階に入った所でキャンプを張っていた。

持ち込んでいる乾燥させたヤギの糞で小さな焚火を焚き、温かい食事と暖かい飲み物を用意する。


「ねえ、もっと早く進めないの!?」


彩乃は迷宮攻略の速度が上がらないことに、イライラを募らせていた。

だが、それは皆も同じだった。


「わかってる・・・わかってるんだ・・・

オレとセージが、足を引っ張ってる・・・」


ユージが自分の両手を見つめ、そして、悔しそうにブルブル…とこぶしを握り締めた。


「くっ・・・」


セージはユージの言葉に何か言いたそうになったが、俯き迷宮の床を見つめた。


(・・・・・・言いたいことはわかってるさ・・・

だけど、オレのレベルが低いのは、蘇生が遅かったのが原因だ・・・オレのせいじゃねえ・・・)


焦る彩乃の肩を木下が掴むと、“休むように”と自分の方へ引き寄せる。


「彩乃、あなただってもうMPが尽きそうなんでしょ?

休まないと火力ない状態では進めないよ・・・」


「そ、そうだけど・・・」


木下の正論に次の言葉が見つからず、彩乃は視線を落とす。


「こんな時、焦っちゃダメだ。」


タツヤが皆の傷を回復させながら、温かいお茶を配る。


「オレの回復魔法も、これで打ち止め・・・ここで、一旦休まないとMPが戻らない。

でも、地上の睡眠と違って半分程度しか回復できないから、明日はもっと辛くなるな・・・」


そう言うと、壁を背もたれにするようにタツヤはズルル…と座り込み、マグカップの熱いお茶をすすった。


「回復ポーションの残り確認しておいてくれよ・・・

撤退時に必ず1個は残しておくように・・・」


タツヤは“ハッ!”として、手で口元を押さえた。


「・・・・・・それ、立花くんが・・・いつも口酸っぱく言ってましたね・・・」


タツヤが顔を上げて木下を見る。

木下は疲れ切った表情だったが、タツヤに笑みを返す。


「他に何でしたっけ・・・・・・

『休憩は必ずちゃんと寝て、少しでも回復に努めてくれ』・・・でしたね。」


タツヤは小さく頷き、「ああ・・・いつも、言ってた・・・」と、口元を少し寂しそうに上げる。


バサッ!


その音に気づいて、タツヤと木下が音の方へ視線を流すと、先ほどまでお茶をすすっていた彩乃が、迷宮の床に薄い毛布をかぶって横になっていた。


それを見て、タツヤと木下が見つめあい、やさしく笑う。


「オレはね~、『疲れてると思うけど、斥候を頼む』って、よく言われてたな~」


その声に“ハッ”として、二人は声がした迷宮の奥の方へ視線を向ける。

すると、その迷宮の闇の中から、ゆっくりと浮き上がるようにイチゴが現れた。


イチゴは横になっている毛布をかぶっている彩乃に視線を送る。

毛布が微かに震えているのを見て、見つめるだけで声はかけず、辛そうに眉を寄せた。

「・・・・・・。」


「イチゴか・・・どうだった?」


タツヤがイチゴに尋ねると、イチゴはタツヤと木下の近くまで寄ってくると、マッピングしている地図を床に広げる。


「トラップはいつも通り稼働中だね~。落とし穴に回転床~、変わってはいなかったよ~

モンスターも、いつもと同じやつばっかだった・・・

ただ、真央がよく言ってたけど~、『『『イレギュラーなモンスターは必ず出る!』』』」


三人は同じ言葉を言い合い、お互いを見つめて笑った。


「じゃあ~、いつも通りオレから見張りやるよ~。

タツヤと柏木さんの二人はMP回復に努めて・・・

順番はオレ、木下さん、ユージ、セージで・・・それで、いい~?」


イチゴは壁際で休んでいるユージとセージに視線を送ると、二人は片手を上げて返事をすると、毛布を口元まで上げた。


「じゃあ、お先に休みます。」


木下も毛布に包まり、硬い床に横たわった。

タツヤは手をイチゴに一度上げると、横に置いていた毛布を手に取り足元に広げると、肩まで上げて壁に背中をつけた。


イチゴ以外が眠りにつくと、迷宮の闇の中に静寂が訪れた。

その闇を嫌がるようにイチゴが燃え尽きそうな火に追加の燃料をくべると、火がボッ!と大きくなり、迷宮の壁にユラユラと影が揺らめいた。


イチゴは火にかけていた小さな鍋から、お湯を自分のマグカップに注ぐと、それを慎重にすすった。


「あちっ・・・」


舌をペロッと出して、熱さに耐える表情を浮かべ、視線を彩乃に向ける。

震えていた体は、今はもう震えていない。

静かな呼吸で肩の位置の毛布が微かに上下していた。


イチゴは視線を戻して、焚火を見つめて、迷宮の天井を見上げる。


「真央~・・・早く戻ってきてくれよ~・・・・・・」


イチゴの独り言が、迷宮の闇に溶けて行った。



――― 5日目(迷宮に潜って3日目。)



迷宮では、朝を迎えたという認識はない。

アクトリアの地下迷宮に、地上の光は一切届かないからだ。


暗く陰湿な地下迷宮は、同じような通路が続き、行き先は闇に覆いつくされている。


2時間おきに交代で見張りを務め、最後の見張りのセージが全員を起こす。


「――時間だ・・・そろそろ、みんな起きようか・・・」


全員が目を覚まし、“のそり”と上半身を起こし眠い目を擦った。

だが、寝る前よりは体力は回復し、体は動くようになっている。

そして、MPも完全ではないが回復していた。


わずかな携帯食を口に入れ、重い体に鞭を入れるように立ち上がる。

固い迷宮の床で寝て、カチカチに固まった身体をほぐす。


「ロミルマ・・・」


タツヤは、“LOMILMA”と描いて、迫る真っ暗な迷宮の闇をパーティから押し戻すと、全員が“ホッ”と一息ついた。


最後にキャンプの跡片付けを全員で行い、食料の残りに危機感を感じた。


「これ・・・帰路を考えたら、進めるのは今日が限界ですよね?」


木下が、リュックの口を覗き込み、青ざめた表情で全員に確認する。

彩乃は唇を噛み、何も言わなかった。


「ねえ~、マコールって、今だと何回使えそ~?」


イチゴが彩乃に尋ねると「えっ?」と驚いた顔をした。


「イチゴ、何か思いついたのか?」


タツヤが尋ねると、イチゴが頷き、「どう~? 何回いける?」と、再度彩乃に尋ねる。

彩乃は視線を左右に動かして考える。


「今の感覚だと・・・多分、4回・・・

ううん・・・確実な回数なら3回!」


「3回・・・か・・・

じゃあさ~、最大火力のビルトウェイトは、2回まで!」


イチゴが指を二本立てると、「2回ってなんだ?」タツヤが尋ねる。


「つまり~、帰りはマコールで一気に地上まで飛ぶってこと~

これなら、食料の限界まで潜れるよね~?」


イチゴの提案に、彩乃の顔が明るくなり、手に持つ杖に力が入る。


「うん、うん! それなら・・・」


「ただし~、ビルトウェイトを2回使って勝てないような状態になった時も、即時撤退だからね~。」


「うん、わかったよ!」


「みんな、それでいいよね?」


イチゴが全員に確認する。


「オレもそれでいいと思う。」

「納得です!」

「オッケーだぜ。」

「今はそれが最善策だと思う。」


「よ~し・・・じゃあ、行ってみよ~!」


イチゴがそう言うと、木下、ユージ、セージが先頭に立ち、迷宮の闇へと入っていった。



―――


結局、6階では彩乃の最大攻撃魔法は使うことはなかった。

十数回目の戦闘で、一番レベルが低いセージにレベルアップの予兆が表れる。


「来た・・・レベルアップだ・・・」


セージは剣を持つ手をジッと見つめる。

それをみたタツヤが、「みんな! 止まってくれ!」と、迷宮を進もうとするメンバーに声をかける。


「なあ、ちょっと早いがここでキャンプしないか?

セージのレベルアップで、今までより攻略の効率は上がるはずだ。」


まだ限界点でもない3日目の探索をここで中断することは、食料に関してはある意味負担がかかることだった。

また、迷宮内での休息による睡眠では、環境の悪さにより地上でのレベルアップに比べると、パラメーター値の下降が多く発生し、上級職へ転職したい場合には条件が良くはなかった。


だが、パーティの戦力としては、たった1人のレベルアップでも地下迷宮の深層において、その恩恵は計り知れなかった


「ここで休息? まだ、私のMPは余裕があるけど・・・?」


彩乃が不満そうに尋ねた。


「ギリギリまで頑張って休憩するより、余裕をもって休憩した方が、

回復量の上乗せで、次につながるはずだ・・・」


タツヤが休憩の意味を説明すると、木下とユージが頷き、休憩することに賛成する。


「そうですね・・・私もその方が次につながると思います。」


「オレからも頼む!!

現状さ・・・みんなの足を引っ張っているオレも、

少しはパーティに貢献できるようになりたいんだ!!」


「セージ・・・」

パーティの中で2番目にレベルが低いユージにはセージの気持ちがよく分かった。


彩乃は立ち止ったまま、迷宮の奥へ視線を送り続けている。

それを見たイチゴが彩乃の背中に腕を回す。


「イチゴくんも・・・みんなの意見に賛成なの・・・?」


「柏木さんと同じように、先に進みたい気持ちはあるよ~

でも~、少しでも戦力が上がるのは、先に進むうえでは必要なことだと思うよ~

あと~、このパーティの最大火力を持つ柏木さんには、出来るだけ回復して欲しいかなぁ~」


彩乃は少し驚いた表情を見せ、イチゴを見つめた。


「なに~? どうしたの?」


「その言い方・・・真央くんみたい・・・」


「あれ~? そうだった?」


「うん・・・そんな風に言われたら、休まないわけにいかないな・・・」


彩乃の肩から強張った力が抜け、立てて持っていた杖を下ろした。

それを見て、イチゴが振り返ると「オレと柏木さんも、休憩に賛成だよ~!」と言うと、全員が持っていた荷物を床に降ろした。

そして、荷物を引っ張り出すと、キャンプの準備を始めた。


迷宮の闇の中に火が灯り、辺りを照らすと不気味な影を迷宮の壁に伸ばした。



――― 6日目(迷宮に潜って4日目。)



セージはレベルアップの睡眠のため、キャンプの見張りにはつけなかった。

その為、最初のイチゴが3時間、木下とユージが2.5時間の見張りでやりくりをした。


見張り最後のユージが、火を大きくして食事の準備を始めた。


その音に目が覚め、ゴソゴソとセージが起き上がり、体の調子を見る。

タツヤは体を痛そうに、肩のあたりを押さえ、首を何度も回した。


「セージ、どんな感じだ?」


タツヤが尋ねると、セージが立ち上がりロングソードを構えると、何度か振り下ろす。


「剣がさ、軽くなったよ・・・剣速も上がってる・・・」


「パワーはどうでしょうか?」


木下が立ち上がり、ロングソード+2を手に取ると、打ってこいと構えた。

セージは舌で上唇を舐めると、中段に構えて木下に飛び込む。

そして、ロングソードを振り上げて、力いっぱい振り下ろした。


ギィィィーーンッ!!


木下はそれを片手で左から右へと振り払った。

そして、剣を持つ手を見つめ、手に残る感触を確かめる。


「これなら、ヴァンパイア・ロードにも届きそうですね・・・」


「よし! よし! よーしっ!!」


セージは木下の言葉に、力強く顔の付近でこぶしを作った。

ヴァンパイア・ロードは防御力が高く、回復能力を持ち、セージのこれまでの実力では回復能力を超えた攻撃ができないでいた。

それを木下が倒せると保証してくれたのだ。

何度も、何度もこぶしを振った。


「柏木さんはどう?」とイチゴが尋ねると、「うん・・・4回はいける! もしかしたら5回・・・ラヤリトも20発は撃てる・・・これなら・・・」


彩乃は迷宮の闇をジッと見つめた。



―――



パーティは6階を進んでいた。

セージのレベルアップにより、格段に進み具合はスムーズになっていた。


「恐ろしいぐらい順調だな・・・」


ユージがそう言うと「オレのレベルアップのおかげだな・・・持ってる男、セージ様はやっぱ違うだろ!」とセージがのぼせるように言う。


「まだ、オレの方がレベルは上なんだが?」

「それはお前がさー、先に蘇生されたからだろ!!」


気が緩んだのか、急にパーティが騒がしくなった。

それにイチゴが難色を示す。


「木下さん・・・あの二人を出来るだけサポートしてくれる?

なんかイヤな予感がする・・・」


木下に近づき、小声で指示を出す。


「分かってます・・・

力が上がってすぐは、テンション上がるのは自分でも経験ありますから・・・」




この予感めいた感覚は、7階への下り階段の直前での戦闘で現実となった。


フロスト・ジャイアント×6、ドラゴン・ゾンビ×4、マーフィーズ・ゴースト×2との編成だった。

全部、魔法が効きにくい敵構成だった。


彩乃は嫌な予感がした。

すぐにドラゴン・ゾンビへ“ラカリト”を発動させる。


しかし、窒息系の魔法はゾンビには効果が薄い上、魔法無効化の効力も相まって、倒せたのは1体だけだった。


(くそっ・・・対ゾンビの呪文を間違えた・・・)彩乃は心の中で後悔した。


タツヤはそれを見てすぐにドラゴン・ゾンビに“ディスペル”を試みる。

だが、ドラゴン・ゾンビはすべて無効化してしまった。


「くそ、ダメか・・・」


木下は防御力の低いフロスト・ジャイアントを2体倒し、同じようにフロスト・ジャイアントを攻撃するようにユージとセージに指示を出した。

だが、ユージとセージは指示を聞かず、マーフィーズ・ゴーストへと攻撃を始めた。


「あ、バカっ!!」


結果、マーフィーズ・ゴーストを倒せず、逆にマヒ状態にされてしまった。

これにより、前衛は木下一人だけ、イチゴが仕方なく前に出る。

だが、どう考えても無理があった。


タツヤは慌てて、ユージのマヒを解くために“ジアルコ”を発動させた。

ユージがマヒから回復し、前衛に戻るが、ドラゴン・ゾンビがブレスを吐き出した。


「うわあぁーーっ!!」


広範囲攻撃のブレスによって、全員が大きなダメージを食らった。


「くっ・・・」


彩乃は危機的状況を打破するため、“ビルトウェイト”を発動させる。


「みんな下がってっ!!」


彩乃がそう指示を出すと、近接していた木下とイチゴが後ろへ下がる。

ユージは意味がわからず動かない。

慌てて、イチゴがユージの腕をつかみ後ろへ引っ張り込んだ。


それを確認して、彩乃は最後の1文字“t”の横棒をかき込んだ。

直ぐに発動し、敵の集団に巨大な渦を巻く炎が落下し爆発した。


ドゴォォォーーー・・・ンッ!!


轟音と激しい爆炎の熱が広がり、前衛の木下とイチゴとユージの肌をジリジリと焼く。

そして、迷宮が爆発の影響でグラグラと振動した。


爆発の炎の中で、敵モンスターがバラバラになったあと、炭となりボロボロと崩れていくのが見て取れた。


その隙に、タツヤがセージのマヒ状態から回復させる。


だがしかし、それでもHPが多いドラゴン・ゾンビが傷つきながらも2体生き残った。


「陽菜っ! イチゴくん!」


彩乃が叫ぶ前に、二人は残った2体へと突っ込んでいた。


弱ったドラゴン・ゾンビは二人の敵ではなかった。

一撃で霧散していく。


タツヤがハァハァ…と荒い息遣いで片膝をついた。


「か、勝てた・・・のか・・・・・・」


木下が座り込んでいるセージの肩に力一杯蹴りを入れた。


ドガンッ!


セージは体を横に捻るようにして、迷宮の地面に倒れ込む。

ガガン…!と鉄製の鎧が地面にぶつかり激しい音を響かせる。


次に木下はユージの首元を掴むと、捻りあげるようにして腕を伸ばす。

ユージはつま先立ち状態となり、木下の腕を手で掴み、息ができるようにブルブル…と耐えた。


「あんたたち、何やってんの!! パーティを全滅させる気なの!?」


「そ・・・そんなつもりは・・・」


ユージは口を開けない、セージが転がった身体を起こしながら、弱弱しく口を開いた。


「じゃあ、なんで私の指示を無視したの!?」


「そ・・・それは・・・・・・」


木下はユージをセージの方へ投げ飛ばした。


ガシャガシャン!


二人はぶつかり激しい鎧の金属音が響いた。


「立花くんが戻ったら、私はこの人達とはパーティを組めません!!

いえ! 絶対組まない!!」


木下は二人のあまりのわがままな行動に激怒して、怒鳴った。

イチゴとタツヤは、ここに来ての内部崩壊に、悲痛な表情を浮かべた。


「どうする? この状態で先に進むのか?」


「階段は目の前だよ~・・・このまま彩乃さんが帰れると思う?」


二人は彩乃に視線を送る、彩乃はパーティの崩壊危機よりも、階段の方が気になりジッ…と見つめていた。


「思わないな・・・」


「でしょ~?」


タツヤは「はぁ・・・」とため息をつき、


「進むぞ! 寝っ転がってるやつは、置いていくからな・・・」


木下が驚いて、タツヤの方へ駆け寄ってくる。


「ほ、本気ですか!?」


「階段は安全地帯だから・・・

とりあえず、覗く程度で・・・・・・彩乃さんが満足してくれれば・・・」


木下は両手を腰に当てて、少し背中を丸めた。


(立花くんがいないと、ほんと、このパーティはバラバラだな・・・)



―――



パーティは階段の途中で休憩していた。

荷物を下ろし、その傍にタツヤが座り、木下が火を起こしている。


ユージとセージは、パーティから離れた階段の少し上の方に、へたり込むように座っていた。


「これで、食料は終わりね・・・」


彩乃は自分のリュックの口を覗きこみながら言った言葉には、口惜しさが滲んでいた。


タッタッタッ……


階段の下の方から、登ってくる足音が聞こえてくる。

彩乃が振り返り、タツヤは首を上げ、木下が鍋を火にかけようとして、それを止めて背を伸ばした。

闇に伸びる階段をイチゴがヨロヨロ…と戻って来る姿が徐々に見えた。


「ダメだ・・・降りてすぐの所にヤバいのがいる!」


戻るとすぐに首を振りながら、焦った声で皆に告げ、ガクリと崩れ落ちるように階段に膝をついて2段うえの段に両手をついた。

あからさまに疲労困憊だった。 彩乃が近づいて肩を貸す。


「何がいたの?」


「に、忍者部隊だ・・・レベル6とレベル3の混成・・・

あと、1体正体不明なヤツがいた。

あれはヤバい・・・とても、オレたちでは太刀打ちできないよ・・・」


ヌルッ・・・


彩乃はイチゴの背に回した手に、生温かい感触を感じた。

肩越しに手のひらを確認すると、手は真っ赤に染まっていた。


「い、イチゴくん、ケガ・・・!? タ、タツヤくん、回復魔法を・・・」


「えっ? わ、わかった!!」

タツヤが慌てて立ちあがる。


4人の様子がおかしいことに気づき、ユージとセージも近くに寄ってくる。

木下はそれを一度横目で確認するが、何も言わず、視線をイチゴに戻す。


タツヤが慌てて“ギアルマ”を発動させる。


イチゴの傷は深く、右肩甲骨から肩口に向かって、横薙ぎに斬り裂かれていた。

その傷がみるみる塞がっていく。


その傷を見て、タツヤがゴクリと息を飲んだ。

(・・・確実に・・・首を狙ってる・・・)


傷が回復すると、イチゴは階段に腰を下ろし、階段の壁に肩をもたれさせて、「はあぁ~・・・」と大きなため息をつきながら上に顔を向けた。


「あぶなかった~・・・マジで死ぬかと思ったよ~・・・」


「オマエの俊敏さでも、見つかったのか?」


「あ、うん・・・階段から7階に出てすぐの所で感知したんで、慎重に覗き込んだんだけど感知された・・・」


「レベル6の忍者にか?」


「違う、正体不明の何か・・・1体・・・」


「1体? イレギュラーってこと?」


「多分・・・」


彩乃の問いにイチゴが答えると、木下が尋ねる。


「立花くんがよく言ってたから言葉は知ってましたが、

その“イレギュラー”ってなんなんです?」


タツヤが木下の方に顔を向ける。


「ああ・・・そうか・・・教えてなかったか・・・

イレギュラーっていうのは、本来その階には出ないモンスターが、下階層から紛れ込んでくる現象らしい・・・」


「階層に見合う敵の中に、1体だけ紛れ込んでる時があるらしいんだよ~・・・」


「それは立花くん情報?」


「そう・・・今まで経験したことなかったから忘れてた・・・」


彩乃は爪を噛みながら説明した。

その顔には不安の色が浮かんでいるのが分かった。


「レベル6忍者に交じってたってことは、レベル8の忍者か?」


「違う・・・あれはもっと上の~・・・

真央が“ヤバい敵”と言っていたやつ・・・上忍だよ!」


「ウソでしょ!?」

「上忍・・・って、防御力が高い上に、クリティカルを持つ敵だったか・・・」


「あいつ、マジでヤバいよ~・・・・・・

オレも見つかってすぐ逃げたんだけど、あっと言う間に後ろを取られてさ~・・・

攻撃もとっさに避けたんだけど~、それでも背中斬られた・・・」


イチゴがそう言うと、長い沈黙が流れた。


俊敏性と運の高いイチゴですら、そんな状態に陥れる敵の存在に、対抗案が思いつかなかった。


「ど、どうします・・・とりあえず、戦闘に入ってみて考えますか?」


木下が尋ねた。


「そうだな・・・ヤバそうだったら、作戦通りマコールで逃げる・・・」


タツヤがそう言うと、彩乃が「絶対だめ!」と首を振った。


「え?」


今まで先へ進むことを目指していた彩乃の言葉に、全員が耳を疑った。


「ダメってどういうことです?」


「戦闘中のマコールは座標指定ができないの・・・

宝物のテレポートと同じで、どの階のどこへ飛ばされるかは結果次第・・・・・・

ヘタすれば・・・壁の中・・・・・・」


「壁の中って?」


木下が尋ねると、イチゴが自分のすぐ横の壁をペチペチと叩く。


「この中ってことだよ・・・・・・」


「・・・・・・え? 壁の中に入るとどうなるんです?」


「消滅だって言ってた・・・灰の蘇生失敗と同じ・・・ロスト・・・」


「じゃあ、どうするんです!? もう食料も・・・」

「――このまま、撤退するわ!」


木下の言葉を遮るように、彩乃が言った。


「全員、荷物を持って集まって! 飛ぶわよ!!」


「「「「「・・・・・・。」」」」」


全員が何も言わず、彩乃のそばに集まる。

木下は、唇を噛む彩乃を見て、思わず瞳が揺れた。


「・・・・・・尊敬します!」


そう言って、彩乃の杖を持つ手を掴んだ。

彩乃は一度、木下を見て、マコールを発動させる。


6人は光の粒となり、迷宮の階段から消えた。


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