天使の行方は女神のみぞ知る〜王妃と第一王女〜 ※第3王子→第1王子視点
【※注意】今話はダルテ(第3王子)視点→ビル(第1王子)視点です。
172話以降、裏側で何が起きていたのか、王子たちの物語をお楽しみくださいませ。
「おや、サラが行ってしまったね……」
ダンが項垂れて、落ち込んでいる。
俺もハッと我に返る。
どうやら、俺たちが口論している間に、愛しの薔薇姫は脱出したようだ。
「はぁ……俺は図書館に寄るから失礼する……」
「ダルテ、ちょっと待ってくれ……! 君に聞きたいことが――」
「ダン、続きは明後日聞くさ。今日の俺は実家に戻らないといけない。また後日」
話し好きなダンのことだ。
薔薇姫を知っているのか、どこで出会ったのか、どういう関係なのかと、矢継ぎ早に質問してくるに違いない。
振り向かずに、スタスタと歩き去り、図書館に辿り着いた俺は一冊の本を借りた。
タイトルは『馬生道』
先ほど、薔薇姫が手に持っていた本だ。
俺の口を塞ごうと、一生懸命背伸びをして、兎のようにぴょんぴょん跳ねていたお嬢さんの姿を思い返す。
彼女の素直で可愛らしい性格も、読書を好む一面も、亡きレンゲ様に通じるものがある。
(あぁ、二人きりで読書をしてみたいものだな……)
レンゲ様が亡くなられてから、退屈な日々を過ごしていたが、薔薇姫と出会ってから、俺は人生の楽しさを味わっている気がする。
だが同時に、物足りなさも感じていた。
俺は薔薇姫の血を味わったことがない。
天使族の血は極上の味だと書物に記されていた。
さぞかし美味しいのだろうな……。
ふと吸血鬼族としての本能が騒ぐ。
(しまったな。サラちゃんのことで頭がいっぱいだ……冷静に……)
慌てて欲望をシャットアウトし、俺は特別科寮の自室に戻った。
U U U U U U U U U
「ご主人様、おかえりなさいまっせ! あれ、何か本を借りてきたんですねっ?!」
コウモリの従魔・チョコが俺の右手に目を留め、パタパタと茶色い羽を揺らしている。
「ただいま。明後日は王族子女会議だ。実家に帰る道中、読もうと思ってな」
「そうですかぁ。会議、大変ですなぁ〜」
「あぁ、億劫だ。参加者も、ダンや……薔薇姫に下品な質問をしたノイラをはじめ、学校で顔を合わせるメンツばかりだからな」
「えっ! 下品って、気になりますねぇ! ご主人様っ!」
ノイラの暴言を一言一句間違えず、淡々と伝えたところ、「ギャッハッハッハ!」とチョコは爆笑し始める。
俺はため息をつきながら、ノートパソコンを立ち上げ、例のチャット【王妃様に感謝し隊】で何か動きがないか確認してみる。
案の定、【ララ】が寂しそうにしていた。
しばらくの間、彼女とのやり取りを楽しんでいたが、送迎車が5分後に到着する旨の連絡が入り、誰かさんにそっくりな【ララ】とのチャットを切り上げた。
「ぷっはっは……っ! あそこって、あっはっは!」
ノイラの発言を思い出しては笑い転げていたチョコだったが、俺が身支度しているのを見て、「ちょっと待ってください、ご主人様!」と眉根を寄せる。
「チョコ、どうした?」
「今日の姫様はご主人様が助けたから無事だったんすよ。だからこそ、俺様は心配です。夏休みの間、変な男に攫われなければいいですけど」
「攫われる……? 物騒な……」
「ご主人様、この国は思ったより物騒ですよ。特に悪魔族の連中は……子供や女にも容赦ないですからね〜」
「悪魔族……」
現に、今の新生ナイテイ王国は悪魔族が権力を握っている。
第1王子のビル様。
名門サターン家の血を引く第4王子、ノイラ。
悪名高い前王の孫である第5王子、シアン殿下。
そして、ビル様の父上であり、レンゲ様を力尽くで妻にした現国王。
レンゲ様には心に決めた婚約者がいたのに、国王が彼女を連れ去り、勝手に自らの王妃に据えたのだと……父上から聞かされたことがある。
(サラちゃんが同じ目に遭ったら……?)
居ても立ってもいられなくなった俺は書斎の金庫に向かった。
奥からベロアの小箱を取り出し、中に入っている銀細工のネックレスを握りしめる。
緊急時に瞬間移動ができるよう、馬蹄の細工と虹色の宝石に移動魔法の術式を練り込む。
(これでいい……)
本当は俺の手で薔薇姫の首にネックレスを着けたかったが、生憎、予定が詰まっている。
俺はネックレスに施した魔法について、チョコに手短に説明した。
「チョコ。俺の代わりに、これを薔薇姫に届けてくれ……」
「ご主人様?」
「頼む。彼女を守るためにも。今すぐに」
「……わかりました!」
チョコに小箱を託した俺は、自室を後にし、送迎車が待機しているロータリーへ足を進めた。
レンゲ様の論文をバッグに忍ばせて。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝。
小鳥の囀りで目が覚めた。
今日は月に一度開催される王族子女会議の日。
カセットテープをプレイヤーにセットし、再生ボタンを押す。
洗面所で顔を洗ってから、寝巻きのガウンを脱ぎ、トルソーに飾られた漆黒の軍服風衣装に着替える。
〜♪
Amato figlio mio, sii felice.
《愛おしい我が子よ、幸せに》
Per vivere giorni splendidi.
《輝かしい日々を送るために》
〜♪
コン、コン――。
ノック音が聞こえた直後、扉が開き、ひとりの従魔がヒトの姿で現れる。
「おはようございます、ビル様。会議室の準備がすべて整いました。本日もよろしくお願いいたします」
「リルマ、おはよう。すぐに向かう」
リルマが来たので、プレイヤーの音楽を止める。
「あっ……大変失礼いたしました! 素晴らしい曲を聴いている中、お伺いしてしまい……」
リルマは申し訳なさそうに眉をハの字にして、頭を下げた。
「案ずるな。わざわざ我の部屋まで呼びに来たということは、すでに誰かが到着しているのだな?」
「はい。実は――」
「ダルテが来ているのか」
「さすがです。ダルテ様が控え室で待機しております」
「そうか」
最後の身支度として、肩から白いファー付きのマントを羽織る。
その際、リルマと目が合った。
先ほどまでの困った表情とは異なり、今は目を輝かせている。
「前から思っていたのですが、その白いファー、大変お似合いでございます! ビル様!」
「このマントは生前母上が愛用していたドレスを仕立て直して作った――我の大切な宝物なんだ」
「そうでしたか。ビル様がお洒落なのは王妃様譲りだったのですね」
「あぁ。母上は美しい声で天使族の讃歌を歌い、よく我に聴かせてくれたものだ」
残念ながら、母上はこの世にいない。
だからこそ。
「リルマ、行ってくる。我が愛しき、天使族の妹を探し出すために」
<ブクマ感謝&お礼! キャラクター小話>
ブクマありがとうございます!
お礼に今回は王子たちが好きな女の子の髪型をご紹介。
第1王子・ビル様:シニヨンヘア(レンゲ様がよくしていた髪型だったり……)
第2王子・ダン先輩:ポニーテール
第3王子・ダルテ様:ロングヘア(サラちゃんのショートヘアも大好きとのこと)
第4王子・ノイラくん:ツインテール
第5王子・シアン:ストレートヘア
第6王子・ニコくん:サラのショートヘアも少し伸びたボブヘアも好き
次回もお楽しみに〜(>♡<)




