王女を守る馬蹄ネックレス〜第3王子からの贈り物〜
ルルは絞ったレモンを紅茶に入れながら、会話を続ける。
「エスプレッソ伯爵さんのこと、最初はニコくんにそっくりだと思っていたわ。けれど、映画の考察や原作について饒舌に語るところは、ニコくんのお兄さんを彷彿とさせるの」
「お兄さんも、あの映画を観に行ったのかな?」
「行ったんじゃないかしら? 考察好きにはたまらない映画だもの。なんだか……わたしも原作が読みたくなってきたわ〜」
「了解! さっき借りてきたよ?」
ぼくは図書館で借りた本をルルに手渡す。
「あら、ありがとう。あとで読んでみるわね」
本を受け取ったルルはかわいい笑顔を見せると、ぼくの手を、もふもふの小さな手で優しく撫でる。
「ルル、どうしたの?」
「サラちゃん、大丈夫よ。ニコくんのお兄さんは単独行動が好きな一匹狼さんで、ダン先輩のようにみんなの中心にいるタイプじゃないわ。サラちゃんの秘密を誰にも言わずに、内緒にしてくれるはずよ?」
ルルの優しくて、思いやりに満ちた言葉に、ぼくは胸がいっぱいになり、ウルッとする。
「へぇ! 良いこと言うじゃねぇか! その通りだぜ、ルルちゃんッ!」
「へっ?」
男の子の声に、ぼくの涙はピタリと止まってしまった。
なぜなら、窓辺のカーテンの陰から、一匹の小さな黒い影――コウモリの従魔がヒョイっと姿を現したからだ。
「チョコくん?!」
「ちょっと! どうしてここに忍び込んでいるのかしら!」
目を吊り上げたルルが、天使の羽根をパタパタと動かし、チョコくんに向かって突撃する。
「うぉおおおお! 待て――っ!」
チョコくんは大慌てで避けようとしたけれど、ルルの方が一枚上手だった。
もふもふのおててで、チョコくんの焦げ茶色の翼を容赦なくこちょこちょした!
「クッ! くすぐってぇ〜〜! ルルちゃん、やるじゃねぇか!」
「キャア!」
今度はチョコくんがルルの長い耳元に、ふーッと息を吹きかける。
「レディの弱点を狙うなんて、意地悪さんね!」
「勝てばカツ丼っていうだろ? 俺様、負けねぇからな!」
「違うわ! 勝てば官軍よ!」
もみ合いの末に――ごっつん! とぶつかった音が響く。
「痛いわっ!」
「グッ!」
勢い余って、お互いに額をぶつけてしまい、ふたりはもつれ合うようにソファの上へ転げ落ちる。
「ルル! チョコくん! 大丈夫――っ!?!」
慌てて駆け寄ったものの、ぼくは見てはいけないものを見てしまった気がする。
仰向けに倒れたルルの上に、チョコくんが覆い被さっていて、ふたりの唇同士が……バキュウウウウンしていた。
ルルが顔を真っ赤にして、チョコくんの体を押して跳ね除ける。
「チョコくん! あなたまで……レディになんてことを!」
案の定、ルルは怒る。
「仕方ねぇだろ! 好きでぶつかったわけじゃねぇよ。俺様だって、本当は――!」
「好きなひとがいるってこと? なおさら、許せないわ!」
「まぁ、落ち着けって!」
「嫌よ!」
チョコくんがバサバサと飛んでベランダの方へ逃げようとしたけれど、怒ったルルがひたすら跡を追う。
ふたりが追いかけっこを始めてから、数十分ほど経過して……。
部屋中を飛び回ったふたりは、体力を消耗してしまったのか、テーブルの上でゼーゼーと息を切らしながら、汗をかいていた。
(まずい、このままだと脱水になっちゃうよ!)
ぼくは冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、ふたり分のコップに注いで、テーブルまで持っていく。
「ルル、チョコくん。まずは休憩しよう! しっかり水分を取ってね?」
「あら、サラちゃん。ありがとう。いただくわね」
「生き返るー! サラちゃん、ありがとな!」
ルルはストローでお行儀良く一口ずつ飲み、チョコくんはコップを両手で掴んでグイッと豪快に飲み干す。
こうしてみると、同じ従魔なのに、ふたりの性格は全然違うんだよね。
「チョコくん、どうしてここにいたのかしら? また、ご主人様に怒られて、家出でもしたの?」
ルルがジド目をしながら、ストレートに尋ねる。
「違うぜ、ルルちゃん。今日の俺様はご主人様に依頼されたから、サラちゃんのところに来たんだぜ!」
「依頼……?」
ぼくとルルは顔を見合わせ、同時に首を傾げる。
第3王子――ニコくんのお兄さんに何の依頼をされたんだろう。
チョコくんが小さな後ろ足で空中に円を描くと、そこから魔法陣が浮かび上がり、ポンッと上品なベロア生地の小箱が現れる。
「ほらよ、サラちゃん! ご主人様からの贈り物だ、受け取ってくれ!」
パカッと開かれた箱の中を見て、ルルが息を呑む。
「わぁ! 馬蹄ネックレス……美しいわね……」
ルルがうっとりするのも分かる。
シルバーの馬蹄をモチーフにしたデザインに、虹色に煌めく宝石が埋め込まれている。
神秘的で唯一無二の輝きを放っていて、ぼくも「綺麗だなぁ……」と目を奪われたけれど――。
「素敵なネックレスだからこそ、ぼくは受け取れないよ!」
「んー? 俺様はいらないから、受け取ってくれよな! そういや、このネックレスは……ご主人様のお母様が大切な恩人に渡すつもりだったらしい」
「えっ……。それならさ、恩人の方にプレゼントしなくていいの?」
「その恩人さんはもうこの世にいないからって、ご主人様が言ってたぜ。安心しろよな! 姫様がまた変なヤツに絡まれてピンチになった時、一瞬で安全な場所へ逃げられるよう、ご主人様がネックレスに瞬間移動の魔法を組み込んだってさ!」
「なっ?!」
今の言い方だと、ぼくが第4王子に変な質問をされたの、チョコくんとお兄さんの間で共有してるってことになるよね……。
「いやぁ〜。サラちゃん、困っただろ? 本当のことを言えるわけないしな〜。あっ、俺様は誰にも言わないぜ。サラちゃんのおっぱ――グヘッ!」
「チョコくん! 美しいネックレスを見ている時にお下品な話はやめなさい!」
ルルがチョコくんの口にレモンを咥えさせて、注意をした。
「んふぁへふふふぐぐぐ! すっぺぇ!」
チョコくんはフラフラしながらも、「またしてもレモンかよ! じゃあな、サラちゃん。絶対につけてくれよな!」と言って、慌ただしく窓の隙間から飛び去っていった。
ぼくは恐る恐る、ネックレスを手に持ってみる。
(大切な恩人……誰のことなんだろう。しかも、移動魔法まで……)
第3王子の気遣いと優しさにむず痒さを覚えながらも、信頼してもいいのかもしれないと思い始める。
「このシルバーカラー、ぼくのお母さんの髪色にそっくりだ。おじさん家に着いたらつけてみようかな?」
「同じことを思ったわ。わたしもレンゲ様を思い出したの。ぜひつけてごらんなさい!」
「うん、そうする……」
ぼくは明日からおじさん家に行く。
ルルと一緒に荷造りをして、引き続き、夏休みを堪能することにした。
かわいいネックレスも荷物に入れて。
<ブクマ感謝! キャラクター小話>
ブクマ、ありがとうございます!
お礼に、今回は登場人物ズの趣味をご紹介。
第一王女・サラちゃん:剣術・料理・少女漫画集め・麻雀・パソコン操作・お勉強・美味しいご飯やスイーツを食べること(一番多趣味さんかも)
白うさぎの従魔・ルルちゃん:紅茶・読書
第2王子・ダン先輩:剣術
第3王子・ダルテ様:コーヒー&エスプレッソ・読書
コウモリの従魔・チョコくん:「仕事で精一杯で趣味をする時間がないんだぜ……」
第4王子・ノイラくん:楽器演奏・音楽鑑賞
第6王子・ニコくん:ゲーム・漫画・麻雀・バイク
次回もお楽しみに〜⭐︎




