ララとエスプレッソ〜ふたりは秘密の関係〜
「はぁ……はぁ……ただいま……」
ぼくが一般科男子寮の自室に着いたタイミングで、キーホルダー姿のルルがポンッ! と、いつもの愛らしい従魔姿に戻った。
「サラちゃん! 王子様たちに囲まれてハラハラしたけれど、なんとか乗り越えられたわね!」
ルルがぼくの胸元に飛び込む。
珍しく、体を震わせながら、鼻をピクピク動かしている。
「ルル……?」
「あの紫髪の王子様、本当に恐ろしかったわ! お下品なことを言って、サラちゃんに手を出そうとしていたでしょう! 見ていて、冷や汗が止まらなかったわ……」
「確かにね。でも、ぼくは自分の意志ではっきり断ったんだ!」
「えぇ、頑張ってたものね。偉かったわよ、サラちゃん。無事に戻れて安心したわ」
ぼくの胸元で、ルルが不安そうにうずくまっている。
ぼくは手に持っていた2冊の本をテーブルに置き、「大丈夫だよ。大丈夫だからね……」と声をかけながら、ルルのもふもふな頭を優しく撫でて、気持ちを落ち着かせることにした。
すると、ルルは赤ちゃんのようにスースーと寝息を立てた。
ぼくは起こさないように、ベッドの上に寝かせて、ブランケットをかけた。
その後、ぼくはかいてしまった汗を流したくなり、バスルームへ向かい、シャワーを浴びることにした。
「うーん……」
温かいお湯を浴びながら、ぼくは鏡に映った自分の身体をじっと見つめる。
剣術をしているのに、なかなか筋肉がつきにくい。
むしろ、ぼくの肩や腰は丸みを帯びていて、二の腕をつまんでみると、マシュマロみたいに柔らかい。
さっき対面したダン先輩やニコくんのお兄さんは、二人とも背が高いし、筋肉質でぼくとは全く違う体つきをしていた……。
男装しているとはいえ、やっぱり、ぼくは……女の子なんだ。
もしさ、ぼくが最初から男として生まれていたら、王子として王宮で育てられて、特別科に進学してたのかな。
そしたら、ダン先輩たちとお友達になれてたのかな。
サァ――。
考え事をしていたぼくだけど、シャワーの音でハッと我に返る。
「いけない! だって、ぼくはルルとおじさん、オーちゃんたちと一緒に歩んできたんだ。人生を謳歌できている今に感謝しなくちゃ!」
シャワーを止めて、ぼくはバスルームを出る。
今日はもう外に出ないから、いつもの部屋着である長袖のラグランTシャツと短パンに着替えた。
そして、ベッドの上でルルが手足を伸ばしてぐっすり寝ているのを確認してから、ぼくは暇つぶしにノートパソコンを開いて、SNSにログインした。
チャット名は恒例の【王妃様に感謝し隊】だ。
【ララ】『ヤッホー! みんな元気?』
ここまではいつもと同じようにたわいもない挨拶を書き込む。
通常、誰かしらすぐに返事が来るのだけれど、今日は何も通知が来ない。
(うーん。夏休みだから、みんなお出かけしているのかな?)
ぼく以外、誰もログインしていなさそうだ。
大人しく退散しようと思っていたのに。
【エスプレッソ伯爵】『すまん、ララ。遅くなった』
(うわぁあああああ! エスプレッソ伯爵が現れちゃった!)
いろんな疑惑が浮上しているエスプレッソ伯爵の登場に、ぼくは硬直して、キーボードから手を離した。
【エスプレッソ伯爵】『ララ、どうしたんだ?』
【エスプレッソ伯爵】『?』
しまった、エスプレッソ伯爵が困っている。
返事しないと。
【ララ】『エスプレッソ伯爵、ボクは元気だよ! ちょっと考え事をしちゃって……』
【エスプレッソ伯爵】『そうか。何か聞きたいことでも?』
山ほど聞きたいことがある。
貴方のお名前はエスプレッソ・ヘパリさんなの?
貴方は……ニコくんのお兄さんだったりするの?
でも、この質問は絶対に聞けないよ。
そういえば、前回のやり取りで、エスプレッソ伯爵はオススメの映画を教えてくれたんだった。
ぼくはその映画をニコくんと一緒に観に行った。
【ララ】『ボクは最近、エスプレッソ伯爵が紹介してくれた映画を観に行ったんだ! とても良かったよ。素敵な作品を教えてくれてありがとう』
【エスプレッソ伯爵】『どういたしまして。あの映画、元々は小説が原作なんだ。原作を読んだことは?』
【ララ】『実は……図書館で借りたんだ。ボクは映画館で感動しちゃって、原作を読みたいって思ったんだよ……』
それから、ぼくはエスプレッソ伯爵と映画の感想を語り合った。
エスプレッソ伯爵の考察にぼくは目から鱗が落ちたし、ぼくの感想に対しても『君の観点は非常に素晴らしいな』と褒めてくれた。
画面越しに会話できるのはとっても嬉しい。
けれど、画面の向こうにいるエスプレッソ伯爵は、さっき廊下でぼくを助けてくれた第3王子様なのかなと、ずっと気になってしまった。
このモヤモヤした状態に耐えられず、腹を括って、ぼくの方から正体を尋ねてみようかなと思っていたものの……。
【エスプレッソ伯爵】『すまない、ララ。そろそろ出かけないといけないんだ』
【ララ】『了解! 映画のお話ができて楽しかったよ。またね!』
【エスプレッソ伯爵】『あぁ。ララ、どうか自分の体を大切にしてくれ。それでは』
エスプレッソ伯爵はすぐにログアウトして消えてしまった。
結局、今回のチャットには、【紅】さんも【老人万華鏡】のおじいちゃんも現れなかった。
ぼくもログアウトして、独り言を呟く。
「うーん、わからないや。エスプレッソ伯爵の正体って……」
「ニコくんのお兄さんに違いないわっ!」
「そうなのかな……っ、わあぁっ?!」
いつの間にか、目を覚ましていたルルが、ぼくの背後でパソコン画面を覗き込んでいた。
「サラちゃん。ちょっと仮眠を取ったら、だいぶ元気になったわ!」
「良かった……」
「せっかくだし、ティータイムにしましょう? エスプレッソ伯爵さんについてお話ししたいわ〜!」
「そうしよっか」
ぼくは冷たい牛乳を、ルルにはお気に入りの紅茶を用意した。
椅子に座って、一息つこうと思ったところで、風圧で窓ガラスがガタガタと揺れる音が響いた。
「あらっ、風が強くなってきたわね?」
「本当だ! 洗濯物、飛ばされちゃうかも。先に取り込んでくるね!」
ぼくは大急ぎでベランダに行き、洗濯物を回収した。
全部畳んで、収納ケースにしまってから、ルルとのティータイムを楽しむことにした。
<感謝お礼>
高評価&ブクマありがとうございます!
お礼に、登場人物ズの好きなチョコレートをご紹介いたします。
第一王女・サラちゃん:生チョコレート(ミルク味)
ルルちゃん:板チョコレート(ミルク味)
第2王子・ダン先輩:なんでも好き
第3王子・ダルテ様:ホットチョコレート
第4王子・ノイラくん:ポテトチップチョコレート
次回もお楽しみに♡
PS.北海道へ調査に行ってくるため、次回の更新が少し遅くなるかもしれません。




