天真爛漫な第一王女と特別科の王子たち
※今話は第4王子による下ネタがございます。苦手な方はご注意ください!
「ダン、わかるよ。本当にさ、見た目が可愛いもんね〜」
胸を張ってスタスタと歩いてやってきたのは、紫髪の第4王子。
いつもは黒猫の従魔・ロキちゃんを連れているのだけれど、今日はお一人様らしい。
それでも、人を食ったような、ニヤニヤとした表情は変わらない。
突如、ぼくの目の前で立ち止まったかと思ったら、大きな声で叫んだ。
「サラちゃんは、あそこの大きさ、どれくらいなの?!」
「な……っ!?」
初っ端から予想の斜め上を行っている悪趣味な質問に、ぼくはフリーズしてしまった。
(な、何を言ってるの……? 怖すぎるよ……!)
張り詰めた空気の中、ダン先輩が椅子から立ち上がり、第4王子の勢いに負けない大声を張り上げる。
「ノイラッ! わたしの大切な後輩に変な質問をしないでくれないかッ!」
「男同士の、純粋な好奇心だよ? ねぇ、サラちゃん。もし良かったら、おれと一緒に――」
第4王子がぼくの顔を覗き込もうと迫ってきたため、身の危険を感じたぼくは、とうとう伝家の宝刀を抜くことにした。
「嫌です! それに第一王女様や好きな女の子の前でそのお話をしたら、ドン引きされて、一生嫌われますよ!」
深掘りされたくない。
ぼくの本当の正体は第一王女だ。
だからこそ、思いっきり本音をぶちまけた。
むしろ、「第一王女に嫌われる」って言われたら、第4王子がどんな反応をするのか、試してみたかった。
「ま、待って……。本当に……? 嫌われる……?」
「わたしは……第一王女に嫌われたら、永遠に立ち直れないな……」
まさかの、ダン先輩まで頭を抱えてショックを受けていた。
二人とも、頭上に重たい岩でも載っているかのように、ズッシリと項垂れている。
(ど、どうしよう! ちょっと言い過ぎたかも?)
それでも、直ちに、ぼくはここから身を引いたほうがいい。
男なのか確かめさせてくれ、なんて言われて、身体を調べられたら……。
「ごめんなさい! お先に失礼します!」
第一王女だとバレるわけにはいかないんだ。
大急ぎでテーブル席から立ち上がった、その時。
――ゴツンッ!
「痛っ!」
「うぅっ……!」
前屈みになっていた第4王子の顎と、ぼくの頭が思いっきりぶつかり合った!
(ツイてない。ちょっとフラフラするかも……)
「サラ! 危ない!」
ダン先輩が慌てて手を伸ばしてくれたけれど、その前に、痛みに耐えた第4王子が「おれと遊ぼー!」とニコニコしながら、ぼくの体に触れようとする――。
ぼくは怖くて、目を閉じた。
すー……。
なぜだろう。
体がふわふわしている。
でも、ぼくはこの浮遊感を知っている……。
「大丈夫か」
「あ、はい……」
ゆっくり目を開けると、ぼくはテーブル席から数歩離れた廊下に瞬間移動していて、誰かが、ぼくの両肩にそっと大きな手を添えて支えてくれた。
「あぁっ……!」
振り返って、後ろにいる人物の顔を見上げたぼくは、雷に打たれたような衝撃を覚え、ギクッと肩に力が入る。
「あれー?! ダルテがどうしてここにいるわけ!」
ぼくと入れ替わるように、テーブル席に腰を下ろした第4王子が、首を傾げながら声をかける。
「図書館に用があってな……」
ぼくの背後で立っていたのは、赤髪に真紅の瞳の第3王子。
紛れもなく、ニコくんのお兄さんだ。
でも待って。
お兄さんの名前は、『エスプレッソ・ヘパリ』だった気が……。
本当は、『ダルテ』っていうお名前なの?
「……俺は君の味方だ」
情報過多で処理できず、ぼくがキョトンとして固まっていると、ニコくんのお兄さんが右手でぼくの頭を撫でてくれた。
一瞬、穏やかな雰囲気だったけれど、第4王子に向き直ったお兄さんは、冷徹な眼差しをしていた。
「ちょっとー! ダルテ! 味方って、何の話をしてるの?」
「ノイラ、この少年の言う通りだ。君のお下劣なジョークを、第一王女様が耳にしたら……結婚相手の候補から除外されるだろうな」
(あれ! ぼくと第一王女が別人だと表現してくれている? もしかして、ぼくの正体を隠してくれた……?)
「第一王女と結婚できないなんて……おれはやだっ……ヴッ……」
第4王子は椅子にもたれかかり、燃え盛る炎が消えて灰になったかのように、真っ白な顔をして動かなくなってしまった。
(あっ、おじさんが読んでた漫画で見たことある! 真っ白に燃え尽きてる……!)
同じ席に座っているダン先輩も、灰と化した第4王子の姿を見て、「おやまぁ」と呆気にとられていた。
何はともあれ、今回は第3王子が味方になってくれた。
でも、なんで、ずっとぼくの両肩に手を置いたままなの?!
なんて話しかければいいのかわからず、ぼくが「あ、あの……」と口ごもっていたら――。
「ダルテ、彼が困っている。手を離してあげるんだ」
見かねたダン先輩が、第3王子を優しく窘めてくれた。
「そうだな」
「サラ、本を忘れているよ。引き止めてしまってすまなかったね。夏休み、楽しんでおいで」
ダン先輩はテーブルの上に置いてあった二冊の本を取り、ぼくに手渡してくれた。
「ダン先輩、ありがとうございます!」
ぼくがお礼を言うと、後ろにいた第3王子が、ぼくが持っている本の背表紙をまじまじと見つめながら、耳打ちをする。
「そうか……。ここで君に巡り会えたのも運命かもしれないな。また会おう、お嬢さん」
(オジョウサン!?!)
ボンッ!
マグマのように、ぼくの顔は一瞬で熱くなった。
「おぉ……サラの顔がまた真っ赤っかだ! ダルテ、今度は君が何を吹き込んだんだい?」
「それは――」
「は、恥ずかしいから絶対に言わないでくださいっ!」
左手で二冊の本を抱え込み、右手でお兄さんの口を塞ごうとしたけれど、彼の身長が高すぎて、空を切ってしまう。
「惜しいな……」
「うぅっ!」
口元を緩める第3王子。
一方で、ぼくは口をムッとさせながら、ひたすら背伸びをしたり、ジャンプを繰り返していた。
「サラ、可哀想に。あっ、良いことを思いついた! 疲れただろう、わたしが君を部屋まで抱えて送ろうか?」
「っ?!」
予想だにしなかったダン先輩のセリフに、ぼくは驚愕して、思いっきり口を開いてしまった。
(ま、まずいよ! ダン先輩がぼくの部屋に来るのは……! 部屋に女の子だってバレちゃう私物を置きっぱなしにしてる……)
「断る。ダン、今は俺がこの子と話している」
「ダルテ、わたしはこの子と一緒にアイスを食べたんだ。だから、わたしが面倒を見るよ」
「ふーん。ノイラの暴言で困っていたところを助けたのは俺だ」
「その件は恩に着る。だが、わたしは――」
バチバチにオーバーヒートしているダン先輩と、ニコくんのお兄さん。
そしてテーブル席では、さっきから真っ白な灰のまま、魂が抜けている第4王子。
シュールでカオスすぎる光景だ。
(なんだか、特別科の王子様って面白いかも! ……って、いけない! のんびり観察している場合じゃなかった!)
ケンカを止めたいところだけれど、二人とも190cm以上の大柄な王子様だ。
枝豆の豆粒並みに小さいぼくは……勝てそうにない。
今日に限って、木刀を持ってくるのも忘れちゃったし。
うん、決めた。
言いたいことだけ伝えて、逃げるのが一番の得策だ。
「ケンカはやめて! でも、みなさん。楽しい夏休みをお過ごしくださいませ! それでは、さようならぁあああああ!」
ぼくは巨躯の王子たちの隙間を掻い潜るようにすり抜け、脱兎の如く廊下を全速力で走り、そのまま一般科の男子寮に戻った……。




