もちもちほっぺと甘いご褒美
今は夏休み。
新学期まであと1ヶ月ほど残っているけれど、ぼくは宿題を全部終わらせた!
「やったー! 完了っ!」
「お疲れ様、サラちゃん」
「ありがとう、ルルー!」
ぼくは大好きなルルとハイタッチを交わして、ソファで一緒にオレンジジュースを飲むことに。
「そうだ……! 明日からはおじさん家でゆっくり過ごすから、図書館で本を借りようかな?」
「いいわねぇ。わたし、この前の映画でとても感動したから、原作の本を読んでみたいわ」
「いいね! ぼくも気になってたんだ。探してみるね!」
「嬉しいわ! ありがとう、サラちゃん」
ルルが喜んでいる。
ぼくもルルの笑顔につられて、ニコニコしてしまう。
こうして、お喋りを楽しんだ後、ぼくはマスコットキーホルダー姿になったルルをベルトループに付けて、学校の図書館へ向かった。
お目当ての本がどこに置いてあるのか、ぼく自身、見当がついていた。
ザダ校では、図書委員の生徒たちが季節ごとに注目作品の特設コーナーを設けている。
図書館の入り口付近まで進むと、案の定、大きな本棚に『図書委員厳選・メディア化特集ランキング!』の文字と馬のイラストが描かれたポスターが貼られていた。
(おウマさんだ、可愛い……)
近づいて、ポスターのランキングを眺める。
第2位は、この前観た映画の原作――『運命』(原作者:ダナパ3世)。
第1位は、馬主を主人公にした小説『馬生道』で、ドラマ化も決まっているらしい。
そういえば、おじさんは大の競馬好きで、「漫画家で大成功したら、馬主になりたいんだ!」と熱く語っていたのを思い出す。
(せっかくだから、この2冊を借りてみよう!)
早速、特設棚に移動する。
1位の『馬生道』は、ちょうど手の届く高さにあったから、すぐに手に取れた。
だけど、2位の『運命』はなぜか一番上の棚にまとめて並べられていた。
爪先立ちになって精一杯右腕を伸ばしても、本の表紙に触れることすらできない。
(うぅっ……届かないっ!)
もう少し背が高ければなぁ……と、切ない気持ちになる。
毎日欠かさず牛乳を飲んでいるのに、入学してから身長の伸びが止まった気がする。
「はぁ……」
(こうなったら、近くに踏み台かハシゴがあるか探すしかないよね?)
ため息をついた直後、後ろから誰かが長い腕を伸ばして、ぼくが取ろうとしていた本をひょいと手に取った。
「この本でいいかい?」
よく通る声が聞こえて、ぼくは慌てて振り返る。
「あっ……」
「やぁ、サラ」
目の前にいたのは、ダン先輩。
いつもと変わらず、柔和な表情を浮かべていた。
「どうぞ、受け取ってくれ」
「はい!」
ダン先輩から本を受け取ろうとした時、ダン先輩の指先に触れてしまい、ぼくの体がピクッと震えてしまった。
大きくて、温かい手……。
頼もしい、男の人の手だ。
頼もしいといえば、この前の草野球大会でも、ダン先輩は二刀流で無双していた上に、チームのみんなを引っ張ってくれた……。
「サラ、すまない。指が当たってしまったね」
「だ、大丈夫です! 本を取ってくださり、ありがとうございます。あっ、この前の野球大会も、とても心強かったです! ありがとうございました!」
恥ずかしくて、直視できない。
早口でお礼を言いながら、お辞儀をして、立ち去ろうとしたけれど――。
「サラ、こちらこそありがとう。せっかくだから、一緒にアイスでも食べないか?」
ダン先輩の甘い提案に、ぼくは立ち止まってしまった。
(アイス、食べたい! だって、夏休みの宿題を頑張って終わらせたから。ご褒美のデザート、食べたい……!)
魅力的過ぎるお誘いだ。
断ることもできず、ぼくはダン先輩と共に図書館を出た。
近くのアイス自販機へ向かう途中、ぼくは宿題を全部終えたことや、明日からはおじさん家に帰ることを話した。
すると、ダン先輩が「偉い! 頑張ったな、サラ」と微笑んで、ぼくの分のアイスもご馳走してくれることになった。
「ダン先輩、本当にいいんですか?」
「もちろん。夏休みの宿題をやり遂げたんだ。頑張ったご褒美に、一番好きなアイスを選ぶといいさ」
「わーい! ありがとうございます!」
迷わず、ぼくはチョコチップ入りのバニラアイスを選んだ。
ダン先輩はぼくと同じアイスにするか悩んでいたけれど、チョコバニラのモナカアイスに決めたようだ。
自販機前のテーブル席に並んで座り、楽しいデザートタイムを味わうことにした。
「うーん、美味しいっ!」
「あぁ、美味しい……」
絶妙な甘さがたまらず、ぼくはバクバクと、あっという間にアイスを平らげてしまった。
「ごちそうさまでした!」
ハンカチで口元を丁寧に拭った後、ぼくは何気なく自分の両頬に手のひらを当ててみる。
「冷やいっ!」
思わず、ぼくは叫んでしまった。
アイスを一気に食べたせいか、ほっぺたがキンキンに冷えていた。
「おっと……」
すでにアイスを食べ終えたダン先輩が、迷いなく、ぼくの冷えた両頬を大きな手のひらで包み込む。
「大丈夫、じっとしてごらん」
「んー……!」
冷えていたぼくの頬っぺたが、ダン先輩の手のひらの温もりで、ホカホカになっていく。
嬉しいけれど、どこか恥じらいを覚えてしまい、ぼくは一気にヤカンのように熱くなってしまった。
「ほら、温かくなってきた」
「うぅっ……」
「すごい……! 前から思っていたが、赤ん坊のようにもちもちした頬っぺただ……」
ぼくがタジタジになって目を瞑っていても、ダン先輩はお構いなく、大きな指先でぼくのほっぺたをムニムニとつまみ始めた。
(きょ、距離が近いよっ!)
「おや、顔が真っ赤だ。熱でも出たのかな?」
意識しないよう必死に耐えていたのに、コツン……とダン先輩のおでこが、ぼくのおでこに触れる。
「熱はないね。サラ、君が美味しそうに食べている姿を見られて、わたしはとても嬉しいよ」
「うへっ……」
至近距離で、甘い言葉を囁かれるなんて……!
耐えられなくなったぼくは目を開けてしまい、ダン先輩の優しい茶色の瞳と目が合ってしまった。
(だ、ダメ……! ぼくは旅館の個室でダン先輩に抱きしめられたんだ……。しかも、「愛してるよ」って言われたんだもの……。無理、ぼく、おかしくなっちゃう!)
「たんしぇんぱい……はなひて……!」
「ふっ――、ハッハッハ!」
ほっぺたを摘まれてふにゃふにゃになったぼくの間抜けな表情を見て、ダン先輩は思いっきり吹き出し、笑い声を上げた。
どうやら、その朗らかな笑い声が廊下に響いたみたい。
誰かがぼくたちの方に向かってやって来た。
「あれ、またイチャイチャしてるー?」
<ご報告>
先日受けた資格試験(第二級陸上特殊無線技士)、無事に合格しました。
皆様、本当にありがとうございました。
<感謝お礼&ちょっとした裏話>
高評価ありがとうございます!
お礼に、ダン先輩がモナカアイスを選んだ理由について。
サラちゃんが食べたそうにしてたら、手でパキッと割って、分けてあげられるからなんだとか。
自分が食べたいアイスより、サラちゃんとシェアできるアイスを選んだダン先輩でした。
次回もお楽しみに。




