君と共に歩む荊棘の道〜不老不死の果実〜 ※第3王子視点
【※注意】今話もダルテ(第3王子)視点回です。
「母上、すぐに――」
「込み入った話になるわ。お店が閉まる前に、美味しいご飯を食べに行きましょう! お腹が空いてるの!」
話してください、と言いたかったのだが、母上に遮られてしまった。
『腹が減っては戦ができぬ』ならぬ、『腹が減っては話ができぬ』というわけか。
「わかりました。食後、ちゃんと教えてくださるのなら……」
「もちろん!」
車に乗る前に、映画館近くの洋食屋で夕食をとることにした。
俺が注文したのはスパイスカレー。
複数のスパイスが絡み合っており、絶品だったが、『天使族の秘密』とやらがどういう内容なのか気になってしまい、会話もせずにカレーを掻き込んでしまった。
その後、お店を出て、駐車場へ辿り着いた。
「さぁ、車に乗って」
「はい」
すぐさま助手席に座って、母上が運転席に腰を下ろしたところで、俺から話を切り出した。
「母上、お願いいたします」
「えぇ、ちゃんと教えるわよ。食事中のあなた、ずっと上の空だったものね……」
母上はエンジンをかけたものの、すぐには発進せず、一呼吸置く。
「ここからは私とあなた、二人だけの秘密の話ね。あなたが治ったのはレンゲ様の回復魔法――だけではないの」
「ん……? 何か他にも理由があると?」
「さっき観た、ロイドくんの作品の中にヒントが隠されているわ。思い出してごらんなさい」
母上に問われて、俺はあるシーンを浮かべる。
ヒロインのルイヨが島で『秘宝の薬』を見つけ出し、その薬を飲んだ主人公のエノーが元気になる場面。
「薬ですか?」
「えぇ。作中では、ファンタジーらしく『秘宝の薬』と表現していたけれど。あれは天使族しか住んでいない孤島に自生する『禁断の果実』を指しているわ」
「禁断の果実……初めて知りました」
「そうよね。今の吸血鬼族で、『禁断の果実』を知っているのは、私だけかもしれない。というのも、ロイドくんから『天使族が住む離島にしか生えていない果実だから、家族以外には内密に』と固く口止めされたの。実際に、私は医師として、ある仮説を立てた。その果実から精製した薬を、レンゲ様はあなたに飲ませたのではないかって。天使族のお嬢さんたちは『不老不死の果実』と言ってるみたいだし」
「不老不死……」
右手の指先で、左手首の内側に触れる。
ドッドッドッ――。
規則正しく、脈打つ感触が伝わるから、今の俺は生きている。
まさか、この脈動が永遠に続くとでも?
想像し難い。
しかし、もしすでに不老不死の身であれば、俺はサラちゃんと、ずっと一緒にいられる。
そう思うと悪くないが……彼女の母であるレンゲ様はこの世にいない。
「母上。仮に俺にその薬を飲ませたのであれば、レンゲ様自身も飲んでいたはずでは?」
「そうよね。けれど、レンゲ様は亡くなられたわ。だからこそ、あなたに渡しておこうと思ったものがあってね」
振り向いた母上は手を伸ばして、後部座席に置いていた小箱を掴み、俺の掌にのせる。
「本当はね、レンゲ様に渡すつもりだったの。でも、もう会えないから……」
「これは……?」
「ネックレスよ。あなた、好きな子がいるのでしょう? 良かったら、彼女にあげて」
「……わかりました」
「ありがとう。じゃあ、天使族の秘密のお話はここでおしまい。あなたを特別科の寮まで送るわ」
拍子抜けした……とまでは言わないが、意外にも秘密の内容はあっさりしたものだった。
今の俺は天使族そのものに興味はない。
興味があるのは、天使族の血を引く愛しい薔薇姫――ただ一人だけ。
会話を終えて数十分後、俺は母上と別れ、自室に戻った。
「ただいま……」
一応、部屋に入ってすぐに声を掛けてみたが、返事が来ない。
珍しいな。
彼の定位置である読書机近くに歩み寄ると、丸まった体からスヤスヤと寝息が聞こえる。
その小さな体の隣に、なぜか手紙が置かれていた。
内容を確かめるべく、俺は目を通す。
『げーむきは、にこに、かえしました。ごめんなさい!』
(なんだって……?)
ゲーム世界で薔薇姫が何を言っていたのか隅々まで知り尽くそうと思っていたのだが。
「はぁ……。チョコ、どうして返した……」
ため息を零しながら、ちょんちょんと、チョコの羽根を人差し指でなぞる。
すると、チョコは「んっ……ウワァアアアア!」と叫びながら、飛び起きた。
直後、チョコは机の角に頭をぶつけ、その勢いのまま机上で土下座をした。
「ご主人様、お帰りなさい! すみません! 今回は俺様が悪かったんですッ! 本当にごめんなさいッ!」
怒涛の謝罪ラッシュだ。
普段のチョコは、あまり自分の非を認めるタイプではないのだが、今回の件に関しては、かなり反省しているらしい。
「すでにニコの手に渡ってしまったのだろう。ゲーム機を回収しようがないから、俺は何も咎めない」
これ以上は踏み込まず、喉が渇いた俺は冷蔵庫からトマトジュースを取り出し、ゴクゴクと飲み干した。
その間、チョコは怯えた瞳で、俺の顔色をうかがう。
「チョコ、何か?」
「ご、ご主人様! 図々しいかもしれないですけど……ゲーム世界で起きたことは誰にも言わないでください! 特に、姫様のことは秘密にしてくださいッ! 迷惑をかけたお詫びに、姫様の可憐な写真をお渡ししますッ! ゲーム画面を保存してたんで、印刷してきたんですッ!」
数枚の写真をバサっと机の上に広げたチョコ。
普段の俺なら、慌てることなく、冷静に歩いていただろう。
しかし、チョコは『姫様の可憐な写真』とはっきり言い切った。
俺は短距離の移動魔法を発動させ、即座に机の前に立つ。
机上の写真を素早く手に取り、眺める。
一枚目の薔薇姫は、スプーンのように垂れたウサ耳を揺らしながら、キリッとした表情で麻雀牌を握り、どの牌を捨てるべきか熟考している姿。
二枚目は、仮面を付けてコスプレした俺と互角に剣を交えている一枚。
「おっと……」
しまった。意図せず、声が出てしまった。
最後の三枚目は――鏡の前で自身の姿に恥じらい、顔を真っ赤にしている、乙女な薔薇姫が写っていた。
童顔で可愛らしい顔立ちでありながら、真珠のように美しい肌で、女性らしさも伝わってくる。
一般科の学ランを纏った彼女も凛々しくて好みであるが、ウサギのように可憐な彼女も、とても愛らしい。
すでに、ゲーム機本体はニコのところにある。
だが、薔薇姫の写真は――永遠だ。
「……わかった。俺自身、薔薇姫が第一王女だと確信はしているが、決定的証拠を掴めていないからな。王女のアザを確認できていないから、誰にも言わないさ」
「ほ、本当に?」
「あぁ。その代わり、薔薇姫の写真はすべていただく」
「もちろんです! ご主人様!」
チョコはさっきと打って変わり、パッと明るい表情を見せた。
「では、チョコ。俺はこれから、情報の整理に取り掛かる」
「わかりました、ご主人様! このご恩、一生忘れません!」
俺は書斎の頑丈な金庫に、薔薇姫の写真とネックレスの入った小箱――大切な宝物をしまい、施錠した。
男装王女である彼女のことを考えながら。
――サラちゃん。君は荊棘の道を歩んできたのだろう。
亡きレンゲ様との約束を守るために、小さな体でも剣術を極め、第一王女である秘密を死守してきた。
心細く、孤独を感じていたかもしれない。
だからこそ、これからは、俺が君を支える。
君を幸せにしてみせる。
<バニーガール編、完結!>
今話にて、無事に(?)完結しました!
サラちゃんの可愛すぎるお宝写真は、ダルテ様の金庫で厳重に保管されることに。
バニーガール編を温かく見守っていただき、ありがとうございました!
<ちょっとした近況と呟き>
今週、ある資格試験に挑戦いたします……!
実は……バニーガール編の執筆と同時並行で、資格勉強にも取り組んでおりました。
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次回もどうぞお楽しみに!




