父が遺した物語〜初恋相手は天使族〜 ※第3王子視点
【※注意】今話はダルテ(第3王子)視点回です。
レイトショー開始まで、あと10分。
俺は映画館の入り口付近で佇み、一人で待っていた。
すると、背後から、誰かが俺の肩をトントンと優しく叩いた。
「ごめんね、お待たせ……っ!」
母上は大急ぎで職場から駆けつけたようだ。
髪を後ろで軽く結んだまま、首に聴診器をぶら下げていた。
「母上、お仕事お疲れ様でした。そのお荷物、俺が持ちます」
俺は母上の仕事カバンを受け取り、「聴診器をカバンの中に入れてください」と声をかけた。
「ありがとう!」
嬉しそうに、母上はカバンのファスナーを開け、その中に聴診器を入れた。
さて、そろそろシアターに向かおうかと思ったところで、母上がポップコーンを買いたいと申し出た。
「ごめんね。映画館の醍醐味といえば、ポップコーンでしょう? 食べたいわ!」
「わかりました、買いに行きましょうか」
二人で売店の列に並んで待つ。
「……あら、コウモリくんは?」
母上がおっしゃった「コウモリくん」とは、俺の従魔であるチョコのことだ。
日中の映画はとっくに観終わっただろうし、今頃は俺の部屋でゆっくり休んでいるはず。
そういや、俺はチョコに、ゲーム機の充電器を買ってくるよう、指示を出していた。
「彼には、おつかいを頼んでおります」
「そう。じゃあ、注文しましょうか! この後、ご飯を食べに行くから、一番小さいサイズにしようかしら?」
「俺もそうします」
二人とも、キャラメルポップコーンのSサイズとホットコーヒーのセットを注文した。
商品を受け取った後、俺たちはシアター内に入り、待ちに待った映画を鑑賞することにした。
映画本編のオープニングで、原作者のクレジットが映し出される。
【原作者:ダナパⅢ世】――亡き父上のペンネームだ。
俺と同じく、王族の父上もかつて『第3王子』の称号を与えられた。
母上との間に俺が生まれたため、今は俺がその称号を引き継いでいる。
実際、この映画の主人公である病弱な少年・エノーのモデルは、幼少期の俺自身だ。
ただし、本編のストーリーは、俺の過去の経緯とやや異なっている。
俺の場合、病院の高度治療でも効果がなく、自宅で療養しながら、生きる意味すら見出せずに絶望していたところ――レンゲ様がお越しくださった。
『初めまして、ダルテくん。私はレンゲ。貴方を助けに来たわ。しばらくお邪魔しますね……』
今でも、はっきり覚えている。
色白で透き通った肌に、緩くウェーブのかかった銀髪のロングヘア。
大きなフリルが施された、エレガントなオフショルダードレスを纏っていた。
幼いながらに、俺は悟った。
目の前に現れたレンゲ様は、この国の王妃様なのだと。
最初の頃のレンゲ様は、鳥籠に捕らわれたお人形さんのようだった。
美しいけれど、メランコリックな雰囲気を纏っていた。
どこか悲しそうな表情を浮かべながらも、レンゲ様は天使族特有の回復魔法を駆使して、俺の病弱な体を健康な状態に戻してくださった。
元々、俺は病弱で寝たきりの生活を送っていたから、レンゲ様のおかげで快復した時は、生きることの楽しみを噛み締めていた。
前を向き、自らの足で立って、歩く。
歩くどころか、走ることもできるようになった。
元気になった俺の姿を見て、レンゲ様は心底喜んでくださった。
しかし、俺が健康だと診断された頃に、レンゲ様は新しい命を授かり、王宮へ戻られた。
『今度は、生まれた娘を連れてくるわ。ダルテくん、元気でね……』
その言葉が、最後の挨拶だった。
レンゲ様との思い出を辿っているうちに、ラストシーンに切り替わる。
主人公のエノーがヒロインのルイヨと再会を果たすシーンだ。
ルイヨはレンゲ様に似ているが、彼女よりもっと、生き写しのように似ている人物がいる……。
だが、俺の父上は、レンゲ様が第一王女を出産する前に亡くなられた。
どうして、ルイヨの容姿は、薔薇姫にそっくりなのだろうか。
その真相を知る由もなく、エノーとルイヨが結ばれたところで、エンドロールが流れた。
「……終わったね。行きましょうか」
隣で、母上が瞳を潤ませながら立ち上がる。
俺自身、映画の内容で色々聞きたいことがあったが、父上はすでにこの世にいない。
それでも、父上が遺した作品は生き続けていく。
何も語らず、母上と二人で映画館を後にし、駐車場まで歩くことにした。
その道中、突如、母上が歩みを止めた。
「あら、ウェディングドレスね。懐かしいわ……」
母上が指差した方向を目で追う。
ライトアップされたショーウィンドウの奥で飾られていたのは、純白のウェディングドレス。
俺はそのドレスのシルエットに、見覚えがあった。
ベールで顔を隠していた天使族のお嬢さんのドレス姿が脳裏によみがえる。
同時に、ゲーム世界で、薔薇姫がニコに伝えていた言葉も思い返す。
――『人助けの御礼でウェディングドレスを着た』と。
もしかして。
かつて、ダンと一緒にいた時に出くわした、花嫁姿のお嬢さんは……薔薇姫だったのか……。
あの時は、華奢な少女という印象が強かった。
だが、バニーガール衣装を纏った薔薇姫は……特に胸周りが豊かに成長していた。
「ダルテ、大丈夫? 考え事をしてるわね……」
首を捻った母上が、俺の前で「どうしたの?」と手を振る。
せっかくの機会だ。
天使族について、医師である母上に訊いてみることにした。
「このウェディングドレスを見て、以前出会った天使族の少女を思い出したのです。母上、天使族の回復魔法には、推奨年齢があるのでしょうか?」
「鋭い着眼点ね、答えましょう。推奨は18歳からよ。天使族特有のホルモンの分泌が促されて、身体の成熟が早くなる分、身長の伸びが止まる時期も早くなってしまうの。禁忌というわけではないけれど、成長期は控えた方が望ましいと言ったところね」
「……左様ですか」
「えぇ。ロイドくんと一緒に、レンゲ様から聞いた話よ」
薔薇姫――。
すでに、君は回復魔法を使ったのだろう。
しかも、短期間で何度も。
皮肉なものだ。
薔薇姫は正体を隠して、男として生きていくと決めているのに。
他者を救うために行使した回復魔法の影響で、天使族である彼女の体は大人の女性へと、急速に変化している。
「ダルテ、また考え事をしているのでしょう……。でも、前より表情が柔らかくなったわね。何かあった?」
母上はニヤニヤしつつ、「好きな人ができたの?」と呟きながら、再び歩き出す。
次は、俺が立ち止まる番だ。
「ご名答です、母上。この質問をしたのも、俺が恋したお嬢さんは……天使族かもしれないからです」
俺の答えに、母上はどこか嬉しそうに微笑んだ後、覚悟を決めた表情を見せた。
「そっか。そしたら、貴方に天使族の秘密を教えましょうか」
<ダナパ3世について>
名前の由来は「ダナパロイド」という医薬品から。なお、ダルテ様のお父様の本名はロイドです。
<感謝お礼>
ブクマ登録ありがとうございます!
お礼に登場人物のMBTIについて。
ダルテ様はINTJ。
レンゲ様はINFP。
二人は内向的なのです!(サラちゃんはENFP)
次回もお楽しみに。




