映画館で味わった純愛物語〜第一王女の涙と誓い〜
映画館に着いたぼくとニコくん。
ぼくのテンションは最高潮に達していた。
館内が、甘くて美味しそうな、ぼくの大好きな食べ物の香りで満たされていたから。
「わぁあああ! ポップコーンの良い匂いがするっ!」
「……寄るか?」
「うん!」
ぼくはニコくんと一緒に売店コーナーまで移動した。
ニコくんがタッチパネルを操作し、ポップコーンのメニューをぼくに見せてくれた。
「どうしよう。塩味も、キャラメル味も、気になる!」
「じゃあ、ハーフ&ハーフにして、大きいサイズで一緒に分けるのは?」
「ニコくん、天才! そうしよう!」
ぼくの要望に対しても、すぐに最高の名案を出してくれるニコくん。
続いてドリンクの選択画面が表示されたため、ぼくはホワイトウォーター、ニコくんはコーラを注文した。
そして、注文し終えたぼくたちは、シアターに入った。
座席は、後ろから二列目の豪華なペアシートだ。
(ふ、二人席……?!)
ちょっと恥ずかしいなと思いつつ、トレイを持ったニコくんが、「どうぞ」とエスコートしてくれたので、ぼくは奥の席に腰を下ろした。
「ありがとう」
「あぁ……」
ニコくんが隣に座ったところで、館内の照明が暗くなった。
スクリーンに映っているのは予告のCMで、本編が始まる前だったけれど、すでにぼくはポップコーンが食べたくて、ウズウズしていた。
(せっかくの映画館だし、今から食べてもいいよね……?)
我慢できずに、ポップコーンに手を伸ばしたところで、硬くて温かいニコくんの指が、ぼくの指先に触れた。
「ご、ごめん。先にいいよ?」
「大丈夫、お先どうぞ」
お互いに小声で譲り合っていたけれど、ニコくんが手を引っ込めてしまった。
だから、ぼくが先にキャラメル味のポップコーンを食べた。
(お、美味しい……! カリカリした食感に、キャラメルの甘さ。この贅沢な感じ、たまらないよ!)
ほっぺたが落ちるとは、まさにこのこと……!
一粒食べて、横をチラッと見ると、ニコくんは塩味のポップコーンをもぐもぐ食べていた。
(塩味も美味しそう! あっ! キャラメル味も美味しいって、伝えてみよう)
ニコくんがコーラを飲み、カップをドリンクホルダーに戻したところで――。
「ニコくん、キャラメル味も食べてみてね?」
囁きながら、ぼくは指先でひょいと摘んだキャラメル味のポップコーンを、ニコくんの大きな手のひらにそっと乗せた。
「……いただく」
ニコくんは「はぁ……」と照れ隠しするように息を吐きながら、ポップコーンを美味しそうに食べてくれた。
嬉しいけれど、さっきから、ぼくたちは……カップルみたいなことをしている気がする。
そう思うと、ぼくも恥じらいを覚えてしまう。
ストローでホワイトウォーターを一口飲み、映画本編に向けて気持ちを切り替えることで、緊張をほぐそうとしたけど、ダメだった。
正直、これから上映される映画を観るのはドキドキする。
ぼくと容貌が似ている女の子が出てくるから。
だけど、ここまで来たからには、しっかり最後まで観ようと覚悟を決めたところで、映画本編が始まった。
Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅲ
病院で入院中の小柄な少年――エノーは、自身の人生に生きがいを感じられずにいた。
病弱で、内向的。いつ死んでもおかしくない我が身。
誰も自分のことを心配しないだろうし、闘病生活の中で長生きする必要なんてないと、常に少年は諦めていた。
しかし、淡々と日々が過ぎてしまうのも、もどかしい。
気分転換に、エノーは医療スタッフと共に院内の患者図書室へ向かった。
そこで、彼は一体の人形を見つける。
だが、可哀想に、その人形の黒いワンピースの裾が、乱雑に切り裂かれていた。
医療スタッフが言うには、誰かに乱暴に扱われたせいか、修繕できない状態だから、置きっぱなしになっているらしい。
エノーは、見放された人形がどこか寂しそうにしていて、誰かの助けを求めているのではと気になってしまい……自分の病室まで持っていくことにした。
時間を持て余していた彼は、自身の裁縫セットを取り出す。
辛い治療の合間を縫って、美しい人形のお洋服を綺麗に直す、と決心した。
人形が纏っているワンピースの破れた裾を切り揃え、ミディアム丈からミニ丈に作り直し、縫い目のほつれも補強していく。
毎日コツコツ、欠かさずに。
一週間が経った頃に、お洋服の縫い直しが終わったと同時に、エノーは一時退院することになった。
「別れが名残惜しいな……」と呟きながらも、礼儀正しいエノーは、退院する前に、人形を患者図書室に戻したのである。
また会えると信じて。
すると、その思いが通じたのか、退院日の夜、エノーの自宅部屋に、一人の少女が現れた。
「あなたが私を助けてくれたのね。呪いを解いてくれてありがとう、エノー」
なんと、彼女は窓からやって来た。
その上、人形ではなく、ヒトの姿になって、言葉まで喋り出した。
「ごきげんよう、私はルイヨ。貴方がお洋服を大切に直してくれたから、呪いが解けたの。私ね、このワンピース丈、とっても気に入ってるわ! 貴方に恩返しをするから、また会いましょうね?」
ルイヨはすぐに姿をくらませ、その足で船に乗り込み、ある島へ向かって、旅に出た。
呪いから解放された彼女は、持ち前の優しさと明るさで多くの人々の心を掴み、とうとう、島で『秘宝の薬』を見つけ出す。
そして、再び眠っているエノーのもとへ戻り、その貴重な薬をベッド横に置いた。
翌日、エノーはその薬を飲んでから、見る見るうちに元気を取り戻していった。
終いには、入院どころか、通院する必要もなくなるまで。
エノーはすぐにお礼を言いたかったけれど、彼女がどこにいるのかわからない。
もう一度、あの患者図書室に足を運んだが、最初に見つけた場所にも、彼女はいなかった。
だが、近くに一枚の写真が落ちており、エノーは拾い上げた。
その写真に写っていたのは、ある島の風景と共に、黒いミニワンピース姿で無邪気な表情を浮かべるルイヨだった。
義理堅いエノーは、写真の背景に写っていた植物を手がかりに、島の場所を突き止め、海岸で彼女と再会を果たす。
「俺は運命を手放さない。命の恩人である君と、一緒にいたい……」
「私も。貴方と共にいたいわ。幸せだもの……」
二人はお互いの想いを確かめ合いながら、恋人になり、ハッピーエンドを迎えたのである。
Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅲ
まさか、ぼくに似た女の子が、最初は呪いをかけられて小さなお人形さんになっていたなんて!
けれど、病弱な少年と傷ついた人形が、お互いに思いやり、助け合ったことで……純愛が実った。
ぼくはこの恋愛物語に感動して、涙が溢れてしまった。
今は男装して正体を隠しているから、叶わないけれど。
いつか、ぼくも自分の手で、運命を掴み取ってみたいと願った。
<余談:名前の由来>
エノーは、エノキサパリンという低分子量ヘパリン薬の一般名から。
ルイヨは、ルイヨウショウマという植物から。
「エノー」は、「エ」「ノ」「ー」を組み合わせるとローマ数字の「Ⅲ(3)」に。
「ルイヨ」は、文字のパーツを分解して組み替えると「レンゲ」になります。
次回もお楽しみに。




