君と二人で生きる世界〜狼男はお姫様を離さない〜【※】
【※注意】第6王子によるスキンシップ表現あり(R-15:背後注意!)
「サラ……」
「ん……」
眠たい。
だけど、誰かがぼくを起こそうとしている。
さっきから、ぼくのほっぺたを指でツンツンと優しく触れている。
まだ寝ていたかったけど、ぼくはゆっくりと瞼を開けた。
視界に入ってきたのは、映画館のスクリーン。
でも、何も映っていない。
(あれ……? どうして、ぼくはここにいるの?)
ピクッと体が動いてしまい、その弾みで左隣に座っている人の腕に触れてしまった。
「ごめんなさいっ……!?」
大急ぎで謝ったぼくは、その人物の顔をチラッと見て、絶句する。
隣にいたのは、ニコくん……。
だけど、いつもと全然違う。
ニコくんの頭頂部には、フサフサとした野生的な狼の耳が生えていた。
しかも、いつもはお洒落な私服なのに、今の格好は昨夜遊んだゲームの狼男そのものだった。
「ニコくん。そのお耳……どうしたの?」
慌てて立ち上がろうとしたぼく自身も、妙な違和感を覚え始める。
(なんでだろう。すごくスースーする?)
恐る恐る、自分の身体に視線を落とす。
胸元が大胆に開いた白い衣装。
光沢のある生地が体に張りつき、剥き出しの脚がやけに心許ない。
お尻にはちょこんと丸い兎の尻尾がついていた。
そして、なぜか肩にかかっている、普段より少し伸びたぼくの髪。
「いやっ……!」
ぼくはこの衣装を知っている。
昨夜、ゲーム画面で何度も目にした、あの『シコンちゃん』と同じ格好をしていた。
それにしても、どういうわけか、ぼくは空のポップコーン容器を手に握っていた。
今はこれで隠すしかない!
パニック状態のぼくは容器を抱え、前屈みになって身を竦めた。
だって、人生で一番恥ずかしい格好をしている。
しかも、隣にニコくんがいる。
詰んだっ……!
不幸中の幸いか、布地が少ないとはいえ、左胸の第一王女のアザは衣装の下にしっかり隠れていたけれど、絶望的な状況に変わりない。
(こんな姿、マズいよ。ぼく、お嫁に行けなくなる!)
「……サラ、すぐに移動する」
ぼくが困っているのを見計らってくれたのか、ニコくんが慣れた仕草でポケットから液晶リモコンを取り出し、画面のメニューを素早く操作した。
その操作が終わった瞬間――。
ポンッ!
ぼくたちは、さっきのゲームで見慣れた場所『ニコくんの部屋』へテレポートしていた。
「いたたっ……」
「大丈夫か?」
カーペットの上で尻もちをついたぼくの前で、ニコくんが右手を差し出してくれた。
ぼくは学校にいる時と同じノリで、その大きな右手をギュッと握る。
すると、軽々と引き上げられ、すぐに立ち上がることができた。
「ありがとう、ニコくん!」
「あぁ……」
なぜか、ニコくんは顔を右側へ背けて、頬と耳のあたりを赤くしていた。
「ごめん。ぼくの格好、変だから……」
「いや、似合ってるさ」
ニコくんの低く、耳に残る声。
しかもストレートな物言いに、今度はぼくが真っ赤になってしまった。
(予想外の答え! 気まずいし、恥ずかし過ぎるよっ……!)
ぼくは何とか話を逸らそうと、藁にも縋る思いで視線を泳がせる。
「あっ、麻雀卓だ!」
部屋の片隅に置かれていた麻雀卓を発見したぼくは逃げるように、真っ先に椅子へ座り、ジャラジャラと麻雀牌を手に取った。
「最近、全然やってなかったやー」
「一緒にするか?」
「でも、一人足りないよ?」
麻雀は最低でも三人いないとゲームが成り立たない――と思ったところで、都合良く、『プレイヤーが参加しました』という無機質なシステムアナウンスと共に、白ウサギの大きなぬいぐるみがポツンと現れた。
そこで、ぼくとニコくん、そして謎のウサギさんの三人で麻雀(三麻)をすることに。
CPUなのか誰の操作かわからないけれど、そのウサギさんとニコくんが手強くて、ぼくは一度もアガることができずにいた。
それでも、ついに大チャンスがやってきた!
終盤。
なんとぼくは最後の局で……テンパイした。
しかも、役満である『四暗刻単騎』待ち!
ここでアガれば、一発逆転できる!
(僥倖ッ……! って、いけない! おじさんが読んでた漫画のセリフが、つい心の中で浮かんじゃった……!)
一度深呼吸をして、冷静になってみることにした。
「リーチ」と宣言する前に、他の二人の河がどうなっているか見てみよう。
ぼくが勝負で切らなければならないのは、【三索】だ。
ウサギさんはすでに河に三索を切っているから問題なさそう。
問題はニコくんだ。
ぼくはニコくんの顔をじっと覗き込んだ。
(むむっ……この牌を切ったら、ニコくんにロンされちゃうかな? でも、ここで勇気を出してアガれば大逆転だ! どうしよう。ニコくん、ポーカーフェイスすぎ! 表情が全く変わらないよー?!)
「ん? 直感で出せばいいだろ?」
「そ、そうだね! 立直ッ!」
ニコくんの言う通りだ。
勢いよく立直と声を出して、ぼくがパシッと牌を切った途端。
ニコくんはニヤリとして、手牌をパタッと倒した。
「ロン」
「うわぁっ! どうしてー! でも、ニコくんってすごいね。もしかして、最初からぼくの手の内がわかってたの?」
「手牌自体は見てないけど、すぐに分かった。サラはテンパると、その頭のウサ耳がピコピコ揺れるから」
「そんなぁ……!」
ウサ耳と言われてハッと気づいた。
麻雀に熱中していた時は忘れていたけれど、今のぼくは、バニーガール衣装のままだったんだ。
やっぱり猛烈に恥ずかしいし、昨日の夜更かしの疲れもドッと押し寄せてきて、急に眠たくなってきた。
チラリとニコくんの横顔を見ると、機嫌は良さそう。
麻雀卓の牌を片付けた後、ぼくは思い切って提案してみた。
「ねぇ、ニコくん。そろそろ戻ろう?」
「戻るって、どこへ?」
即答だけど、ぼくの思っていた答えとは違った。
「どこって……現実に!」
「いや、このまま二人でいてもいいだろ」
「このまま……?」
事情はわからないけれど、ニコくんには戻りたくない理由があるのかもしれない。
だからこそ、「戻りたくないの?」とは聞けずにいた。
一方で、ニコくんは深刻な顔で話を続ける。
「君がいてくれるだけでいい。オレのことをいつも褒めてくれるのは君しかいないから」
「へっ!」
「オレは君に出会ってから変わった。生きてきてよかったと思うようになったんだ。だから、今度は君が自由に生きられるようにする。君の小さな体を守れるのはオレだけだ」
ニコくんの言葉はすごく嬉しい。
けれど、か弱い存在だと思われたのはちょっと心外だった。
「でも、小さくても、ぼくも自分のことは自分で守れるもの! ダン先輩と同じ剣術検定一級を持ってるよ?」
負けたくない一心で、ついダン先輩の名前を出してしまったところ、ニコくんの表情がわずかに曇ったように見えた。
その表情に後ろめたさを感じながらも、ぼくも後には引けなかった。
(認めてほしい。ぼくだって、これまで一生懸命頑張ってきたんだ。お母さんとの約束を守って、男の子として立派に生きていくって、覚悟も決めてるよ)
「……本当か?」
「うわぁっ!」
突然、ガシッと腕を掴まれ、ぼくはバランスを崩しそうになった。
怪我しちゃう――と覚悟してたものの、ニコくんがぼくの背中をぐいっと両手で支えてくれた。
ニコくんらしい。
転びそうになった時は、いつだってこうして助けてくれる。
しかし、かえって、お互いの距離が一気に縮まってしまった。
「正直驚いた。この数ヶ月だけで……成長したんだな……」
「やっ! 見ないでっ!」
咄嗟に腕で隠そうとしたけれど、ニコくんの方が早かった。
バニースーツの薄い生地越しに、ぼくの女の子としての身体のふくらみがニコくんの胸板にピタリと押し当てられていた。
「男装するのも限界なんじゃないのか?」
「そんなこと……!」
図星で何も言い返せない。
抵抗する間もなく、ぼくは仰向けのまま、ニコくんのベッドに押し倒されてしまった。
「やっ……誰か……!」
「大丈夫。オレがいる……」
「あぁっ……!」
正面から、力強くハグされてしまった。
ぼくを見下ろすニコくんの頭上で、狼の耳がピンと立っている。
抵抗しても、ピクリとも動かない。
まるで、絶対にぼくを離すつもりなんてないみたいに。
(無理だぁ……勝てない……逃げられないよ……!)
「ここでなら、もう男のフリなんかしてなくていい。女の子として、オレと二人で生きていけばいいだろ……」
とうとう、ゲーム世界でニコくんのスイッチが入ってしまいました……!
サラちゃん、大ピンチ!
次回もお楽しみにᕱ⑅ᕱ♡




