消えた第一王女の行方〜手がかりはチョコレートと破廉恥バニー〜 ※第2王子視点
【※注意】ダン先輩(第2王子)視点回です。
チュンチュンチュン。
小鳥の鳴き声で、わたしは目を覚ました。
「ん……ここは、自室か……?」
昨日、わたしはニボルさんたちの野球チーム【コーヒーペンギンズ】の打ち上げ会に参加した。
その時、外野を担当していたニボルさんの友人が、差し入れでチョコレートをくださった。
あのチョコレートを口にしてから、わたしは意識がぼんやりして、体が熱くなり……。
そこから先、何が起きたのか、全く覚えていない。
それなのに、今のわたしは自室の布団で眠っていた。
ふと枕元を見ると、水のボトルが置いてある。
(あれ? いつの間に……。そういえば、喉が渇いているな)
水を一気に飲み干し、玄関へ向かうと、隅に一枚のミルクチョコレートが落ちていた。
そのミルクチョコレートを手に取った瞬間、昨夜の夢がまぶたの裏に浮かぶ。
夢の中で、わたしは第一王女様に告白していた。
彼女の顔は見えなかったけれど、とても優しい声をしていて、まるで女神のような存在だった。
彼女が生きているとわかって、嬉しさのあまり、わたしは涙を流してしまった。
だが、彼女のアザがどこにあるのか、見つけられなかった。
なんて甘くて苦い夢だ。
都合の良い妄想だと苦笑いしながらも、わたしは疑問を抱き始める。
(どうして、チョコレートがここに?)
もしや――昨夜、ここに第一王女がいらっしゃったのではないか。
確かめずにはいられない。
急いで浴衣を脱ぎ、特別科の制服に袖を通す。
ネクタイをきっちり締め、髪を整えてから、最後に香水を振った。
「よしっ……」
わたしが気合を入れて扉を開けたところで、浴衣姿の双子とばったり出くわした。
「部長、おはようございますー!」
「どうしたんですか?! なんで特別科の制服を?」
「二人とも、ここでお嬢さんを見なかったか?!」
らしくない、余裕のない問いかけだ。
だが、第一王女が近くにいるかもしれない。
思わず前のめりになって詰め寄っていた。
「いやー、朝食のビュッフェに女性自体、一人もいませんでしたよ?」
「そうか……」
「あっ! そうだ!」
双子のシロが、朝食会場の奥を指差した。
「ニボルさんが部長を探していましたよ。『ヒーローにふさわしいヒロインを預かっているんだ』って」
「ニボルさんが? わかった、恩に着る!」
わたしは迷わず一直線に歩き出した。
「ヒロイン」という言葉が、胸に刺さる。
ニボルさんは、第一王女について何か重大な事実を知っているのかもしれない――そう信じて。
朝食ビュッフェの会場に着くと、わたしは真っ先にニボルさんのもとへ向かった。
「おっ、ダンくん! 昨日と違って、今日はネクタイでビシッと決めてるねぇ〜。遠征中のプロ野球選手みたいでかっこいいね!」
爽やかな顔で、ニボルさんはコーヒーを飲みながら、競馬新聞を読んでいた。
「ニボルさん、おはようございます。少しお時間よろしいでしょうか?」
わたしはニボルさんの隣に腰を下ろすと、ポケットから丁寧に、ハンカチで包んだミルクチョコレートを取り出し、テーブルに置いた。
「昨夜、このチョコレートが落ちていたのですが……。誰が置いたのか、心当たりはありませんか?」
「チョコレート?!」
ニボルさんはチョコレートをじっくり眺めながら、「うーん」と首を傾げた。
「無人売店で売っていたチョコレートだね。誰が置いたのかはわからないけれど、サラちゃんが好きそう!」
(まさか、サラが届けてくれたのか?)
昨日、医務室でサラのおへそを見て、プロポーズにも等しい言葉を囁いてしまった記憶が甦る。
大切な息子さんの――いや、違うか。
ニボルさんはサラのことを「サラちゃん」と呼んでいる。
前々から気になっていたことだ。思い切って聞いてみよう。
「ニボルさん。不躾な質問をお許しください。あなたは、サラの……お父様ではないのですね?」
わたしの問いに、ニボルさんのカップを持つ手がぴたりと止まった。
「以前、あなたがサラを車で送っていたところを見かけました。あなたは彼のことを『サラちゃん』と呼び、彼はあなたを『おじさん』と呼んでいた。血縁にしては、あまり似ていないように見えました。差し支えなければ、サラの身元について、どこまでご存知なのかお聞かせいただけますか?」
困った顔をしながら、ニボルさんは笑って答えてくれた。
「鋭いね、ダンくん。そうだね、僕はサラちゃんの本当の父親じゃないんだ。親代わりに面倒を見ているただのおじさんさ。あの子には、色々と事情があってね……」
わたしの推測は当たっていた。
やはり、サラと血は繋がっていないんだ。
「そうでしたか。無礼な問いを、申し訳ございませんでした」
「いいんだよ。それよりダンくん、昨日の夜は大丈夫だったのかい? 僕の友達が、君に酒入りのチョコを渡したみたいで。さっき聞いて、肝を冷やしたよ」
ニボルさんは申し訳なさそうに頭を下げると、バッグから一枚のカードを取り出した。
「これ、お詫びと言っちゃなんだけど。ある漫画の特製キャラクターカードなんだ。昨日のヒーローにふさわしいヒロインを用意しておいたんだよ。受け取ってくれるかな?」
「カード、ですか?」
手渡されたのは、煌びやかな加工でハートマークの形が描かれた一枚のカード。
裏返すと、そこには淡い紫色の髪をなびかせ、際どいバニーガール衣装を身に包んだ美少女キャラクターが描かれていた。
「この子は若者に人気な『シコンちゃん』だよ。可愛いかな?」
「……っ!」
カードを見た途端、わたしの顔はマグマのように熱くなった。
色白の肌に豊かな胸、スラリと伸びた足、そしてぴょこんと跳ねたウサ耳。
「は、破、ハ、破廉恥だッ! 公共の場でこのような、肌の露出を……!」
「えぇっ!? そんなに? トレンドに寄せたデザインなんだけどなぁ」
愕然とするわたしを余所に、ニボルさんはのんびりとコーヒーを飲んでいた。
「なぜバニーガールなのですか?! この服装は女性が風邪を引いてしまう!」
「安心して! シコンちゃんは2次元の女の子だからね? 推し文化を共有したくてね」
ニボルさんは強引に、わたしの掌にカードを握らせた。
(2次元? 推し文化? ニボルさんは、得体の知れない御仁なのか……?)
わたしは困惑しながらも、カードの「シコンちゃん」を見てみる。
明るい笑顔で、背中には天使の羽根。
美味しそうにチョコレートケーキを食べている姿。
どこか、思い当たる節がある。
そうだ。わたしは、ウサギが大好きな彼と一緒にケーキを食べに行った……。
「あっ、サラちゃん!」
ニボルさんが後ろを向いた。
つられて振り返ると、学ランをきっちり着こなし、剣術袋を背負ったサラが気恥ずかしそうに立ち尽くしていた。




