1-9 帰る場所
駅で、電車に乗り込む。
朝とは、反対方向に向かう、電車へ。
――少し見たら、すぐ戻ろう。
家の様子。
いまの自分は、神崎家と何の関係もない。
「……美鈴、優人」
つい、名前を呟いてしまう。
あの二人に、会うつもりはない。
ただ、少し様子を見るだけだ。
車窓から見える景色を見ながら、そう自分に言い聞かせる。
いつも見ていた景色。
変わらない、毎朝見ていた風景。
あとひと駅で、降りるところだ。
――あの道、優人と歩いたな。
――あのスーパー、家族3人でよく買い物しに行くところだ。
思い出す、ほんの数日前までの光景。
家が、近くなってきた。
もう何年も、帰ってないような感覚。
――顔を、見たい。
――ひと目、だけでも。
駅に着いた。
家までは、もう、歩いて数分だ。
だけど――――
――行ってどうする?
――今のお前は、あの二人から見たら、赤の他人だぞ?
自分の中で、もうひとりの自分が、そう言っているような気がして。
足が、止まる。
「……ひと目、だけだ」
もう何度目なのか、また、呟く。
ここまで来たんだから、ひと目だけは。
そう思って、また歩き出す。
心臓の音が、うるさく感じる。
あそこ、あの角を曲がれば――
見慣れた、家。そこに、あった。
だけど――何かが違う。
家の前に、見慣れない車が停まっている。
黒い服を着た人達が、玄関から出入りしている。
玄関脇に――白い花。
通夜の準備を、している。
誰の?
そんなもの――
分かりきっている、はずだった。
医師の言葉が、頭をよぎる。
「――亡くなりました」
あの時、理解したつもりだった言葉……
まるで泥の塊のように、重く心にまとわりついてくる。
自分の、通夜。
自分の、死。
汗が、冷たい。
ここから、逃げたい。見たくない。
ひと目見たくて、来たはずなのに。
気づけば数歩、後ずさっていた。
「……あ」
玄関の扉が開いた。
中から姿を表したのは、会いたかった人。
「……美鈴」




