1-6 孤独な夜
気が付くと、窓の外はもう暗くなっていた。
「……飯にするか」
冷蔵庫にあったコンビニ弁当を、温めて机に置く。
ここでは、食事も勉強机で済ませていたのだろう。
「いただきます」
手を合わせる。
――はーい。優人もいただきますしようね――
返事してくれる相手は、いなかった。
「……味、ちょっと濃いな」
――味、大丈夫?ちょっと味付け失敗したかも、ごめんね――
「この漬物、優人が好きかも」
――「つけもの」「おかわり」「ください」――
音が、無い。
箸の音。自分の、独り言。
周りは、ただ、静か。
誰の声も、返ってこない。
「ご馳走様」
片付けを終えて、シャワーを済ます。
「……寝るか」
今日はいろいろありすぎた。さっきまで感じなかったが、今になって眠気が来た。ベッドで、横になる。
「……」
「…………」
夜って、こんなに静かだったか……?
冷蔵庫の駆動音が、やけに耳につく。
美鈴、今何してる?
ごめんな。突然こんなことになって。
必ず、戻るから。
優人、寝たかな。
お父さん、優人の隣で寝たいよ。
「……おやすみ」
声に出してみる。
だれも、返してくれない。
闇の中、まるで世界中に自分一人しかいないみたいだ。
……会いたい。優人、美鈴。
……寂しい。声を聞きたい。
……帰りたい。
鼻の奥がツンとして、目から――――
――直文、優人の歯磨き手伝ってあげて?――
美鈴が、洗い物しながら頼んでくる。
「はみがき」カードを見せて、優人を洗面所に誘導する。
最初は自分で磨くけど、仕上げ磨きを必ずしてやる。
あーっ、と開けた口が、かわいい。
歯磨きの後、「おふろ」カードを見せて風呂に入る。
「〜〜♪」
湯船に浸かる優人に向かって歌を歌ってやると、優人がその続きをハミングで歌う。
楽しそうに笑う優人。
美鈴が風呂場の外から声をかけてくる。
――楽しそうに歌ってるね――
目覚めると、もう朝だった。
……寝る前の事を、思い出す。
情けない。40にもなって、寂しさで泣くとは。
……切り替え、ないとな。
まず、これから何をする?
「朝食……の後に、学校に連絡かな」
冷蔵庫にあった食パン。電子レンジにオーブン機能があったので、焼いて食べた。
それから、学校に電話をかける。
このまま無断で欠席する訳にはいかないだろう。
電話口で、名前とクラスを伝え、担任に代わってもらう。
「ああ、永田か。退院したんだな。体調はどうだ?」
「……大丈夫です」
「今日は休んでいい。無理するなよ」
「そうします。すみません」
「何かあったら、連絡しろ」
「はい。では、失礼します」
「お大事にな」
……永田、か。
「永田理真」として扱われることに、まだ慣れないな。
【あとがき】
作中で優人が使っている「はみがき」「おふろ」「おかわり」「ください」などのカードは、PECS(絵カード交換式コミュニケーション・システム)をイメージしています。
言葉でのコミュニケーションが難しい人が、絵や写真などのカードを相手に渡すことで、自分の要求や気持ちを伝える方法です。
優人にとって、言葉を話さなくても「伝える手段」はちゃんとある。
そんな日常の一つとして描いています。




