1-5 ただいま
「考えても仕方がない、か」
あの父――あの、男、のことは一旦忘れよう。
理真の家に、まずは移動だ。
――部屋番が分からなかったが、ポストに「永田」と書いてあるのが1件だけだったため、すぐにわかった。しかし――
「永田理真」名前は、1人分だけだった。
一人暮らし?
……高校生、だよな。
疑問は置いといて、部屋の前まで行く。鍵は、鞄に入っていた。鍵を回し、ドアを開ける。
「……ただいま」
静寂。やはり、誰もいない。
それだけじゃない。
寂しい、無機質な部屋。
――直文、おかえり――
――また優人、おとうさん来たのわかったの?急いで玄関行ったんだよ――
部屋の中を見渡す。
あるのはベッド、机、冷蔵庫、スマホ、学生カバンなど最低限のもののみ。
キッチンには食器もほぼない。ゴミ箱に、コンビニ弁当のゴミがあった。自炊していないのか。
――ごめーん、煮物、味が薄すぎたかも――
――「おかわり」「ください」――
………………無機質さの、理由。
生活感が、ない。
ここで、高校生が一人で暮らしていたのか?
「永田理真」は、どんな暮らしをしていたのか?
想像出来る。けど、想像できない。自分の家庭と、違いすぎる。
「……まあ、今だけは、好都合なんだけど」
家族がいると、元の理真との違いでトラブルがあるかもしれない。その点では、都合が良かった。のだが……。
「ともかく、まずは現状把握しないと」
若干後ろめたさがあったが、机の引き出しやカバンの中身を確かめてゆく。「理真」のことを知らないと。これから、生活していくために。
調べるにあたって、最初に手をつけたのは学生鞄。
中にあったのは、筆箱、教科書、ノート……
そして、鞄の内ポケットから、財布。
現金は、1000円札が数枚。小銭と合わせると、5000円ほど。
コンビニのレシート。買ったのは、おにぎりとお茶。
電車の定期券。
学生証を見つけた。
「永田 理真」
15歳。
隣町の公立高校の名前、そして顔写真。
写真の中の少女が、こちらを見返していた。
……自分じゃない。
写真の中の少女の目が、何かを言いたげに見えて――
学生証を伏せ、財布の中に戻した。
財布を置いて、スマホを手に取る。
認証を突破できるか?と思ったが、顔認証で大丈夫だった。
……理真の顔が映る。いまの、自分の顔。
――通知を見てみる。
学校からの連絡があった。それだけ。
家族の連絡先は?
緊急連絡先を調べてみると、「父」の1文字。あの父か。
あとは、学校のみ。
……これだけか?母親は?
母らしい名前は、なかった。
スマホを置いて、冷蔵庫を開けてみる。
中にあったのは、コンビニ弁当が1個。ペットボトルの、お茶が数本。食パンがひと袋。
調味料や、食材の類いはない。
――直文、冷蔵庫のマヨネーズ取ってきて―――
――「アイス」「ください」――
うちの冷蔵庫には、美鈴の作り置きの料理があったり、優人の好きなアイスが入っていたりしたな……
………………
部屋を、見渡す。
一人暮らしにしては、広い。
けど、それ以上に、空っぽに感じる。
着替えを入れる収納ボックス、机、ベッド。
あとは、冷蔵庫、電子レンジ。これで全部。
テーブルすら、ない。
空いた床が、余計に広く感じる。
「……誰も、いないのか」
その呟きにも、答えるものは、誰もいない。
――優人。美鈴。何してるだろう。
――会いたい。
――――――寂しい――――――
そんな気持ちが湧いてきて、抑えられなかった。
これまで、自分の家には、「家族とのつながり」があった。
帰ると、美鈴の「おかえり」や、優人の出迎えがあった。
リビングには、優人が使う絵カードやおもちゃ。美鈴の料理。
キッチンで、料理する美鈴。食器を洗ってくれとたのまれて洗っていると、お手伝いに来た優人が濡れた食器を拭いてくれる。
「ありがとう」と言う。
優人が得意気な顔をする。
様々な音や声が、家の中にあった。
この部屋は……
静寂。人の気配すら、ない。
永田理真。
彼女はここで、どう過ごしていたのだろうか。




