1-3 他人としてでも
「亡くなっています」
自分のことを、そう聞かされた直文。
自分が死んだ?
いまの状態を、受け入れられるのか。
「――――さん」
なにか、聞こえる。
「永田さん」
声だ。
「永田さん」
少しずつ、輪郭が、できてゆく。
「大丈夫ですか?しっかりしてください」
医師が、心配そうに話しかけていた。
――亡くなっています――
心臓の音が、うるさい。
オレが?
死んだ?
じゃあ、今、ここにいるのは?
「永田さん、大丈夫ですか」
永田さん。自分を呼ぶ声。
今の自分の、名前。神崎では、ない。
いまの、じぶんは――
「……すみません、大丈夫です」
なんとか、そう答えた。汗ではりつく服が、気持ち悪い。
「すみません……やはり、お伝えするべきではありませんでした」
そう謝罪する医師。今はここまでにして、休んでください、と言い残し、部屋を出ていった。
看護師が、体を拭いてくれた。その後、横になりましょう、と促され、ベッドに横たわる。
自分は……神崎直文は、死んだのか?
薄れてゆく意識の中で、それだけを考えていた……
――――今日は優人、落ち着いてたよ――――
――――優人、嬉しそうだよ。お父さんが休みだと、いつもこうだよね――――
優人が、笑顔を見せている。
美鈴が、それを見て、楽しそうに笑う。
自分の手を見る。美鈴に、不器用なのが丸わかりだと笑われた、太く短い指。
優人が、「おさんぽ」「ください」カードを渡してくる。
しょうがないな、お出かけするか。
どこに行く?優人のお気に入りの、神社に行こうか?神さまにごあいさつして、ゆっくり歩いて、近くのベンチに腰掛けて。大好きなジュースを飲んで――――――
目が覚める。
白い、天井。
――――夢、か。
手を見る。白い腕、細い指。
ベッドの名札――『永田理真』の名前。
オレは……死んだのか。
いまのオレは……別人なのか。
――――優人。
その名前が、浮かぶ。
――――美鈴。
顔が、浮かぶ。
――――死ねない。
まだ、終われない。
家族を置いて、このまま、死ねない。
わかってる。もう、死んでる。でも、死ねない。
この身体が、誰であっても。
他人としてでも。
家族のもとに。
優人のところに。
――――戻る。




