2-13 彼女の『好き』
朝、目が覚める。
「……5時半?」
早すぎた。登校の時間まで、まだ結構ある。
身体が変わっても、習慣って続くんだな。
いつも、この時間には起きて、朝の用意してたからなぁ。
顔を洗って、朝食を食べて、仕事に行く用意。
ある程度用意がすんだら、優人のスケジュールボードに1日の予定を貼ったりしてたっけ。
「時間、余裕あるな」
朝にこんな余裕あるなんて、いつ以来だろう?
なんとなく、部屋を見渡す。
この一週間で、見慣れてきた部屋。
冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機。ベッド、机。
生活に必要なものは、一応揃ってる。最低限は。
『必要なものは揃えておいた』
昨日見たメッセージを思い出す。
……理真がここで暮らし始めたのって、つい最近の事だったんだな。
『父』のメッセージの通り、暮らせるようにはなってる。
だけど——それだけだ。
『揃えておいた』という言葉。つまり、これらの物を用意したのは、あの『父』。理真が、選んだものじゃない。
自分が結婚する時、家具は美鈴とふたりで選んだものだった。
——ふたりで使うんだから、一緒に見るものでしょう?——
そう言って、ふたりで回った家具屋。オレが選んだものを美鈴が却下したり、美鈴が気に入ったものをオレが渋ったり。
そんな事があっても、最後には、二人で選んだ。
でも、この部屋は違う。
ここにある物は……『理真の感覚』で選んだものじゃ、ないんだ。
理真が暮らす部屋にあるのに、彼女が選んでない——
「……いや」
キッチンを見る。鍋や、食器。ここに、初めはなかったもの。
「オレが買ったものも、同じか」
勝手に揃えたもの。理真は、選んでいない。
もう一度、部屋を見渡した。
この部屋のものからは……理真の心が、見えないんだ。
彼女自身の、『好き』が——
机の上。アクスタが、目に入った。
よく見ると、真新しいものじゃない。
「ここに来る前から、持ってたのかも」
彼女がここに来たのは、つい最近。
なら、これは、ここに来る時に理真が持ってきたものなのか。
机の上に佇むこのキャラクター。
これ、好きだったんだろうな。
「……っと、そろそろ支度するか」
考え込んでたら、時間が過ぎた。
食パンを焼いて、ベーコンエッグを乗せて。申し訳程度に、レタスを皿に盛りつける。
「うん、うまく焼けた」
ベーコンエッグ乗せたトースト、好きなんだよな。
食べてるのが机だから、皿が増えると狭いんだけど。
視界の隅にアクスタが入る。
「理真が好きな食べ物ってなんだろうな」
優人や美鈴が好きだったものなら、知ってるけど。
——理真が好きなものは、まだ分からない。
食器をシンクで水につけて、身支度をすませる。
靴を履いて、玄関の扉を開ける。
行ってきます、と言おうとして。
机の上に、目をやった。
「行ってきます」




