2-12 痕跡
机の上を、もう一度見る。
静かに佇む、アクスタ。華やかな衣装をまとって、大きな杖を持つ少女だ。
「スマホの中に、何かあるかな」
ネットの閲覧履歴を見てみる。最初に出てくるのは、この一週間、電車の時刻表や学校の場所の情報など。オレが使った痕跡。
そこから、さらに遡る。あの日——事故の日から、さらに前へと。
ここからは、理真が使った痕跡——そう思うと、手が止まる。
あの事故の日まで、生活していた1人の女の子が見ていたもの。
オレに見られるなんて、思ってもいなかっただろう。
「……ごめんな」
指を動かした。
履歴を見ていくと、同じ小説のページが何度も出てくる。
「これ、かな」
小説を開いて、作品ページのイラストを見てみる。……あった。
机の上に立っているのと、同じ少女。
「このキャラ、好きなのかな」
紹介文を読んでみる。
幼い頃から呪いを受け、そのせいで周りを不幸にしてしまうからと、人を遠ざけて孤独に生きてきた少女。主人公やその仲間たちと出会い、絆の中で呪いを祝福に変えた聖女……か。
「華やかな見た目なのに、重い過去があるんだな」
理真、こういうのが好きだったのかな。
好きなキャラについて、誰かと話したり、笑いあったり。
そんな生活が、あったんだろうか。
そんなことを思いながら、通話履歴やLINEのメッセージを見てみた。
「……少ない」
通話履歴は、ほとんどない。トークも、学校からの連絡やクラスメイトとの短いやり取りくらい。
何もないわけではないけど、雑談らしいものが……ない。
「理真……普段、誰と話してたんだ?」
そういえば、家族は?
指を動かし、連絡先を見てみる。
「父」の一文字を発見した。
「……あの父親か……」
父とのトーク履歴を開いて中身を見る。
最近のメッセージは、事故より2週間ほど前のものだった。
『生活費は口座に入れてある』
『わかりました』
次のメッセージは、そのさらに数日前。
『必要なものは揃えておいた。明日、マンションに行け』
『わかりました』
その前——もう、見たくなかった。
なんなんだ、この父——
——この男。
ここに来た時も、あまりの態度に絶句したが、このやり取りは……。
それに。
理真……。
『わかりました』
『わかりました』
なにも……言わなかったのか。
「嫌だ」とも、「どうして」とも、書いていない。
何故、別居したのかは、わからない。
このやり取りだけでは、理真がどう思っていたのかも、わからない。
いったい、どんな顔で、この返事を送っていたんだろう。
鏡を見る。
写っているのは、自分の——理真の、顔。
彼女は、何も答えない。
まっすぐこちらを見返すその瞳に——問いかけた。
「君は、どんな子だったんだ?」




