2-11 君のこと
「ただいま」
その声に、返事はない。
そのことにはもう慣れてきたが、なんとなく言ってしまう。
靴を脱ぎ、敷居を跨いで、部屋に入る。
頭の中は、さっきまで会っていた二人のことばかり。
——美鈴。
話し方はしっかりしてたけど、顔色が悪かったな……
ちゃんと、寝られてないのかな。飯、食えてるのかな。
それから——優人。
そばに寄って来てくれた。
びっくり、した。嬉しかった。
だけど……
右手を見る。
さっき、優人が握ってきた手。
なんで、握ってきたんだろう。
いまのオレは、優人から見れば、知らない人のはず。声も、顔も、何もかも、「オレ」とは違う。
それなのに……あんなふうに、近づいてきた。手を握ってきた。
なぜ?
わからない。
まさか……
「いや、そんなわけ、ないな」
父親だなんて、気づくはずがない。
自分の手を、見る。
優人が握ってきてくれた、手。温もりを思い出す。
最後に手を繋いだ時……その時よりも、大きく感じた。——自分の手が、変わったからか。
以前と全く違う、自分の手。小さく、細い。
この手は、オレの手じゃない。
理真の……手だ。
「そういえばオレ、この子の事、ほとんど知らないんだよな・・・」
部屋を見渡す。
いまは、オレが買ってきた調理道具が増えたけど、初めてこの部屋に入った時にあったのは……本当に、生活に必要な最低限のものだけだった。
静かな室内。本当に——余分なものが、一切ない。
無駄がない、というのとは違う。なんというか……暮らしている人の気配がない、という感じ。
理真……君は、ここで何を思って過ごしてた?
そんなことを思いながら、見回して……机の隅に、目が止まった。
小さなアクリルスタンド。
そういえば……ずっと、ここにあったな。
気にも留めてなかったけど、これだけ、まわりから少し浮いてる。
「これ……なんだろう?」
何かの、キャラクターだろうか。
スマホを手に取り、画面を開く。
「……」
いや……勝手に見て、いいのか?
この一週間、何度か使ってはいるが、必要に駆られてのことだけにしていた。
けど、今やろうとしてるのは——
考えて、ひとつ息を吐く。
「今さら、か」
身体まで借りておいて。
「ごめん……少しだけ」
君のことを、教えてくれ。




