2-9 ひとりの食事
結局、夢の中の声がなんだったのかは、分からなかった。その日は夕食を済ませて、シャワーを浴びた後、何もする気になれず・・・そのまま休んだ。
ーー翌朝。
朝日の眩しさで、目を覚ました。
スマホで時間を確認すると、いつもより遅い時間。
今日は土曜日か。優人も休みだし、今日はどこに行こう・・・?
そこまで考えたところで、完全に目が覚めた。
・・・そう、だった。
ここに、優人はいない。
美鈴も……いない。
いっしょに出かける家族は……誰も。
こんなこと、いつ以来だろう。
「今日はどこに行く?」と、聞く相手もいない。「何をするとこの子が楽しく過ごせるかな」なんて、考えることもない。
ひとりで過ごす、休日なんて。
「……とりあえず、朝飯にしようかな」
冷蔵庫を開ける……
「……しまった」
何もない。昨日、買い忘れた。……仕方ないので、コンビニに行って買ってきた、おにぎりですませる。
それにしても、もうずっと、コンビニ飯ばかりだな。さすがに、飽きてきた。
「……自炊、するかな」
予定もないし、必要なものを買ってこよう。
そうして、何件か店をまわり、ある程度の調理器具を買ったあと、スーパーで食材を見る。
「何買えばいいかな……あ、あれ」
漬物を手に取る。これ、優人が好きなやつだ。
優人、何回も漬物ばかりおかわりするから、「ご飯も食べなさい」って美鈴に止められてたっけ。
野菜売り場で、小松菜を見つけた。
美鈴が和風スープにしてくれてたやつだ。「野菜もちゃんと食べてね」って言って。
「あ、タコの刺身」
美鈴の好物なんだよな。前に買った時、喜んでたんだよ、これ。
……カゴの中を見て、我に返る。
「何やってんだ、オレ……」
食べるのは、自分一人なのに。
漬物を、元の場所に戻そうとする。
…………
「別に、オレも嫌いじゃないしな」
結局、そのままレジに向かった。
部屋に帰る。
「ただいま」
買ってきた食材を、冷蔵庫に入れる。
いままで出番のなかった——多分、本来の理真がこの部屋に住み始めてから1度も——キッチンに、鍋とフライパン、そのほかいくつかの調理器具と、茶碗と数枚の皿を並べる。
……勝手に色々買い揃えて、理真が戻ってきた時、どう思うかな……
まあ、コンビニ飯ばかり続けるより、体にもいいだろうしな。そんなにレパートリーある訳じゃないけど。
昼食は、冷凍うどん、漬物、タコの刺身。
まあ、コンビニ飯よりはマシだろ。
うどんを一口啜り、漬物を口に運ぶ。
——「つけもの」「ください」——
優人、オレの皿のものまで奪って食べようとしてたよなぁ。さすがに止めたけど。
しょうがないなあ、全く……って、思わず笑ったんだ。
タコの刺身を、一切れ食べてみる。
「……?」
なんだろう。味気ないというか……
そういや、結婚するまではそこまで好きじゃなかったっけ。美鈴が幸せそうに食べるから、一緒に食べるようになってたけど。
……ひとりで食べると、こんな味なのか。
「ご馳走様」
食べ終えたら、食器を洗う。
棚などはないので、食器カゴに置いたままになるけど。
昨日までより、少しだけ物が増えたキッチン。
ここで暮らして、いくんだな。
漬物のパックを、冷蔵庫に入れる。
……優人、ご飯食べたかな。
冷蔵庫のドアを、そっと閉めた。




