↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君とともに、もう一度。~事故で死んだ父親は女子高生として家族のもとへ戻る~  作者: つけた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/25

2-7 今の自分が、帰る場所

 学校が、見えてきた。

 電車の中、ここまでの道、ずっと心臓は早鐘を打っている。

 意気込んで家を出たが、不安は大きい。1歩1歩、足を出すたび、回れ右して帰りたくなる。


 ……大丈夫。


 心の中で、そう繰り返しながら、歩を進める。


 校門の、前まで来た。

 足が止まる。

 深く息を吸い、吐き出す。


 ……行こう。

 覚悟を決めて、校内に入る。

始業よりも、少し早めの時間。同じ服装の学生たちが、周りを通り過ぎてゆく。


「永田」

 声をかけられ、一瞬驚く。声は、前から聞こえた……つい、下を向いてしまってたな。視線を上げると、30代くらいの男性の姿。

「おはよう。来たな。体調は、大丈夫か?」

 声に聞き覚えがある。電話で話した、担任の先生だ。

「おはようございます、心配おかけしました」

「記憶が曖昧、って言ってたな。何か手を貸すことはあるか?」

「……すみません、自分の下足箱が……」

「ん。こっちだ」

「あと、教室が、わからなくて」

「一緒に教室まで行く。その後は職員室戻るけど、すまんな」

「……ありがとうございます」

 

 教室まで歩く間、体調や、痛みはあるか、といったことを聞いてくる以外は無言だった。特に心配するような顔もしていないが、気遣ってくれているのだろうな。

 もし自分なら……大丈夫か?辛くなかったか?とか聞いてそうだな。こういう感じの気遣いは、この人の人柄なんだろう。

「ほら、ここだ」

 そう言って担任が立ち止まる。

「何人か、もう来てる生徒もいるな。入れるか?」

「……はい」

「勝手な判断で悪いが、クラスのやつらに記憶の事は言ってある。分からないこととかは、他の奴にも頼れ」

「はい」

「……困ったことがあれば、職員室に来い。じゃ、後でな」

「ありがとうございます」


 担任が去り、1人になる。

 扉を開く。中に、数人の生徒。こちらに気づいたひとりが声を掛けてきた。

「あ、おはよ」

「……お、はよう」

 しまった、噛んだ。

「怪我、大丈夫なの?大きな事故だったんでしょ?」

「……あ、うん。軽傷ですんだから……」

 さらに数人の子が、聞いてきた。

「列車事故なんて、怖かったでしょ」 

「あ、いや、実はあんまり覚えてなくて……それに、ところどころ、記憶が曖昧なんだ」

「あ、センセーに聞いたよ。なんか分からないことあったら、聞いてね」

「あ、ありがとう。……えっと、早速で悪いんだけど……」

自分の席が分からない、と言うと、一人があそこだよ、と窓際の席を教えてくれた。

「ありがとう」

 お礼を言うと、困った事あったら言ってね、と言って、みんなそれぞれのグループに戻って行った。


そこから先は、問題なく過ごせた。

 

だんだんと増えるクラスメイト、何人かは事故の事を聞いてくるが、その度に「あまり覚えてない」と返す。事前に知らせてくれていたからか、深く聞いてくる者もいなかった。


教師が来て、ホームルームがはじまる。最初に一言「永田は、事故の後初登校だから、不便があったら助けてやってくれ」と言ってくれた以外は、特に変わったところもなく終わった。


それから始まる、授業。


机の上。ノートとペン。

簡単だ。黒板の文字を書き写す。

社会人のように、速さや効率を求められることもない。ただ、ここにいて、無難に過ごせばいい。

楽では、ある。


だけど。


思考が、そこで止まる。

 

(今、なにしてるかな)

つい、呟いてしまう。誰にも聞こえないほどの、小さい声。

向ける相手は、ここにはいない。

でも、決まっている。


 思い出す。

  ——優人。

その名前が、はっきり残る。

 昨日、あれから少しは、落ち着けたかな。

 ——美鈴。

 疲れた顔、してたな。

 少しは休めただろうか。


 そんな事を考えていたら、チャイムが鳴った。

 

 ……気がつけば、昼休みも終わり。

 午後の授業も、なんとか乗り切れた。


帰りのホームルームも終わると、クラスメイト達は「じゃあね」「またあした」と交わし、帰宅していく。

  

自分も、玄関へ向かい、靴を履く。

校門を出て、振り返ってみる。

……終わった。

なんとか、1日乗り切れた、かな。


どっと疲れが出る……。家に帰って、少し休みたい。


 ……家。


 多分、いまは……葬式の最中か。


 美鈴の、優人の、顔が目に浮かぶ。


 神崎家に向かう電車の時刻を、つい考えてしまう。


 ……でも。

 行っても、今日は何もできないだろう。この「自分」は、葬式には出られない。


 ……帰ろう。

 理真の部屋へ。

 今の自分が、帰る場所へ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。