2-4 はじめての再会
電車をおりて数分歩き、会館が近くなってきた。
「神崎家 式場」と書かれた看板が、電柱に設置されている。
「この角を曲がる、と……」
見えてきた。通夜の会場だ。
正面玄関が見える所まで来て、看板が目に入る。
「故 神崎直文 儀 葬儀式場」
自分の名前を見た瞬間、心臓が跳ねた。
大丈夫。もう、わかってる事だ。取り乱しは、しない。
ここで、見送るんだな……「自分」を。
覚悟は、決めてきた……つもりだ。
もう少し、近くまで……いや、あまり近くには、行かない方がいいか。
親戚や美鈴たちに見られない方がいい。
少し離れた場所で、中の様子を伺う。
自分や美鈴の親戚の顔が見える。近所の人や職場の同僚が中に入っていくと、頭を下げて対応している。
少し奥を見ると——
いた。
ふたりが、いた。
美鈴……そして、優人。
「……美鈴……」
つい、名前を呟いてしまう。
昨日よりも、はるかに疲れた表情。
目が赤い。表情も、硬い。
来客の対応は、こなしてはいるけど……声をかけられて、泣いてる。
優人は、不安そうだ。葬儀場なんて、慣れない場所だからな……
今は美鈴と繋いでいるその手、前に葬儀に出た時は、オレと繋いでたんだ。
周りを、キョロキョロ見てる。
落ち着かない様子が、よくわかる。
見覚えのあるひとが、入っていった。確か、美鈴のママ友だ。
美鈴のそばに寄って、声をかけてくれている。
そこで……美鈴が、両手で顔を覆い、しゃがみ込んで、声をあげて泣き出した。
そんな美鈴を、ママ友は背中をさする。周りの親戚たちも、支えようと集まってくれている。
……優人は?
優人の方を見ると、しきりに周りを見回している。さっきより更に、不安そうな顔。
——出入り口のドアが、開いた。
優人が、外を見る。
美鈴も、他の人たちも、誰も気づいていない。
一歩。
また、一歩。
そして——走って、外に飛び出した。
目の前には、車道。
——優人——
考えている暇など、なかった。
ただ、体が動いた。
「ダメ!」
優人の身体を、抱きとめる。
「う——!あ——!」
声を上げる優人。その背中を、ゆっくりと撫でる。
「よしよし、大丈夫……大丈夫。怖くないよ」
「う——!う——……」
だんだん、落ち着いてきた。
「よしよし、ここにいるよー、大丈夫……」
背中をさすりながら、手を握る。
「……?」
落ち着いたあと、こちらの顔をじっと見る優人。キュッと、軽く手を握り返してきた。
「優人!」
声がかかる。
誰の声か考えるまでもない、聞きなれた声。
美鈴の声。
急いで駆け寄ってきた美鈴……涙も拭かず、くしゃくしゃの顔で……優人を、抱きしめる。
「優人……ごめんね。手、離しちゃったね、ごめんね」
こちらには目もくれず、必死で優人に声をかける美鈴。
……泣いてる美鈴の背中に、手を置こうとして……
そこで美鈴が、こちらに気づいた。
「あ……ありがとう…ござ…います。たす…助けてくださっ…たんですね」
……涙声で、こちらに頭を下げる。
無理して丁寧に話そうとする、その様子が、今の自分達の距離感を感じさせて。
少し、冷静になれた。
「いえ、飛び出してくるのが見えただけですから」
そう言って、こちらも頭を下げる。
それを聞いた美鈴は、涙をふいて、もう一度頭を下げた。
「本当にありがとうございます。あの……もしかしてですが、うちの通夜に、来てくださったんですか?」
「……はい」
「それは……ありがとうございます。ぜひ、中へ……」
……ここまで、来たんだしな。
美鈴に導かれ、会館の中に入った。
優人が、なぜかこちらをじっと見つめていた。
会館のスタッフが、声をかけてくれた。
「こちらへどうぞ」




