2-1 今だけは
第2章始めました!
ここまではほとんど「家に帰りたい」で行動してきた直文が、ここからどう動いていくのか、見守ってくださると嬉しいです!
かちり。
玄関の鍵を回す。
「……ただいま」
返事はない。
ただ、静かな部屋。
——美鈴の泣き声も、
——優人の喃語も、「おとうさん」のカードも。
誰の声も、ない。
でも、いまの自分が帰ってきたのは——ここだった。
ベッドに腰掛け、自分の手を見る。
「まだ、わかってなかったんだな」
あの家に、帰れないこと。
「ただいま」と……言えないこと。
——あの家に行けば、家族が迎えてくれると、どこかで思っていたのかもしれない。
そんなはずが、無いのに。
——美鈴。
泣いてたな。
あんな声……初めて聞いた。
大丈夫なわけが……なかったんだ。
打ち合わせの会話の、硬い声。
感情がこもらない、あの声。
無理してるんだ。
——優人。
「おとうさん」「ください」カード、出したんだな。
おとうさんを、探してるのかな……。
もう、帰れない。
このままでは。
どうしたらいい?
静かな部屋では、いくら問いかけても、答えてくれる人はいない。
ただ、自分に問いかける。
どう、したい?
……帰りたい。できなくても、やっぱり。
方法は?
……答えは、出ない。
……それなら。
いまは、目の前の事を考えよう。
「……明日は、通夜だな」
今日は、美鈴を一目見ただけになってしまった。それ以上、耐えられなかったから。
でも、やっぱり、きちんと顔を見たい。優人も、美鈴も。
参列することはできないだろう。けど、やっぱり。
「……行こう。明日、もう1回」
決めた。そして、口に出した。
今度は、逃げないために。
会えない事実と、向き合うために。
どうしたらいい?その答えが、見つかるかもしれない。
だから、行こう。
心が決まった。その途端、腹が空いてきた。
「そういえば、朝食以来何も食べてないな」
気がつけば、もう日が沈んでいた。
……夜。
この部屋で過ごす、2度目の夜。
部屋を見渡す。
……やはり、この静かさは、慣れないな。
冷蔵庫を開ける。何も、無い。
「……そうだった」
仕方無いので、コンビニで買ってきた。朝、立ち寄ったところだ。
勉強机で食べるコンビニ弁当は、やはり味気ない。
……今日、家に行った。美鈴と優人のいる、家へ。
あの家で、家族と、いつも話しながら食事してきた。
いまは、1人で弁当を食べている。
……理真は。
彼女はいつも、こんな食事だったんだろうか。
「この子は、いつもこんなふうに過ごしてたのかな」
永田理真——この部屋で暮らしていた、本来の彼女。
自分が今、感じている——孤独。
昨夜感じた、静寂。
理真は……いつも、この部屋で、1人だったんだろうか。
もし、そうなら。
彼女も、寂しかったのかもしれない。
「……ごめんな」
この身体は、君のものなのに。
今、自分は、君の人生を勝手に使ってる。
学校。友達。……日々の、生活。
本来なら、君が過ごしていくはずの時間だ。
それを、オレが勝手に。
だけど。
今だけは。
今だけは、許して欲しい。
明日も、神崎家に行く。
君の人生を、自分の勝手な都合で……使わせてもらう。
本当にすまない。
だけど——家族を、放っておけないんだ。
第2章もお読みいただき、ありがとうございます。
「この先が気になる」「もう少し、この物語を読んでみたい」
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これから少しずつ、直文の家族、そして理真のことに踏み込んでいきます。
今後ともお付き合いいただけましたら幸いです。




