第5話 一発で吹っ飛ぶ爆弾?
黒鉄の砦、最深部。魔王軍の兵器開発部門である『黒曜工房』。
金属の焼ける臭いと魔力の残滓が漂うその場所で、首席錬金術師を名乗るクロムは、高笑いしながら眩しく輝く超巨大な魔導爆弾を叩いた。
「見ろバルトロ! これが一発で城壁を吹き飛ばす我が最高傑作『終焉の業火』だ!
人間の騎士団どもなど一瞬で塵よ!」
「おお……凄まじい威圧感だ……」
感嘆の声を漏らすバルトロの横で、僕はすかさずその巨大な鉄塊を《鑑定》した。
【兵器名】終焉の業火
【製造コスト】最高級魔石100個
【費用対効果】極悪(一発で魔王軍の月間予算が溶ける)
(……ダメだ。完全にロマン兵器じゃないか)
僕は手帳に容赦なく×印をつけ、クロムに視線を向けた。
「素晴らしい威力だね。で、これはあと何発作れる?」
「バカを言うな! 貴重な最高級魔石を湯水のように使うんだ、これ一発で今月の開発予算は限界だ!」
「じゃあ不採用。開発中止。これに割いてるラインは即刻停止して」
静寂が訪れた。
クロムは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後、顔を真っ赤にして掴みかからんばかりに吼えた。
「な、なんだとこの素人がァ!! 魔王様のために最高火力を追求して何が悪い!」
「一発撃ったら破産する兵器なんて、ただの経営圧迫のゴミだよ。
クロム。君の『爆発の術式』の理論は天才的だ。
だが、コストが高すぎる。なぜ最高級の魔石が100個も必要なんだ?」
「術式を隅々まで均一に起動させるには、濁りのない最高級魔石の結晶でなければ魔力が途切れて暴発するんだよ!
不純物の多い安物じゃ絶対に無理だ!」
クロムが悔しそうに机を叩く。
(なるほど。半導体の歩歩留まりが悪いような状態か。
だったら、結晶にこだわらなければいい)
「クロム君。要は術式全体に、魔力が『均一』に行き渡ればいいんだよね?
結晶である必要はない」
「はあ? 結晶じゃなきゃどうやって魔力を繋ぐんだ!」
「液体だよ」
僕は、先日ガラムから格安で買い叩いた物資のリストを突きつけた。
「最高級魔石を1個だけ粉々に砕いて、この安物の『魔力ポーション』に溶かす。
それを不揮発性の液体と混ぜて、術式の回路に流し込んだらどうなる?」
「な、何だと!? 不純物だらけの液体を混ぜるだと!? 術式が濁って暴発──」
言いかけて、クロムの動きがピタリと止まった。
ブツブツと何かを呟きながら、狂ったように計算紙に数式を書き殴り始める。
「……液体なら、結晶のヒビ割れがない。
魔力は不純物ごと、完全に『均一』に分散する?
いや、むしろ液体の方が術式の伝達速度が跳ね上がる、か!?」
クロムは目の色を変えて、僕の手からポーションの瓶を引ったくると、実験室へ飛び込んで扉を閉めた。
数分後。
ズドォォォン!!
重々しい爆鳴響が響き、扉が吹き飛んだ。
ススだらけの顔で出てきたクロムは、小さな液体の入った小瓶を手に、ガタガタと震えていた。
「バ、バカな……。コストは百分の一以下なのに、液体だから魔力の伝播速度が跳ね上がって、さっきの巨大爆弾以上の威力を出しやがった!
これなら、手投げのサイズでいくらでも量産できる!」
クロムは驚愕の眼差しで僕を見つめ、その場にへたり込んだ。
「あんた……いったい何者なんだ? 創造の神か!?」
「ただの元経営者だよ。不採算部門を改善しに来ただけだ」
驚いて言葉もないバルトロに、僕は歩み寄って手帳を開いて見せた。
「バルトロさん。人事、物流、財政、そして火力。これで砦の『インフラ』は最低限整った。でも、まだ足りないものがある」
「これ以上、何が必要だというのだ……?」
「『食』だよ。人間界から買い叩いた小麦を消費するだけじゃ、いつか限界がくる。
せっかく調達コストを削ったんだ、浮いた予算を次は『農業生産』に投資しよう」
僕は窓の外に広がる、手つかずの荒れ果てた大地を見据えた。
「この砦の周囲を開墾して、魔王軍独自の食料自給ラインを立ち上げる。
最強の軍隊を作るには、まずは胃袋からだ」
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