第4話 魔王軍をカモにする商人
黒鉄の砦、執務室。
僕はバルトロが持ってきた調達帳簿を睨みつけ、盛大にため息を吐いた。
「バルトロさん。この調達費用、いくら何でも高すぎる。
ただの錆びた鉄の剣一本に、なんで金貨三枚も払ってるんだ?」
「……アルテニア王国の闇商人ガラムから仕入れているのだ」
バルトロは悔しそうに拳を握り、がっくりと肩を落とした。
「魔界は鉄が貴重でな。人間界との密輸ルートを握られている以上、奴の言い値で買うしかないのだ。逆らえば物資が途絶える」
「なるほど。完全な売り手市場をいいことに、魔王軍がカモにされてるわけだ」
僕はペンを回しながら、ニヤリと笑った。
「バルトロさん、今日そのガラムとの定期取引(納品)の日だよね?
僕も同席させて。ボッタクリの鼻をへし折って、仕入れ値を十分の一にするから」
◇
同日、砦の密談室。
アルテニア王国の闇商人ガラムは、粗悪な武器の詰まった木箱を前に、長椅子にふんぞり返っていた。
「おいおい、バルトロ副長。今回は金貨が足りないようだが?
嫌なら他を当たれ。まあ、俺が取引を止めれば、お前たちの武器は来月からゼロだがな。ハハハ!」
バルトロは押し黙る。その脳筋な武力では、経済の盾を持つ商人を脅すこともできない。
そこで、僕はバルトロの後ろから一歩前へ出た。
「ガラムさん。経営者として、ずいぶん強気な商売をされますね」
「あぁん? なんだその貧弱な人間は。魔王軍の奴隷か?」
僕はすかさず、鼻で笑うガラムに《鑑定》を仕掛けた。
【名前】ガラム(ガラム商会・会頭)
【不満度】95%(アルテニア王国での小麦の大暴落、死蔵在庫による倒産危機)
【弱み】王国の倉庫に大量の余剰在庫(型落ち防具・暴落した小麦)を抱え、今月末までに現金化できないと不渡りを出して商会が倒産する。
(ビンゴ。中身はボロボロの自転車操業じゃないか)
「ガラムさん、そんなに強がって大丈夫ですか?
ガラム商会、今月で『不渡り』を出しそうですね?」
「っ!? な、何を根拠に……!」
ガラムの顔から一気に血の気が引く。
「アルテニア王国は今年、記録的な大豊作だ。
おかげで小麦の市場価格は例年の三分の一に大暴落。
さらに、王国が関税を上げたせいで、あなたの倉庫には行き場を失った大量の小麦と、型落ちした鉄製防具が『死蔵在庫』として眠っている」
「な、なぜそれを……!」
「このままじゃ倉庫の維持費だけで商会は倒産だ。
今、あなたに一番必要なのは『言い値の金貨』じゃない。
どんなに安くてもいいから、在庫を今すぐ引き取ってくれる『即金での大口顧客』だ。違いますか?」
ガラムはガタガタと震え出し、額から滝のような冷や汗を流した。
「取引の再定義をしましょう」
僕は契約書をガラムの前に滑らせた。
「その粗悪な剣は返品。代わりに、あなたの倉庫で腐りかけている小麦と型落ち防具、うちが全部まとめて購入します。
ただし、定価の二割で。もちろん、現金で即、全額払いますよ」
「ふ、ふざけるな! 二割なんて……!」
「市場で紙屑になるよりはマシでしょう。
倒産か、魔王軍への安値売却か。どちらを選びます?」
ガラムは絶望に顔を歪め、がっくりと肩を落としてペンを握った。
「……サインする、サインすればいいんだろ! あんた、本当に人間か? 悪魔よりあくどいぞ」
「ただの元経営者ですよ」
◇
数日後。
中央倉庫には、人間界から破格の安値で買い叩いた大量の小麦と頑丈な防具がうずたかく積まれていた。
調達コストは従来の「十分の一」に激減。
魔王軍の財政は一気に改善された。
「ダイスケ殿……!」
山積みの物資を見上げ、バルトロが震える声で言った。
「アルテニア王国の最高品質の物資が、これまでの端金で手に入るとは。
我が軍の財政は完全に息を吹き返した。もはや魔法だ……!」
「市場を制する者が戦争を制するんだよ。さて、資金にも余裕ができた」
僕は満足して手帳を閉じ、ふっと笑った。
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