第3話 脳筋オークの使い道?魔王軍に爆速の物流ラインを敷いてみた
黒鉄の砦、中央倉庫。
そこに足を踏み入れた瞬間、僕は思わず頭を抱えた。
「最悪だ……。これは倉庫じゃない、ただのゴミ屋敷だ」
広大な空間には、武器、防具、食料、薬草の詰まった木箱が、何の秩序もなく文字通り「山積み」にされていた。
奥では、手先が不器用な大柄のオークたちが、小さなポーションの瓶や矢の束を識別できずにイライラと床にぶちまけている。
「ここが我が軍の物資集積所なのだが……」
案内してくれたバルトロが、申し訳なさそうに髭を揺らす。
「恥ずかしながら、何がどこにどれだけあるか、誰も把握していないのだ。
前線から『矢をくれ』と言われても、探すだけで半日かかる始末でな」
「話にならないよ。消費期限切れの干し肉の隣に、高級な回復薬が放置されて腐りかけてる。
必要な時に必要なモノが出せない組織は、それだけで死に体だ。
これらは全部『不良在庫』だよ」
僕が冷徹に査定していると、倉庫の片隅から「フンッ!」と荒々しい鼻息が聞こえた。
前回のゴブリンの現場から外され、倉庫番に回されていたオーク隊長のゴルグだ。
彼は腹いせのように、大人が三人掛かりで運ぶような巨大な物資の木箱を、片手で軽々と持ち上げて壁際にどかした。
その異常な怪力を見て、僕は思わず彼のステータスを《鑑定》した。
【種族】オーク(隊長)
【不満度】88%(小鬼の指揮を奪われ、やることがない)
【適性】重量物高速搬送(適性値 S)、現場監督・統率(適性値 A)
(なるほど。手先は不器用だが、あの圧倒的なパワーと移動速度。
異世界のフォークリフトじゃないか。おまけに統率力もある)
僕はニヤリと笑い、ゴルグの元へと歩み寄った。
「ゴルグ隊長。その有り余る筋肉、ここでくすぶらせておくのはもったいない。
君に『物流部門の最高責任者』を命じる」
「あぁん!? 荷物運びだと? 俺たち誇り高き戦士に、奴隷の真似事をさせる気か、人間!」
ゴルグが巨体を震わせて威嚇してくるが、僕は一歩も引かない。
「奴隷の真似事じゃない。君たちの怪力とスピードがなければ、この軍は明日干からびるんだ。
いいか、今からこの倉庫を三つの区画に分ける。
Aは武器、Bは食料、Cは医療だ。床に色のついたラインを引く」
僕はさらに、手先は器用だが戦えない下級魔族のインプたちを呼び集めた。
「君たちは『仕分け担当』だ。必要なモノに、区画と同じ色のついた札を貼れ。
そしてゴルグ隊長、君たちオークはその札を見て、指定のラインに沿って超特急で荷物を運ぶんだ」
「チッ、そんな子供騙しの遊びに付き合えるか――」
「本日、一番多く、そして正確に物資を運んだチームには、今夜の飯の肉を三倍、さらに冷えたエールをガツンと支給しよう。
もちろん、現場監督のゴルグ君には特別ボーナスを出す」
言い終わるか否か。
ゴルグの目が、獣のようにギラリと輝いた。
「おい野郎ども!! 札の色をよく見ろ! 武器は赤だ!
チンたら動いてんじゃねえぞ、他のチームから肉と酒を毟り取るんだよ!!」
「「「オオオオオッ!!」」」
凄まじい地響きが倉庫内に鳴り響いた。
インプたちが爆速で木箱に色札を貼り、それをオークたちがゲーム感覚で、恐ろしい笑顔を浮かべながら次々と担ぎ上げていく。
戦場での突撃さながらの連携。
ものの数時間で、あれほど混沌としていたゴミ屋敷は、どこに何があるか一目でわかる「最新鋭の物流センター」へと変貌を遂げた。
「ハァ、ハァ……どうだ人間! 完璧に仕分けてやったぞ! 早く肉と酒を出しやがれ!」
汗をかき、妙に充実した顔で僕の前に立つゴルグ。
彼のステータスを見ると、不満度は10%に激減し、忠誠心は80%に跳ね上がっていた。
実に出し入れが分かりやすい脳筋だ。
「素晴らしい手際だ、ゴルグ。
君は前線で無駄死にするより、ここで物流を支配する方が何倍も輝いてるよ。
これぞ適材適所だ」
「ふ、フン……分かればいいんだよ、分かれば」
ゴルグが照れくさそうに頭を掻いていると、バルトロが血相を変えて魔術通信機を持って飛び込んできた。
「だ、ダイスケ殿! 前線の砦から悲鳴のような通信が……!
『頼んでもいないのに、欲しかった矢と温かい飯が、完璧なタイミングで届いた。
何が起きたんだ、魔王様のご乱心か』と大騒ぎだ!」
僕は満足して手帳を閉じ、ふっと笑った。
「ご乱心なものか。これがロジスティクスの力だよ。
さて、足元と物流は整った。
次は……この調子で、魔王軍の『財政』、無駄なコストカットに切り込もうか」
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