表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: アカメノコバチ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/42

第41話 世界完全子会社化計画

大陸最大の商業都市ゼノビアの中央ギルドが、魔王軍の直営拠点『黒鉄の砦・ゼノビア支店』へと買収されたニュースは、人間界のすべての王宮を文字通り震撼させた。


「魔王軍が……武力ではなく『商売』で大陸を呑み込もうとしている!」


危機感を募らせた大国の中央王権たちは、緊急首脳会議を招集。


彼らは最後の防衛策として、黒鉄グループの商品に対する「全面的な禁輸処分」と、網の目のように広がる「大街道の武力封鎖」による経済制裁を電撃的に決定したのだった。



黒鉄の砦・ゼノビア支店の最上階、全面ガラス張りの広大な支店長室。


「ダイスケ殿! 人間の諸王国が、ついに大街道の主要ルートに軍を配置し、物流を力ずくで封鎖し始めたぞ!」


バルトロ大将軍が、最新の地政学地図を円卓に叩きつけて叫んだ。


地図の上では、大国の軍隊を示す赤いコマが、大街道の結節点を塞ぐように並べられている。


「フン、追い詰められた王どもが、最後の悪あがきを始めたな」


最高戦略顧問のカイム先生が、片目でその配置を睨みつけて冷笑した。


「武力で大街道を奪い返そうという魂胆じゃ。

ダイスケ、ここが正念場じゃぞ。

これまでの展開で人間界の胃袋は握ったが、国家の軍隊が本気で大街道を潰しにかかれば、我が社の物流網もタダでは済まん」


バルトロさんも、カイム先生も、次こそは本気の実戦になると、全身から闘気を溢れさせている。


だが、デスクでいつも通り手帳を開いていた僕は、コーヒーを優雅にすすりながら、クスリと静かに笑った。


「バルトロさん、カイム先生。

そんなに殺気立たないでください。

国家権力が物流を止めるなんていう前時代的な脅しを使ってくるのは、最初から織り込み済みですよ」


「ぬっ……!? 織り込み済みだと、ダイスケ殿!」


「ええ。対抗してこちらから軍を出す必要はありません。

ハンス君、連絡を。

今日一日、我が黒鉄グループのすべてのセクターを【完全ストライキ】にして。

こちらから先に、ボタン一つで世界をロックアウトするんだ」


「了解しました、ダイスケ殿!」


ハンスが即座に手帳の無線魔導具を起動し、魔王軍の全セクターへ総参謀直命の停止信号を送った。


これが、人間界のすべてを戦わずしてひざまずかせる、史上最大の経済カウンターの幕開けだった。



ストライキが実行されてから、わずか数日。


大街道を封鎖したはずの人間の諸王国がどうなっているか、ハンスが手帳の報告書を読み上げ始めた。


「ダイスケ殿、各地から凄まじい悲鳴が届いています!

まず食料インフラですが、ゴードン先生の農地からの供給をピタリと止めた結果、大国の王都では一瞬にして深刻なパン不足が発生。

飢えた民衆による怒涛の暴動が巻き起こっています!」


「ククク、大街道を封鎖したせいで、自分たちの国内市場へも食料が届かなくなったわけじゃな」


カイム先生が愉快そうに片目を細めると、ハンスがさらに続けて報告する。


「はい! さらに前線や冒険者たちも機能停止しています。

クロムさんの黒曜工房が誇る高品質な魔力ポーションや武具の出荷を止めたため、人間界の兵士たちが『こんな粗悪で高い旧ギルドの装備じゃ戦えるか!』と、一斉に職務放棄を始めました!」


「ガハハハ! 武器があっても、使う現場の士気がゼロでは軍隊などただの案山子だな!」


バルトロさんが豪快に笑うのを見届け、僕は手帳のダムの工程表に目をやった。


「仕上げに、レムリア公国の巨大ダムの水門をさらに絞らせてもらったよ。

これで隣接する大国へ流れるバイパスの水量は激減だ。

今頃は王宮の美しい庭園も、軍馬の給水所も、一瞬にして干からびているはずさ」


各国の王宮では、今この瞬間も悲鳴のような報告が絶え間なく飛び交っていることだろう。


彼らは大街道をただの道だと思っていたのだ。


それが、すでに自国の生命線を握る血管であり、それを自らの手で縛ることがどれほどの自殺行為であるかを、脳筋の王たちは理解していなかった。


戦う前に勝手に自滅していく人間界の諸王に向けて、僕はフロント企業のガラムを通じ、一通の招待状を同時に送付した。


『血を流して無駄な戦争を続けたいなら、どうぞお好きに。

ですが、我が黒鉄グループの傘下に入り【下請け】になる契約書にサインすれば、明日から新鮮な水も、美味い飯も、最高の魔導具も、すべて定額で元通り供給してあげますよ』



それから三日後。


『黒鉄の砦・ゼノビア支店』の超巨大な受付ロビーには、前代未聞の奇妙な光景が広がっていた。


「お、おい! 押すな! 我らはレインフォード王国の使節であるぞ!」


「知るか! 我が国はもう水がなくて限界なのだ! 先に契約書にサインさせろ!」


そこには、豪華な王冠を被った人間界の王たちや、高名な大臣たちが、汗をだくだくと流しながら、受付カウンターの前に大行列を作って平伏していた。


かつて魔王軍を汚い魔族と蔑んでいた権力者たちが、今や生き残るために、プライドを全て投げ捨てて魔王軍の直営拠点へすがりついてきているのだ。


「……素晴らしい。本当に、一本の剣も振るわぬまま、人間界のすべての王が、儂らの拠点の前に列をなしておるわ」


支店長室の窓からその大行列を見下ろし、カイム先生が戦慄を通り越して、深い恍惚の溜息を漏らした。


「地政学の歴史が、完全に塗り替えられた瞬間じゃな。

ダイスケ、お前という男は、世界そのものを机の上で完全に買い叩いてみせたのだ」


「バルトロ大将軍。現場の警備と、契約した国への物流ルートの再開シフトをお願いします。

これからは、人間界の王たちも全員、我が社の大切な下請けですからね。

ホワイトな環境でしっかり働いてもらいましょう」


「ガハハハハ! 応ともさ、総合参謀!

王どもを部下に持つとは、これ以上のホワイトな職場はあるまいな!」


バルトロさんは嬉しそうに胸を叩き、すぐに現場の指揮へと向かった。


僕は満足して手帳をパチンと閉じ、不敵な笑みを深く刻んだ。


「ハンス君、調印式の準備をして局長。

これより、人間界全域の【経営統合】に関する最終調印式を始めるよ」


戦闘力ゼロのおっさんが仕掛けた、世界のインフラハッキング。


すべての国々が自らの油断によって、魔王軍の巨大な経済の網に囚われたことに気づいた時には、もう逃れる術はなかった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

続きが気になったら、ブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ