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僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: アカメノコバチ


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第31話 無能な幹部ほど会議を増やす

第一軍を再編した翌朝。


魔王城の執務室に入るなり、机の上に積まれた羊皮紙の山を見て、僕は思わず足を止めた。


「……何これ」


隣にいたバルトロさんが、苦々しい顔で答える。


「古参幹部たちからの会議申請だ」


僕は一枚目を手に取る。


【第一軍再編妥当性確認会議】


二枚目。


【総合参謀権限範囲検討会】


三枚目。


【魔王軍伝統維持に関する意見交換会】


四枚目。


【古参幹部合同協議会】


五枚目。


【緊急遠征方針再検討会】


読み進めるほど、頭が痛くなってくる。


「半日で二十七件……?」


「ザガンを中心に、第二軍長、第四軍長、遊撃軍長たちが一斉に出してきた。

表向きは、お前の権限を確認したいという名目だ」


「表向きは、ね」


「なるほど」


僕は羊皮紙を机に戻した。


「無能な幹部ほど会議を増やす、か」



その日の昼。


魔王城の大会議室には、ザガンをはじめとする古参幹部たちがずらりと並んでいた。


ザガンは包帯を巻いた腕を組み、僕を睨みつけている。


その隣には、痩せた蛇のような第二軍長。


巨大な角を持つ第四軍長。


軽薄な笑みを浮かべる遊撃軍長。


彼らは皆、不満げな顔をしていた。


だが、《鑑定》に映る本音は、もっと分かりやすい。


【第二軍長】不満度83%

【本音】次に自分の補給記録を見られるとまずい。


【第四軍長】不満度79%

【本音】防衛設備費の使途を突かれたくない。


【遊撃軍長】不満度91%

【本音】遠征費で養っている私兵の存在を隠したい。


そしてザガン。


【ザガン】不満度100%

【本音】とにかくダイスケを失脚させたい。


実に素直だ。


会議室の上座では、マオ社長が胃のあたりを押さえていた。


『ええと……本日の議題は、総合参謀ダイスケの権限について、だったかな……?』


ザガンが勢いよく立ち上がる。


「その通りです、魔王様! 第一軍の解体は明らかな越権行為! 

人間ごときが、古き魔王軍の仕組みを勝手に壊すなど許されません!」


第二軍長も続く。


「そもそも、改革には十分な議論が必要です。拙速な決定は組織を混乱させます」


第四軍長が重々しく頷く。


「よって、今後すべての改革案は、古参幹部による審議を経てから実行すべきです」


遊撃軍長が薄く笑った。


「そうですな。最低でも三回の事前会議と、二回の承認会議は必要でしょう」


僕は思わず感心した。


「すごいな」


ザガンが眉をひそめる。


「何がだ?」


「ここまで露骨に、決めない仕組みを作ろうとするのは、逆に才能だよ」


「貴様……!」


僕は立ち上がり、手元の資料を会議卓に置いた。


「では、皆さんの希望通り、会議について検討しましょう」


古参幹部たちの顔に、わずかな勝色が浮かぶ。


僕はそのまま言った。


「まず、この三日間で申請された会議は二十七件。

予定拘束時間は合計百八十六時間。参加予定者の延べ人数は百四十二名」


会議室が静まり返る。


「その間に保留された補給申請は四十二件。再配置が止まった兵士は延べ九百名。

物流部隊の待機時間は合計七十八時間。生産部門への人員移動も遅れています」


ザガンが舌打ちした。


「その程度、必要な議論のためなら――」


「決定事項は?」


僕は短く遮った。


「二十七件の会議で、何を決める予定だったんですか?」


ザガンが口を閉ざす。


第二軍長が咳払いをした。


「そ、それは、まず意見を出し合い……」


「誰が決裁者ですか?」


「それは会議の中で……」


「期限は?」


「状況を見ながら……」


「責任者は?」


沈黙。


僕は手帳を閉じた。


「皆さんが増やしたのは議論ではありません。責任の置き場です」


古参幹部たちの顔色が変わる。


「決めるための会議なら必要です。でも、決めないための会議は組織の毒です。

現場を止め、補給を遅らせ、責任を曖昧にして、最後は誰も悪くないことにする」


僕はザガンたちを見渡した。


「それを、前の組織では“仕事をしているふり”と言いました」


「き、貴様ァ!」


ザガンが立ち上がった瞬間、バルトロさんが低い声で言った。


「座れ、ザガン」


その一言で、会議室の空気が重くなる。


ザガンは歯を食いしばりながら腰を下ろした。


僕はマオ魔王へ向き直る。


「魔王様。提案があります」


『な、何だい……?』


「本日より、魔王軍の会議ルールを制定します」


僕は羊皮紙を広げた。


「一つ。目的のない会議は禁止。

 二つ。決裁者のいない会議は禁止。

 三つ。議題は三つまで。

 四つ。終了時には必ず決定事項、担当者、期限を明記。

 五つ。議事録のない会議は無効。

 六つ。現場作業を止める会議は、総合参謀部の承認制。

 七つ。責任者が決まらない案件は、総合参謀部が強制決裁する」


会議室が凍りついた。


古参幹部たちは、まるで処刑宣告を受けたような顔をしている。


『ダイスケ……それをやると、幹部たちは逃げ道がなくなるんじゃ……』


「はい。逃げ道をなくすためのルールです」


魔王はさらに胃を押さえた。


だが、やがて小さく頷いた。


『……承認する。魔王軍に、その会議ルールを導入する』


「ありがとうございます」


ザガンが机を叩いた。


「魔王様! 本当にそれでよろしいのですか! この人間は、魔王軍の伝統を――」


「ザガン」


僕は静かに言った。


「伝統と惰性は違うよ」


ザガンの言葉が止まる。


「強い組織は、必要なものを残し、不要なものを捨てる。

逆に弱い組織ほど、昔からそうだからという理由で、腐った仕組みにしがみつく」


僕は、会議室の扉の外を見た。


そこでは、補給承認を待っていたインプたちや、再配置待ちの元第一軍兵士たちが、不安げにこちらを見ていた。


「会議室の中で幹部が三時間唸っている間にも、現場は動いている。

腹も減る。傷も痛む。荷物も届かない」


僕は再び古参幹部たちへ向き直った。


「現場を止める幹部はいらない。現場を動かす幹部だけが必要だ」


誰も言い返せなかった。



会議は、十五分で終わった。


決定事項は明確。


担当者も期限も決まった。


古参幹部たちが望んだ長時間会議は、僕によって最初の一件目で潰された。


会議室を出ると、バルトロさんが感心したように息を吐いた。


「ダイスケ殿。まさか会議そのものを改革するとはな」


「会議は武器になります。

でも、無能が持てば、ただの足枷になるんですよ」


その時、廊下の奥でザガンたちが小声で話しているのが見えた。


《鑑定》には、嫌な本音が映っている。


【共通の本音】会議で止められないなら、現場を止めるしかない。


僕は手帳を開き、新しい見出しを書いた。


――現場妨害対策。


「さて」


僕は小さく笑った。


「次は、仕事をしている現場に手を出す馬鹿を見つけようか」



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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