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僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: アカメノコバチ


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第30話 脳筋軍長をリストラする

魔王城の最高幹部会議が終わるなり、第一軍長ザガンは自軍の駐屯区画へ戻り、黒鉄の扉を蹴り飛ばした。


「戦えぬ人間ごときが、魔王軍の戦に口を出すだと……!」


分厚い扉が歪み、周囲の下級魔族たちが肩を震わせる。


だが、ザガンは彼らの怯えなど見てもいない。


「全軍に通達しろ! 今すぐ出陣準備だ! 

隣国の国境砦を叩き潰し、第一軍こそ魔王軍最強だと証明してやる!」


副官たちは慌てて走り出した。


しかし、兵士たちの顔は暗い。


歓声はない。


あるのは、疲労と諦めだけだった。



その頃、第一軍の倉庫前では副官が怒鳴っていた。


「兵糧を出せ! 出陣命令だ!」


倉庫番のインプは、震えながらも首を横に振る。


「総合参謀部の承認印がありません。払い出しはできません」


「ザガン様の命令だぞ!」


「それでも、帳簿に合わなくなりますので」


副官がインプの胸ぐらを掴もうとした、その時だった。


「やめなさい」


静かな声が響く。


僕とバルトロさんが、倉庫前に立っていた。


後ろには会計担当のインプ、記録係のゴブリン、そしてゴルグ率いる物流部隊。


皆、俺のチームメンバーだ。


「無断遠征の準備中かな?」


僕は積まれかけていた木箱を見た。


「兵糧、矢束、回復薬、魔力ポーション。

ずいぶん派手に持ち出そうとしているね。作戦期間、輸送経路、消費見込みは?」


副官は口ごもる。


そこへ、ザガンが怒りに満ちた足音で現れた。


「貴様ァ! 俺の軍の倉庫で何をしている!」


「君の軍の倉庫じゃない。魔王軍の共有資産だよ」


僕は手帳を開く。


「そして僕は総合参謀として、第一軍の監査に来た」


「監査だと? くだらん! 帳簿で敵が殺せるか!」


「殺せないね。でも、帳簿は無能な上司を殺せる」


周囲の空気が凍った。


ザガンが大剣に手を伸ばす。


だが、バルトロさんが一歩前に出た。


「ザガン。大将軍の前で抜剣するなら、反逆と見なす」


ザガンの手が止まる。


僕はそのまま、彼に《鑑定》を向けた。


【名前】ザガン

【役職】魔王軍第一軍長

【自己評価】魔王軍最強の武人

【適性】単騎突撃・敵陣突破

【不適性】組織管理・兵站管理・人材育成

【実態】予算消化率188%、戦果貢献率22%、部下離脱率67%

【弱み】下級兵の犠牲と他部隊の戦果で、自軍の功績を水増ししている。


「なるほど」


僕はため息を吐いた。


「ザガン。君は個人としては強い。でも軍長には向いていない」


「何だと……?」


「君は、自分が強いことと、組織を強くすることを混同している。

だから部下を育てない。兵站を見ない。現場の疲労も、装備の劣化も、全部『根性が足りない』で片付けてきた」


僕は会計インプに合図した。


書類が木箱の上に並べられる。


「第一軍の申請兵数は五千二百。だが、実働は三千百四十六。

二千人以上が帳簿上だけ存在する幽霊兵士だ」


ざわり、と兵士たちが騒ぐ。


「死亡者や脱走者の分まで兵糧費を請求している。

装備更新費も全軍平均の四倍受け取っているのに、現場兵の六割は刃こぼれした剣を使っている。

新品の武具はどこへ消えた?」


ザガンの副官たちが目を逸らした。


「さらに戦果報告。第一軍単独の功績とされている戦果の多くは、第三軍や補給部隊の支援があって成立したものだ」


僕は書類を閉じた。


「君の軍は強いんじゃない。強く見せていただけだ」


「黙れェッ!」


ザガンが吼えた。


「お前たち! この人間の戯言を聞くな! 第一軍の誇りを見せろ! 

俺に従い、出陣するぞ!」


沈黙。


誰も動かなかった。


ザガンの顔が歪む。


「なぜ動かん!」


僕は近くの下級魔族を《鑑定》した。


【不満度】98%

【忠誠心】4%

【本音】ザガンのためには死にたくない。だが逃げれば処刑される。


他の兵士たちも同じだった。


「ザガン。彼らは君に忠誠を誓っていたんじゃない。逃げ場がなかっただけだよ」


僕は兵士たちへ向き直った。


「第一軍所属の全兵士に通達する。本日より第一軍は再編対象とする。

ただし、現場兵を切り捨てるわけじゃない」


兵士たちが顔を上げる。


「斥候適性のある者は情報部隊へ。怪力のある者はゴルグ隊長の物流部隊へ。

防衛戦に向く者はバルトロ大将軍直属へ。

農地整備や建設に向く者は生産部門へ。

指揮適性のある者は研修後に小隊長へ昇格させる」


ざわめきが広がった。


「俺たちにも……別の部署があるのか?」


「三食支給。装備は配属先に合わせて更新。

負傷時の治療費は軍が負担。無意味な突撃命令への拒否権も認める」


その瞬間、兵士たちの目に光が戻った。


「俺、防衛軍に行きたいです」


「荷運びならできます!」


「農地でもいい。もう空腹で戦場に出たくない」


ザガンが震える。


「貴様ら……俺の兵だぞ……!」


「違う」


僕は即座に否定した。


「彼らは君の所有物じゃない。魔王軍の人材だ」


バルトロさんが重々しく頷く。


「大将軍として、この再編案を承認する」


僕は最後の書類を読み上げた。


「第一軍長ザガン。

本日付で、第一軍の予算執行権、補給請求権、人事権をすべて凍結する。

不正会計、戦果水増し、装備横流し、無許可遠征準備。

理由は十分だ」


「俺から軍を奪う気か……?」


「奪うんじゃない。リストラだよ」


「リストラ……?」


「首切りじゃない。組織の再構築だ。

使えない管理職から権限を外し、使い潰されていた現場を救い、適材適所に並べ替える。

それが本当のリストラクチャリングだ」


ザガンは言葉を失った。


その背後では、すでに元第一軍の兵士たちが適性診断の列に並び始めている。


ゴルグが怪力自慢の魔族を見つけ、嬉しそうに笑った。


「お前、物流に来い! 飯はうまいし、働いた分だけ肉が増えるぞ!」


「ほ、本当ですか!?」


「本当だ! ただし荷札を間違えたら怒鳴る!」


「殴られないんですか?」


「殴るかよ。荷物が壊れるだろ!」


それだけで、元第一軍の兵士たちがどよめいた。


どうやら魔王軍には、まだまだ改善すべき文化が多いらしい。


ザガンは屈辱に顔を歪め、僕を睨みつけた。


「ダイスケ……この借りは必ず返す。魔王軍は貴様のものではない。

古き魔族の力を思い知らせてやる」


「そうかい」


僕は手帳を閉じた。


「その前に、明日までに『なぜ部下が自分についてこなかったのか』を三百字でまとめて提出して」


「貴様ァァァッ!」


「提出期限は朝九時。遅れたら研修期間を延長する」


ザガンは怒りに震えながら、乱暴に去っていった。



その夜。


僕は第一軍再編の報告書をマオ社長へ提出した。


『第一軍の予算権を凍結……半日で解体……。ダイスケ、仕事が早すぎないかい?』


「腐敗した部署は、放置すると全軍に広がりますから」


『でも、古参幹部たちが黙っていないよ……』


「でしょうね」


僕は《鑑定》で、他の軍長たちの数値を確認する。


【第二軍長】不満度81%

【第四軍長】不満度76%

【遊撃軍長】不満度88%

【共通の本音】次は自分たちの帳簿を見られるかもしれない。


実に分かりやすい。


不正をしている者ほど、監査を恐れる。


僕は手帳を開き、新しい見出しを書いた。


――古参幹部対策。


「さて、次は魔王軍上層部の膿を、まとめて出そうか」



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
素晴らしい! 今、リストラ = 人員整理、みたいに思われてますが、 本当は、企業基盤の再構築なんですよねー。 俺もこんな上司の元で働きたい!
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