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僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: アカメノコバチ


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第27話 フリーズする国家

その日の朝。


アルテニア王国の御前会議室は、地獄のような惨状だった。


床に額を擦りつけているのは、青ざめた財務大臣だ。


その背後では、エリートの財務文官たちがガタガタと震えている。


「国王陛下! もはや限界です!」


財務大臣が、血の気の引いた声で叫んだ。


「今月末の支払いが不可能です!

近衛騎士団、および宮廷職員への給与が、完全にショートいたしました!」


「なんだと……?」


玉座に座る国王が、顔をピクリとこわばらせた。


「金がない?

そんな馬鹿な話があるか。

足りないのなら、国債と通貨をどんどん追加発行して、刷りまくればいいではないか!」


「陛下! それは絶対にやってはなりませぬ!」


最前列にいた優秀な若手文官が、必死の形相で声を上げた。


「これ以上の裏付けなき増発は、文字通りの自殺行為です!

現在の我が国には、大商会の倒産のせいで、市場にまともな物資も食料も残っておりません!」


「それがどうした!」


「モノがないのに、お金の数字だけを増やしても意味がないのです!

市場に出回る通貨の量だけが増えれば、商品の値段はさらに何十倍にも跳ね上がります!

今度こそ我が国の通貨の信用はゼロになり、ただの紙屑と化します!」


「黙れ! 平民の分際で私に意見するな!」


国王は、激怒して玉座の肘掛けを叩いた。


「兵に払う金がない方が先の一大事だ!

良いから命じられた通りに刷れ!

刷って、今すぐ騎士どもに配るのだ!」


「ひっ……! は、はい……!」


文官たちは、絶望の表情で頭を下げた。


彼らは涙を流しながら、破滅へのカウントダウンとなる、大量の国債と新紙幣の増発を強行するしかなかった。



同じ頃、黒鉄の砦の執室。


僕は、王宮からリアルタイムで届く財務データを手帳に書き写していた。


隣からのぞき込んでいたバルトロが、不思議そうに首を傾げる。


「ダイスケ殿。王宮が、なりふり構わず新しい紙切れを大量に刷り始めたぞ。

これで、奴らは騎士たちに給与を支払えるのではないか?」


「支払えるよ、バルトロさん。ただの、ゴミ屑をね」


僕は万年筆の先で、手帳の統計グラフをトントンと叩いた。


「市場の物価が何十倍にも高騰しているのに、国から支給されるのは、さらに価値が落ちる予定の刷りたての紙切れだ。

額面の数字だけが増えたって、街の酒場でパンの耳すら買えやしない。

バルトロさん。自分が王国の兵士だとして、そんな労働環境に、これ以上付き合いたいと思うかい?」


「……絶対に嫌だな。命を懸ける価値など一銅貨もない」


「だろう? だから、今から彼らに『正しい転職先』を提示してあげるのさ。

ハンス君、準備はいいかい?」


「はい、ダイスケ殿!」


執務室のドアが開き、制服をビシッと着こなしたハンスが顔を出した。


その背後には、警備部門長となった元上位冒険者のリーダーが、大剣を背負って控えている。


「王国の近衛騎士たちの不満度は、すでに限界値を突破しています。

彼らに宛てた『特別な求人票』の用意、すべて整いました」


「よし。それじゃあ、あのブラックな職場へ、最高の条件をトスしに行こうか」


僕は満足して手帳をパチンと閉じ、不敵に笑ってみせた。



アルテニア王国軍、近衛騎士団の駐屯地。


そこには、重苦しい絶望と飢えの空気が満ちていた。


騎士たちが、支給されたばかりのピカピカの新紙幣を手に、荒んだ目で愚痴をこぼしている。


「おい、見ろよこのお札。インクの匂いがプンプンするぜ」


「こんな紙切れを束で貰ったところで、市場じゃパン一つ売ってくれねえよ!」


「上の貴族どもは、毎日ぬくぬくと温かいスープを飲んでやがるってのに……」


「俺たちは、何のために命を懸けてるんだ?」


彼らの士気は、完全にゼロだった。


そこへ、突如として二人の影が姿を現した。


「皆さん、お疲れ様です」


ハンスが、穏やかな笑顔で歩み出た。

騎士たちが一斉に警戒し、剣の柄に手をかける。


だが、ハンスの隣に立つ大柄な男の顔を見て、全員の動きがピタリと止まった。


「あ……あんたは、王国のエースだった、上位冒険者のリーダー!?」


「久しぶりだな、お前ら」


新ギルド長となったリーダーが、豪快に笑って手を挙げた。


「相変わらず、ひでえツラをしてやがる。

残業代も出ねえ、飯も食えねえブラック宮廷で、まだ消耗してるのか?」


「な……何を言いに来た!」


「君たちに、人道的な救済プランを提示しにきました」


ハンスは長机を用意し、その上に重い革袋を次々と並べ始めた。


紐を解けば、中から本物の金貨が、夕日を浴びて眩いばかりの光を放って溢れ出る。


それは、魔王軍の完璧なサプライチェーンによって稼ぎ出された、本物の富だった。


「なっ……! 本物の、金貨……!?」


騎士たちの目が、一瞬で釘付けになった。


「本日付で、我が『黒鉄のギルド』が、君たちの未払い給与を【魔王軍の持つ、本物の金貨】で100パーセント全額補填・救済します」


ハンスは、綺麗に印刷された『求人票』を騎士たちへ配り始めた。


「さらに、我が社へ中途採用されれば、待遇は王国の三倍。

完全週休二日、有給・労災完備。

福利厚生として、大街道の『魔術温泉保養所』の無料利用券も支給します。

どうでしょうか?」


駐屯地に、今日一番の激震が走った。


「未払い給与を、全額即金で……!?」


「待遇が三倍……しかも、休みがあるのか!?」


「俺たちを、騙そうとしてるんじゃねえだろうな!」


「我々は、数字の帳尻合わせで社員を騙すような真似はしません」


ハンスは胸を張り、冷徹に現実を突きつけた。


「その手に持っている、王国の紙切れ。

明日にはさらに価値が半分になりますよ。

命を懸けて、ゴミクズしか払えないブラック企業を守るのか。

それとも、本物の富とホワイトな環境で、家族と幸せに暮らすのか。

答えは、もう出ているはずです」


騎士たちは、手元の新紙幣と、目の前の金貨を見つめた。


自国の貴族への忠誠心なんて、とっくに飢えで消え失せている。


「……クソ宮廷に義理立てする理由は、もうねえ!」


一人の若い騎士が、新紙幣を地面に叩きつけた。


「俺は転職する! 働かせてくれ!」


「俺もだ! 家族にまともな飯を食わせてやりてえ!」


「俺も、俺も頼む!」


雪崩を打つように、近衛騎士たちが次々と求人票にサインをしていく。


彼らはその場で重い鎧を脱ぎ捨て、大街道の宿場町へ向かって、一斉に職場放棄(夜逃げ)を敢行したのだった。



翌朝、アルテニア王国の王宮。


小鳥のさえずりで目を覚ました国王は、寝室の扉を開けた。


「おい、朝の仕度をしろ。小言の多い文官どもを処刑する準備だ」


だが、誰も答えない。


廊下は、しんと静まり返っていた。


「……おい? 門番? どこへ行った!」


国王は、不審に思って王宮の中を進んだ。


エントランス、謁見の間、警備兵の詰所。


どこを歩いても、人の気配が全くなかった。


机の上には、近衛騎士団全員分の「退職届」が、整然と並べられているだけだった。


「な、何だと……!? 誰もいない……!?」


国王は、ガタガタと震えながら窓の外を見下ろした。


王宮を守る兵士も、街を巡回する衛兵も、文字通り一人もいない。


国を守る武力インフラが、一瞬で「ゼロ」になったのだ。


国家の防衛システムが、完全にフリーズ(機能停止)した瞬間だった。



同日、夕暮れ時。


黒鉄の砦の司令部で、報告を聞いたバルトロが深く感嘆した。


「ダイスケ殿……本当に、剣を一本も交えずに、一国の武力を完全に消滅させてしまったな」


「当然の結果だよ、バルトロさん」


僕は満足して手帳をパチンとポケットに収め、フッと笑った。


「どれだけ強い大魔法や大剣があっても、給与が払えない組織は、100パーセントストライキを起こして自壊するんだ。

行政も、防衛も、中身が空っぽになったあの王宮は、もうただの『動かない箱』さ」


僕は立ち上がり、お気に入りの上質なコートを羽織った。


「さあ、バルトロさん。お待たせ。外堀は完璧に埋まったよ。

いよいよ最後の仕上げだ」



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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