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僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: アカメノコバチ


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第24話 魔王城の会計監査

魔王軍の中心地、厳かな雰囲気が漂う「魔王城」。


黒くそびえ立つその城の中枢には、広大なオフィスが存在する。


魔王軍の本社機能(経営企画・財務部門)が集まる場所だ。


そこでは今、上級魔族の役人たちがふんぞり返っていた。


彼らは豪華な椅子に深く腰掛け、高価なワインを傾けている。


「今月も黒鉄の砦から、莫大な配当金が振り込まれたぞ」


「辺境の防衛拠点のくせに、よく稼ぐものだ」


「おかげで我々の今月のふところも潤うというものよ」


役人たちは下品な笑い声を上げていた。


彼らにとって、黒鉄の砦は金を貢ぐだけの便利な道具に過ぎない。


自分たちが贅沢をするための、都合の良いサイフだと思っていた。


そのオフィスに、突如として場違いな足音が響いた。


コツ、コツ、コツ。


それは、硬い革靴が床を叩く規則正しい音だった。


重厚な扉が左右に大きく開け放たれる。


現れたのは、聖剣を持った勇者ではなかった。


鎧をまとった人間の騎士でもない。


スーツ代わりの仕立ての良い服を着た、冴えないおっさん。


黒鉄の砦を預かる経営者、ダイスケだった。


僕の後ろには、大量の書類を抱えた集団が続いていた。


顔を引き締め、鋭い視線を走らせる人間の文官たち。


財務部門の責任者となったハンスを筆頭とした、我が社の精鋭部隊だ。


さらに、護衛として巨体を揺らすバルトロも控えている。


「な、何だお前たちは!」


本社の役人が立ち上がり、ワイングラスを机に叩きつけた。


「人間がなぜ魔王城の中枢にいる! 勇者の手先か!?」


「いや、ただの定期監査だよ」


僕は手帳をトントンと叩き、穏やかに微笑んだ。


「黒鉄の砦から来ました、ダイスケです。

本日は、本社の連結決算を拝見しに伺いました」


「かんさ……? れんけつけっさん……?」


聞き慣れないビジネス用語に、役人たちは呆気にとられた。


だが、すぐに我に返り、牙を剥いて激高した。


「ふざけるな! 戦えもしない人間どもめ!

ここは魔王軍の最高中枢ぞ! つまみ出せ!」


「おっと、動かないほうがいいぞ、本社のエリートさんよ」


バルトロが前に踏み出し、地響きのような声を上げた。


圧倒的な武力を持つバルトロの威圧に、役人たちがヒッと息をのむ。


その隙に、僕は一枚の羊皮紙を突きつけた。


「これはマオ社長(魔王)から事前にいただいた『全社監査権』の委任状だ。

僕には、魔王軍全体の全ての帳簿を検査する権限がある」


「う、委任状だと……!?

だが、地方の砦の人間風情が偉そうに!」


「まだ分からないのかい? 本社のエリートさん」


僕はフッと笑い、現実を突きつけた。


「今月の黒鉄の砦からの配当金、まだ本社に振り込んでいないよね?

もし僕たちの監査を拒否するなら、今月からの資金援助は一分いちぷんたりとも行わない。

君たちの給与も、明日からの城の光熱費も、全部ストップするけどいいかい?」


「う、ぐ……っ」


役人たちの顔が、一瞬で真っ青になった。


彼らは気づいてしまったのだ。


自分たちの贅沢な暮らしが、すべてこのおっさんの指先一つで消し飛ぶという事実に。


組織のサイフを完全に握られている本社の役人たちは、青ざめて引き下がるしかなかった。


「よし。それじゃあ監査を始めようか。

ハンス君、チームの皆、始めてくれ」


「了解しました、ダイスケ殿!」


ハンスの目が、プロの顔つきに変わった。


彼らは元大商会でボロ雑巾のように酷使されていた、


ブラック企業ともいえる大商会出身の猛者たちだ。


数字の裏に隠された不正を見抜くことに関しては、この世界で右に出る者はいない。


ハンスたちが机の上に、本社のどんぶり勘定の帳簿を山積みにする。


次の瞬間、オフィスにすさまじい音が響き渡った。


パチパチパチパチパチパチパチパチ!


それは、文官たちが一斉に弾くそろばんの音だった。


まるでマシンガンのような、数字の暴力。


戦えないはずのハンスたちの手が、残像が見えるほどの速度で動いている。


「おい、この『魔王城壁修繕費』の項目を見ろ。数字がおかしい」


「過去三ヶ月、同じ業者の請求書が綺麗に一・五倍に水増しされているぞ」


「こちらの日当の計算もズレています。完全に架空発注ですね」


文官たちの鋭い指摘が、オフィスに次々と突き刺さる。


僕は手帳を開き、特に怪しい書類へ固有スキル《鑑定》の視線を向けた。


目の前で言い訳を考えている、肥満体の上級魔族の役人をジロリと睨む。


「ねえ、君。この『南方前線視察の出張手当』の領収書だけどさ」


「な、何だ! それは正当な出張の経費だぞ!」


「嘘を言っちゃいけないよ。

君は先月、現地に行っていないよね?

僕たちの管理している大街道の通過記録ログに、君の名前は一切ない。

《鑑定》で見たら、君の先月の移動距離はゼロだ。ずっとこの城で遊んでいただろう?」


「ひっ……!」


「はい、二重取りおよび架空請求、確定。

過去の分も含めて、全額ペナルティ付きで返金してもらうよ」


僕が手帳に万年筆でバツ印をつけると、その役人はガタガタと震え出した。


「次、そっちの君。この『会議費』という名目の高級ワイン代」


「それは、その、重要な経営会議の──」


「ただの身内の飲み会だよね。

こんな無駄な領収書、我が社(黒鉄の砦)の基準じゃ一円も認められないよ。

自腹で落としてね」


ハンスたちも、別の隠し口座を爆速で白日の下に晒していく。


「見つけました! 倉庫の余剰物資を横流しした裏金です!」


「この帳簿、複式簿記すら使っていない。ただの小学生のお小遣い帳だぞ!」


「よくもまあ、こんなザルな管理で偉そうにしていられたものですね」


そろばんの音が鳴り響くたびに、本社の既得権益がバラバラに解体されていく。


上級魔族たちのプライドは、ペンとそろばんによって木っ端微塵に砕かれていた。



夕方。


魔王城には、奇妙な光景が広がっていた。


あれほど傲慢だった上級魔族の役人たちが、全員床に正座させられている。


彼らはダイスケたちに徹底的に「無駄」を絞り尽くされ、魂が抜けたようにガタガタと震えていた。


「これにて、今月の定期監査を終了するよ」


僕は満足して手帳をポケットに収めた。


「今回の監査の結果、本社の無駄な経費を約四十パーセント削減することに成功した。

削った分の予算は、すべて現場の鉱山や農場への設備投資に回すからね」


本社の役人たちは、もはや反論する気力すら残っていなかった。


武力による流血はゼロ。


しかし、魔王城の中枢は、完全に書類と数字によって制圧されたのだ。


「ハンス君、素晴らしい仕事だったよ。

これからは、本社の全ての承認ルート(決裁システム)も、僕たちの黒鉄の砦を通すように設定しよう」


「はい、ダイスケ殿! すぐに本社用の新しい会計方式を構築します!」


ハンスは晴れやかな顔で頭を下げた。


元ブラック企業の文官が、魔王城の中枢のルールを書き換えた瞬間だった。


「さあ、本社のガバナンスはこれで整った。バルトロさん」


「う、うむ……。本当に、そろばんだけで城を落としてしまうとはな……」


バルトロは引きつった笑いを浮かべていた。


「足元は固まった。

次は、あの赤字を垂れ流している『南方の前線部隊』にメスを入れに行こうか」


おっさん経営者の容赦ない内部改革は、まだ始まったばかりだった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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