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僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: アカメノコバチ


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第22話 見えない経済封鎖

新しく導入した人事評価制度は完全に定着した。


第一執務室では、魔族の戦士と人間の文官が笑顔で書類を回している。


社内のガバナンスは完璧に整った。


そんな平和なオフィスの片隅で、副長のバルトロがふと首を傾げた。


彼は前線である「黒鉄の砦」の防衛マップを見つめている。


その厳つい顔には、純粋な疑問が浮かんでいた。


「ダイスケ殿……いまさらなのだが、不思議でならんのだ」


「おや、バルトロさん。どうしたんだい?」


「お前が我が軍に来てから数ヶ月。アルテニア王国からの侵攻がピタリと収まった。

ここ最近に至っては、小規模な国境紛争すら一度もないのだ。

人間どもめ、急に戦意を失ったのだろうか?」


バルトロにとっては、最大の謎だったらしい。


魔王軍の側から攻め込んでいないのに、敵が勝手に静かになったのだ。


僕は手帳を開いたまま、フッと冷徹に笑った。


「戦意を失ったんじゃないよ、バルトロさん。

アルテニア王国の内部は今、僕たちと戦うどころじゃないはずだよ」


「な、何だと……? それはどういう意味だ?」


「バルトロさん、僕がこれまで何をしてきたか思い出してごらん。

王都のギルドを完全子会社化し、商業都市の悪徳大商会をハッキングして破産させた。

彼らはただの商人じゃない。

王国の軍隊に『軍資金』と『物資』を供給していた、国家の心臓だったんだよ」


僕は手帳をパチンと閉じた。


「財布の底が抜けて、行政の機能が止まった国だ。

どうやって遠征軍という名の巨大な組織を動かすんだい?」



場面は変わり、アルテニア王国の王宮。


重々しい御前会議室には、怒号と悲鳴が飛び交っていた。


血の気の引いた財務大臣が、国王の前で激しく書類を叩きつけている。


「国王陛下! もはや一刻の猶予もございません! 国庫の底が見えております!

今期の商業税の収入が、ほぼ『ゼロ』に等しい状態なのです!」


「馬鹿な……!? 我が国にはあの巨大大商会があるではないか!」


「その大商会が数週間前に完全に破産したのです!

彼らの連鎖倒産により、王都の貴族たちも次々と債務不履行に陥っております!」


財務大臣の報告に、国王は玉座で頭を抱えた。


そこへ、筋肉質の鎧をまとった騎士団長が、大声を上げて立ち上がる。


「何を弱気なことを! 税が出ぬなら、魔王軍を討伐してその富を奪えば済む話!

すぐに国境の黒鉄の砦へ遠征軍を出すべし!」


「黙れ、この脳筋め!!」


財務大臣が般若のような顔で怒鳴り返した。


「遠征軍を動かすのに、どれだけの金がかかると思っている!

兵士に払う給与も、遠征用の兵糧を買う金も、我が国には全く残っていないと言っているのだ!

武器を買う鉄すらないのだぞ!」


「な、何だと……!? 鉄なら、職人街から徴発すれば――」


「その職人街の職人どもは、大街道から流れてくる魔王軍の格安材料に胃袋を掴まれ、我が国の命令などまともに聞きはせん!

下手に動けば職人たちが暴動を起こすわ!」


さらに、財務大臣は別の、より深刻な書類を突きつけた。


「それだけではございません!

王宮の裏方、実務を担う若手や中堅の文官たちが、夜な夜な大量に夜逃げをしております!」


「夜逃げだと!? なぜ我が国のエリート役人が逃げるのだ!」


「激務に対して残業代も出ぬブラックな我が国に絶望したのです!

彼らは『魔王軍のほうが待遇が良い、あちらは完全週休二日だ』と噂し、大街道を通って魔王軍へ転職しているのです!

書類仕事ができる人間が消え、王宮の行政機能は完全に麻痺しております!」


「ま、魔王軍へ……転職……!?」


会議室が、凍りついたような静寂に包まれた。


王宮の無能な上層部たちは、不眠不休で膨大な赤字の処理に追われている。


彼らの精神は、すでに限界まで磨り減っていた。


彼らが必死に処理している、その「大赤字の帳簿」の裏。


そこにはすべて、僕の手帳の数字が繋がっている。


武力で血を流す必要など、最初からなかった。


人間界の「国家システム」そのものを、内側からハッキングする。


おっさん経営者が仕掛けた、見えない経済封鎖の罠。


アルテニア王国は、戦う前に、すでに内側から完全に壊死していた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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