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僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: アカメノコバチ


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第20話 失業エリートのヘッドハンティング

大商会が破産して数週間。


首謀者を失った巨大商業都市の経済は混乱を極め、かつて栄華を誇った大商会の本社の前には、重苦しい絶望が漂っていた。


建物の前には、突然職を失った文官、会計士、荷扱いの若手社員たちが、力なく立ち尽くしている。


彼らの上にいた悪徳経営陣たちは、会社の資産を私物化して夜逃げを決め込んでいた。


現場で汗を流して真面目に働いていた中堅・若手社員たちだけが、給与も退職金も未払いのまま、ブラック企業のツケを払わされて路頭に迷っているのだ。


馬車からその様子を眺めていたバルトロが、痛ましそうに鼻を鳴らした。


「ダイスケ殿、大商会はもはやもぬけの殻だ。

残されたあやつらは戦う力も持たぬ文官や小役人ばかり。

このまま放っておけば、飢え死にするか奴隷に落ちるだろうな……」


「バルトロさん。放っておくなんて、とんでもない機会損失だよ」


僕は手帳を開き、フッと笑った。


「うちの魔王軍の本社も黒鉄の砦も、急拡大のせいで書類仕事が増えすぎてパンク寸前だろう?

絶好の『即戦力の中途採用』のチャンスじゃないか」


「な、中途採用だと……? あの人間どもを、我が軍で雇うというのか!?」


「企業の最大の財産は人だからね。

すぐに広場に机を並べて、面接の準備をしてくれ」



数時間後。大商会の跡地の広場に長机が並べられ、「魔王軍・中途採用合同面接会」が電撃的に開催された。


看板には、僕の指示で「未経験者歓迎・文官募集・魔王軍改革部門」と大きく書かれている。


最初は「魔族の会社なんて恐ろしい」「生きては帰れない」と遠巻きに怯えていた元社員たちだったが、背に腹は代えられない。


やがて、大商会でボロ雑巾のように冷遇されていた、一人の若い男が意を決して僕の前の椅子に座った。


「あ、あの……元大商会で、下級会計士をやっていたハンスと申します。

本当に、人間でも面接していただけるのですか……?」


「もちろんだよ、ハンス君。緊張しなくていい、リラックスして」


僕は穏やかに微笑みながら、手帳をトントンと叩いた。


固有スキル《鑑定》の視線を、彼のステータスへと向ける。


戦闘力は一般人並みの「5」。


だが、その下に隠されたビジネスステータスを見た瞬間、僕の目は釘付けになった。


【複式簿記:レベルS】

【財務管理:レベルA】

【商務交渉:レベルA】


ビンゴだ。とんでもない文官エリートが眠っていた。


これほど優秀な男を、古い大商会は「下級」として買い叩き、雑用を押し付けていたらしい。


ブラック企業の審美眼の無さには、本当に感謝しかない。


「ハンス君、君は大商会で月いくら貰っていたかい?」


「ええと……銀貨でこれくらいです。

寝る間もなく働かされて、これだけで……」


「よし。うちはその1.5倍の固定給を出そう」


「えっ……!?」


ハンスが絶句する。僕は手帳に万年筆で条件を書き込みながら、さらに畳みかけた。


「さらに、完全週休二日。有給休暇あり。

残業が発生した場合は一分単位で手当を全額支給する。

福利厚生として、大街道の中間にある宿場町の『魔術温泉保養所』の無料利用券もつけよう。

どうかな?」


「は、1.5倍……!? 休みがあって、温泉……!?

そんな夢のような職場、本当にこの世界にあるのですか……!?」


「人間界の組織にはないよ。僕たちの『魔王軍』ならね」


僕が手帳を差し出すと、ハンスは「働かせてください!」と涙を流して机に頭を擦りつけた。


その様子を周囲でハラハラしながら窺っていた何百人もの元社員たちの色めき立つ気配が、一瞬で爆発した。


「お、俺も面接してくれ! 会計なら自信がある!」


「私は物流の運行管理をやっていました!」


「税務なら任せてください!」


広場は一転して、我先にと押し寄せる求職者たちの大熱狂に包まれた。


僕は押し寄せる元社員たちに次々と《鑑定》を向け、実務能力の高い優秀な人材を根こそぎ、かつ爆速で選別して、その場で次々と採用通知を出していった。



それから数日後。


魔王軍には、人間界の一流の頭脳が集まった「財務・労務・総務部門」が一瞬で爆誕していた。


黒鉄の砦のオフィスでは、採用された人間の文官たちが、テキパキと山のような書類を整理し、寸分の狂いもない正確さで帳簿を付け始めている。


「ダイスケ殿……本当に驚いた。お前は大商会の店舗や金庫ではなく、この都市で最も価値のある『人』という無形の財産を丸ごと奪い去ってしまったのだな」


バルトロが、見違えるように綺麗になったオフィスを見渡して深く感嘆した。


オークたちの荒っぽい物流や、サイクロプスの採掘、ゴードン先生の農業が、この優秀な文官たちの帳簿管理によって一ミリの無駄もなく、より精密なビジネスへと生まれ変わりつつある。


「ブラック企業から解放された彼らの忠誠心は天井知らずさ。

さあ、最高のバックオフィスが揃ったよ、バルトロさん」


僕は満足して手帳をポケットに収め、フッと笑った。


これで魔王軍の企業化はさらに加速する。


しかし、組織が大きくなり、異なる種族が同じ職場で働くようになれば、次に待っているのはお決まりの「社内トラブル」だ。


僕は、人間の文官たちと魔族の戦士たちが同じ部屋で働き始めたオフィスの様子を、静かに見つめた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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