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僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: カメノコバチ


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第17話 職人街のサプライチェーン改革

大街道の先にある人間界の巨大商業都市。


その片隅に位置する「職人街」は、かつての活気を完全に失い、重苦しい静寂に包まれていた。


薄暗い工房の中で、一人の頑固そうな老鍛冶職人が、不純物だらけの魔鉱石を前にツルハシを叩きつけ、激しく毒づいていた。


「クソッ、大商会の持ってくる魔鉱石は高すぎる上に、土塊だらけの未加工品じゃねえか!

これを削って精錬するだけで丸一日かかるってのに、納期は明日だなんて無茶苦茶だ……!」


この都市の職人たちは、武具や魔導具の高度な製造技術を持っている。


しかし、都市を支配する悪徳大商会が「原材料の流通ルート」を完全に独占していた。


大商会はゴミのような未加工の素材を法外な高値で職人に売りつけ、完成品は「下請け」として容ルダーの立場を利用し、容赦なく安値で買い叩く。


原材料の仕入れ値の高騰も相まって、町工場同然の職人街は今、どこも倒産寸前まで追い込まれていた。


「大商会に逆らえば材料が手に入らねえ。

生殺しだ、俺たちは奴らの奴隷じゃねえぞ……!」


「だったら、仕入先をうちに変えませんか?」


しんと静まり返った工房の扉を開け、上質なコートを羽織った僕が、お気に入りの手帳を片手にフラリと姿を現した。


背後には、大街道の定期便を護衛してきた、禍々しい鎧のバルトロが控えている。


「あ、あんたは誰だ……? 見ねえ顔だな」


「魔王軍の組織改革顧問、ダイスケです。

今日は皆さんに、最高品質の原材料の売り込みに来たんですよ」


職人は「魔王軍だァ!?」と椅子から転げ落ちそうになったが、僕は構わず手帳をトントンと叩き、固有スキル《鑑定》の視線を職人街の工房全体へと向けた。


僕に見えるのは、職人たちの戦闘力ではなく、その驚くべき【適性】と【大商会への怨嗟】だ。


「頑固親父さん、あなたは細かい細工より、強度の高い『大盾の鍛造』の適性がSだ。

そっちの若い君は『魔力回路の刻印』の適性が抜群に高い。

いいですか、これからは個々の工房で材料の精錬から完成まで全部やるのをやめて、得意分野ごとに工程を分ける『分業化』にしましょう」


「馬鹿言うな! 分業するにも、その肝心の材料が大商会のクソ高い鉱石しかねえんだよ!」


「材料なら、今まさに僕たちが完成させた『大街道』を通って、山ほど届いたところです」


窓の外を指さすと、そこには見たこともない光景が広がっていた。


新しく開通したばかりの平坦な魔界大街道から、魔王軍のオーク物流隊が引く大型馬車が、砂煙を上げて次々と職人街の広場へ滑り込んできたのだ。


荷台から下ろされたのは、不純物が完璧に取り除かれ、すでに使いやすいサイズに荒削りされた、ピカピカに輝く最高品質の魔鉱石の山だった。


「な、なんだこの純度は……!? これなら、精錬の手間をかけずに今すぐ叩けるぞ!

だが、こんな極上品、大商会の倍の値段はするんじゃ――」


「大商会の『半額』でいいですよ。

しかも、毎日このクオリティのものを、寸分の狂いもない定期配送で、必要な時に必要な分だけお届けします」


「は、半額……!? 嘘だろ、なんでそんな真似ができる!」


「うちには、人間界の最新の魔導掘削機すら遥かに凌駕する『超大型重機』がいますから」


僕はニヤリと笑った。



魔界の奥深くにある広大な鉱山。


そこで働いているのは、人間の国では「街を破壊する怪物」として駆除の対象にされている、一つ目の巨人――サイクロプス部隊だ。


人間が何百人も集まり、ツルハシで何ヶ月もかけて掘るような硬い岩盤の魔鉱石を、サイクロプスたちはその巨腕で一撃で粉砕し、一日で山ほど掘り起こしてしまう。


彼らへの報酬も極めてシンプルだ。


「この図面の通りにここを掘れば、夜にはゴードン先生の農場で採れた美味い肉と、冷えたエールが腹一杯もらえるぞ」


これだけで、彼らは喜んで大人しく、真面目に働く超優秀な現場作業員になってくれる。


つまり、魔王軍にとって原材料の採掘コストは実質ほぼゼロなのだ。


サイクロプスが爆速で掘り起こした大量の魔鉱石は、クロムの工房で不純物を除去され、中間地点にある「宿場町の大規模倉庫」で完璧に仕分けされ、完成したばかりの大街道のピストン輸送によって、毎日欲しい分だけ人間界の職人街へと運ばれる。


鉱山サイクロプス加工クロム → 大街道の定期便 → 職人街」


この完璧な一本の生産・物流のラインこそが、大街道を作った意味だ。


「これからは、大商会の顔色を窺う必要はありません。

うちの格安材料を使って、あなたたちの最高の技術で、大商会が腰を抜かすような製品を量産してください」


職人たちは、ピカピカの魔鉱石を抱きしめ、涙を流して歓声を上げた。



それから数週間後。


大街道の中間地点にある宿場町の中央物流倉庫で、僕はバルトロと共に、人間界から届く大量の受注帳簿をチェックしていた。


「ダイスケ殿……人間界の職人たちが、大商会の材料を完全に無視し、我が大街道から来る鉱石を奪い合うように買っているぞ!


おかげで大商会は、職人たちにそっぽを向かれ、製品が仕入れられなくなって顧客への納期遅れの巨額の違約金を背負い、勝手に自滅しそうだ……!」


バルトロは帳簿の数字を見つめ、驚愕に巨体を震わせた。


「武力で街を囲むでもなく、材料の流通の根っこを押さえるだけで、商業都市の経済をこれほど完璧に麻痺させてしまうとはな……」


「ものづくりの基本はね、原材料とインフラを握ることさ。


大商会はただの横流し。僕たちにはサイクロプスの生産力と、大街道の物流網がある。

勝負は最初から決まっていたんだよ」


僕は満足して手帳をパチンとポケットに収め、ふっと冷徹に笑ってみせた。


職人街を味方につけ、大街道による流通を確立したことで、この商業都市の経済の心臓部はすでに半分、僕たちの手の中にある。


さあ、サプライチェーンの構築は完璧だ。


僕は、大街道を通じて魔王軍の息がかかった最先端の武具が大量に流れ込み始めた、人間界の「次の市場」へと静かに視線を向けた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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