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僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: コバチ


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第16話 魔界を繋ぐ大街道

魔王城での謁見を終え、全軍の運営権を握る『組織改革顧問』となった僕は、バルトロと共に馬車で最前線基地である黒鉄の砦へと向かっていた。


ガタゴト、ガタゴト、と車内が激しく揺れる。


突き上げるような振動のせいで、お気に入りの手帳に万年筆で文字を書くことすらままならない。


窓の外を見やれば、そこにあるのは岩がゴロゴロと転がり、泥にまみれた未舗装の悪路だった。


「……バルトロさん。魔王城から黒鉄の砦まで移動するだけで、なんでこんなに時間がかかるんだい?」


「ん? いや、魔界の道などどこもこんなものだぞ、ダイスケ殿。

これでも障害物が少ない、かなりマシなルートなのだ」


バルトロは当然のように髭を揺らしたが、僕は盛大にため息を吐いた。


不便を当たり前だと思っている時点で、この世界の組織は終わっている。


どれだけ現場の砦を効率化し、人間界のギルドを子会社化して資金を吸い上げたところで、それらを繋ぐ物流のインフラがこれでは、組織全体のシナジーなど生まれようがない。


移動コストの無駄、時間の無駄、そして馬車の車軸が折れるリスクの無駄。


手帳のページをめくり、僕はニヤリと笑った。


せっかく魔王軍全体の財布の紐を握ったんだ。やるべきことは決まっている。


「よし、砦に戻ったら、すぐに新しい『新規事業』を立ち上げよう」


「新規事業……? 今度は一体何を始めるのだ?」


「魔界大街道プロジェクトさ。

戦いじゃなく、インフラ投資で世界を支配するよ」



黒鉄の砦に戻ったその日、僕は司令部の会議室に主要なメンバーを一堂に集めた。


魔王軍副長のバルトロ、物流責任者のゴルグ、農業最高技術顧問のゴードン先生。


さらに、人間界の王都ギルドが大炎上した際に、我が社のホワイト待遇に惹かれて亡命してきた人間の「大工」や「石工」の職人たちの代表だ。


「皆さん、急に集まってもらってすまない。

今日から我が魔王軍は、新しい専門部署、建設部門を設立する」


「建設部門……だと?」


オーク隊長のゴルグが、太い腕を組んで首を傾げた。


「おう、ダイスケ。俺たちの仕事は荷物運び(物流)じゃねえのか?

建設なんて、家でも建てるのかよ」


「家じゃない、道路だよゴルグ君。

僕はね、この黒鉄の砦から魔王城、さらにはその先にある人間界の王都ギルドまでを一直線に繋ぐ、舗装された頑丈な大街道を作りたいんだ」


僕がそう言うと、人間界から来た石工の代表が、青ざめた顔で手を挙げた。


「あ、あの、ダイスケ様……。お言葉ですが、魔界の土地は硬い岩盤や底なしの泥濘ぬかるみだらけです。

人間の国のように綺麗な街道を通すなんて、何千人の職人を集めても何年かかるか分かりませんよ!」


「人間の職人だけならね」


僕は手帳を開き、彼らの前にトントンと叩いた。


僕の固有スキル《鑑定》は、すでにこの部屋にいる全員の最適な現場配置を見抜いている。


「だからこそ、適材適所のチーム編成が必要なんだ。

職人の皆さん、あなたたちは高度な測量技術と、崩れない道路舗装の知識を持っている。

つまり、現場の『設計・監督役』だ」


「俺たちは設計なんてできねえぞ?」と不満げなゴルグに、僕は笑いかける。


「ゴルグ君、君たちオークや、後方にいるサイクロプス部隊の役目はね、人間の国でいう重機なんだよ。

人間の職人が図面を引き、指示を出した場所の巨岩を、君たちの圧倒的なパワーで片手で退かし、地面を一瞬で踏み固める。

人間が頭脳を使い、魔族がその圧倒的なパワーを形にするんだ。

これなら、何年どころか、数ヶ月で終わるよ」


部屋にいた人間と魔族が、ハッとしてお互いの顔を見合わせた。


これまで戦い合っていた武力と技術が、一つの「生産」に向かってカチリと噛み合った瞬間だった。


「本日、予定の区画を一番早く、綺麗に開通させたチームには、ゴードン先生の農場で採れた新鮮な食材を使った特製ディナーと、冷えた最高級エールをガツンと支給しよう」


「「「オオオオオッ!!」」」


翌朝から、魔界の歴史上あり得なかった「爆速のインフラ工事」が始まった。


人間の職人が魔導具でテキパキと測量し、「そこの岩をどかしてくれ!」と指示を出す。


すると、満面の笑みを浮かべたオークたちが「おうよ!」と雄叫びを上げ、大人が十人がかりでも動かせない巨岩を軽々と放り投げ、地面を文字通り平らにならしていく。


その背後からは、今日も元気いっぱいのゴブリンたちが、細かな砂利を爆速で敷き詰め、人間の魔術職人が土壌を強固に硬化させて舗装していく。


一分の無駄もない、異種族合同の完璧なライン作業。


見る見るうちに、馬車が時速五十キロ以上でノンストップで爆走できる、平坦で美しい「魔界大街道」がどこまでも伸びていった。



それから一ヶ月後。

大街道の中間地点にあたる広大な土地に、僕はただの道路だけでなく、もう一つの新規事業を完成させていた。


それは、巨大な石造りの建物が並ぶ、広大な宿場町だった。


「だ、ダイスケ殿……。これは、一体何なのだ……!?」


完成したその場所を訪れたバルトロは、あまりの光景に顎が外れんばかりに驚愕していた。


そこには、街道を行き交う魔族や人間の行商人たちが、旅の疲れを癒やすための広大な「魔術温泉」があり、ゴードン先生の農場で採れた新鮮な野菜や肉を使った「飲食店」が立ち並び、活気あふれる声が響き渡っていた。


さらに奥には、各地の物資を一時的に保管し、スムーズに配送するための「中継物流倉庫」まで完備されている。


「ただの道を通すだけじゃ、片道分のコストがもらえるだけだからね。

こうして移動の要所に経済拠点を作れば、通行税だけでなく、商業利益が自動的に魔王軍の金庫へ転がり込んでくるんだよ。

多角化経営の基本さ」


僕は窓から、人間と魔族が笑顔でジョッキを交わしている様子を眺めた。


「ダイスケ殿……お前はただの移動ルートを作るつもりが、この未開だった魔界そのものを、恐ろしいスピードで豊かな一つの『巨大な経済圏』へと脱皮させてしまったのか……。

我が軍は、ただの軍隊ではなくなりつつあるぞ……」


バルトロは乾いた喉を鳴らし、戦慄と、それ以上の深い敬意が混ざった目で僕を見つめた。


《鑑定》で周囲を見渡せば、働く魔族も、ここで商売を始める人間たちも、不満度は完全にゼロ。


魔王軍への信頼と忠誠心は天井知らずで跳ね上がっている。


「インフラと物流を制する者が、すべてを制するんだよ、バルトロさん」


僕は満足して手帳をパチンとポケットに収め、ふっと冷徹に笑ってみせた。


大街道のインフラは整った。


魔王城の本社、黒鉄の砦、そして子会社化した王都のギルドが、一本の爆速のラインで繋がったのだ。


物資も、富も、情報も、すべてが僕の手の中に集約される。


さあ、足元が完全に固まったところで。


僕は、新しく開通した大街道の遥か先――その物流網が次に繋がる、人間界の「次の巨大な商業都市」を静かに見据えた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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