表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は戦闘力ゼロなので人間界でクビになり魔王軍にヘッドハンティングされました  作者: コバチ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/42

第12話 最強の社員を中途採用

魔王軍と王国を繋ぐ、国境付近の大広場。


そこは、黒鉄の砦からほんの少し人間界側へ進んだ、中立地帯の交易場だった。


今、そこには殺気と絶望に満ちた人間の群れが溢れていた。


ギルドの手形が紙屑になり、生活のすべてを失った王国の下位平民たち。


そして、武器を手にしたまま立ち尽くす、上位冒険者たちだ。


そこへ僕は、バルトロとガラム、そして数体のオーク物流隊を率いて悠然と姿を現した。


「おい、見ろ、魔王軍だ!」


「黒鉄の砦の軍勢か!? 殺されるぞ!」


人間たちに一気に緊張が走る。


冒険者たちが反射的に剣や杖を構えた。


だが、僕は一歩も引かない。


「ガラムさん、ここに長机を。例の支給品をすべて並べて」


「あいよ、ダイスケさん! 野郎ども、手際よく運べ!」


ガラムの指示で、巨体のオークたちがテキパキと動く。


整理整頓されたライン作業のような動きで、長机の上に物資が次々と山積みにされていく。


それは、商人ガラムから仕入れた備蓄小麦で作った、焼き立ての白いパン。


底値で買い叩いた王国の物資だ。


ふわりと広場に漂う、香ばしい小麦の匂い。


「…え?」


「襲ってこないのか? あの荷物は一体……」


困惑する群衆に向けて、僕は拡声の魔導具を起動し、穏やかに語りかけた。


「王国の皆さん、ご安心ください。我が魔王軍は、戦いに来たわけではありません。

人道的な炊き出しに参りました」


「た、炊き出し……!? 魔族が人間を助けるってのか!?」


「はい。そちらのギルド長とは違い、私たちは現場の命を安く見積もりません。

国境を越えて転職してきた農民たちが作った、美味い飯があります。

スープもパンも全員分あります。もちろん、すべて無料です」


「ピギャ!」

「ピギィ!」


シフト制でいつも元気なゴブリンたちが、ビシッと綺麗な一礼を決める。


そして、怯える平民たちに温かいスープとパンを丁寧な手際で配り始めた。


「美味い……! なんだこのパン、すごく柔らかくて甘いぞ!」


「本当にタダなのか!? ギルドのボッタクリとは大違いだ!」


飢えに苦しんでいた人間たちは、涙を流して魔王軍の施しに飛びついた。


広場の空気は、恐怖から圧倒的な「感謝」へと一瞬でひっくり返った。


「魔王軍、万歳!」


「ギルドの無能どもなんかより、よっぽど頼りになる!」


人々の魔族に対する評価が完全に跳ね上がった。


その光景を横で見ていた上位冒険者たちの顔から、完全に敵意が消えていく。


彼らの胃袋も、とっくに限界を迎えていた。


外堀は完全に埋まった。


僕は手帳を開き、彼ら「上級社員」たちと向き合う。


「さて、王国のエースたる上位冒険者の皆さん。

ギルドの経営破綻、心からお見舞い申し上げます」


上位冒険者のリーダー格の男が、悔しそうに拳を握りしめながら前に出た。


「…俺たちを、あざ笑いに来たのか?」


「まさか。プロの労働者に対して、これ以上の敬意はありませんよ。

突然ですが、皆さん。我が魔王軍で『中途採用』の面接を受けませんか?」


「なっ……中途採用だと!? 俺たちに魔王軍へ入れと言うのか!

人間の癖に誇りはないのか!」


「条件を提示します。

『業務:魔王軍・国境街道の警備、および特殊実戦部門』

『給与:王国の三倍、本物の金貨で即金支給』

『週休二日、有給・労災完備』。さらに…」


僕はオークに目配せをし、机の上へさらに重い革袋を並べさせた。


紐を解けば、中から本物の金貨が、夕日を浴びて眩いばかりの光を放って溢れ出る。


「皆さんがギルドに踏み倒された未払い報酬は、我が社がその価値を本物の通貨で全額、100%補填・救済します」


広場に、今日一番の激震が走った。


「報酬を、本物の金貨で全額払う……!?」


「待遇が王国の三倍……しかも週休二日だと……!? 嘘だろ……」


「我が社は、技術と実績のあるプロを、数字の帳尻合わせで騙すような真似はしません。

福利厚生は経営陣の責任です。

さあ、こちらへどうぞ。適性を鑑定させてもらいます」


リーダーの男は、目の前の本物の金貨と、魔王軍を称える市民たちの温かい笑顔を見つめた。


紙屑を配る自国の貴族と、本物の富と飯を配る魔王軍の顧問。どちらが正しいトップか、答えは明白だった。


やがて、彼は大剣を地面に突き立て、僕の前に深く頭を下げた。


「……あんたが、本物のトップだ。ギルドの糞侯爵に義理立てする理由はもうねえ。

今日から、俺たちの剣をあんたに預ける!」


「俺も頼む! 働かせてくれ!」


「俺もだ! 飯を、金をくれ!」


王国最強と謳われた冒険者たちが、次々と求人にサインし、魔王軍へと転職していく。


その様子を、王都側からこっそり覗き見ていたギルドの監視役たちが、血相を変えて街へと逃げ帰っていくのが見えた。


これで無能なギルド長にも、決定的な「終わり」が伝わるだろう。



夕暮れ時、黒鉄の砦への帰路。


ガタゴトと揺れる馬車の中で、バルトロはガタガタと巨体を震わせていた。


その大きな目には、未だに信じられないというような驚愕と戦慄の色が浮かんでいる。


「だ、ダイスケ殿……。俺は、俺は今、とんでもない恐怖を感じている……」


「おや、バルトロさん。どうしたんだい? 寒気でもするかい?」


「お前は……兵の犠牲をただの一人も出さないどころか、王国の最高戦力である上位冒険者たちを、丸ごと我が軍の戦力として獲得してしまった……」


バルトロは乾いた喉を鳴らし、拳を握りしめながら言葉を続けた。


「剣を一度も振るわずに、敵の牙をすべて我が物にするなど、魔界の歴史を見てもあり得ん……!

お前のその『経営』という技術は、大魔法や伝説の武器よりも、遥かに恐ろしい戦略兵器だ……!」


「最高の褒め言葉として受け取っておくよ、バルトロさん。でも、戦いはこれからさ」


僕は馬車の窓を開け、夕日に染まる人間界の王都の方角を見据えた。


「さあ、次はあの無能なギルド長を合法的に窒息させにいこうか」



最後まで読んでいただきありがとうございます!

続きが気になったら、ブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ