男勇者と女Bと男Aと氷の館part2
Side:男勇者
ぎぃぃぃ…
鈍い音を立てて館の扉が開く…入口からは時計塔が邪魔して噴水も門も見えねえ…変な配置だな。普通開放感のある造りにするから時計だけ門の上とかに付けて、塔を作らなければ良かったはずだ。
設計者は何考えて作ったんだ?
入ったばかりの館の中は光がなくて何も見えない。太陽の光も丁度、塔に遮られて入って来ない。
「闇を照らせ ライト」
フレイヤさんが光球を出して館の中を照らす。
「2日分くらいの魔力を込めた。この屋敷の中は全部照らされてるはずだよ」
光球は見た目だけなのか、部屋の隅までくっきり照らされている。普通はこんな光球1つじゃ部屋の隅まで照らせないはずだ。
ジルくんは門をくぐる前から手袋と脚甲を装備してロザリーちゃんを守れる位置にいる。ジルくんがロザリーちゃんを守るなら、俺はリリーちゃんとジルくんを守ろう。子供達に怪我させたくない…ジルくんなら自己満足と言いそうだ…
「内装は…普通だね。ふふっ、左の通路はシャレが効いてる」
扉から先はそのまま広いエントランスになっていた。え~っと…
10人くらいが座れる向かい合わせのソファにテーブル。
暖炉とその上にこの不気味な館全体を斜め上から描いた絵画と壁かけの時計。
2階への折り返している階段。
一杯に詰まった本棚とワイングラスの入ってる食器入れ。
小物用の腰くらいまでの棚。
左右の通路とWC&Bと書かれた扉。
がこのエントランスにある全て。左右に伸びているはずの通路は左だけ氷の壁で通行止め。
氷の館に氷の壁があるなんて出来過ぎだ。
「…これって…」
「ジル様もお気付きに成りましたか?」
「ああ、人の気配が無いのに埃や虫喰いの痕が無い」
本当だ。ジルくんは幼いのに周りをよく観察してる。俺もしっかりしなくちゃな…
「ジル、何か頼もしいね♪」
「私もジルに守ってもらおうかな~」
「イトハを守るのはわらわじゃっ!」
こんな時でも普通に話せるこの子達は強いな。イトハちゃんはワザとそうなるように話したみたいだけど。
「ロザリーだけで精一杯だよ…でも真剣な話、魔族組には格闘戦主体の人がいないね」
「それを言ったらボウヤ達は2人だろう?」
「あ、そうだった」
「あの~、私は接近戦主体なんです」
「しかし人数が半端ですね。あと1人いれば3人ずつで調査出来たのですが…」
「確かに。通路も上の階を考えると丁度3通りだね…じゃあメイドさんはボウヤ達と1階の調査を、私と勇人で2階の右、反対を魔王達で調査しようか」
メイドさんが2人と一緒なのは心強い。俺はフレイヤさんと2人か、足引っ張らないようにしないとな。
「宜しくお願いします」
「うん♪」
「よろしく」
「さて、では調査開始じゃ。皆用心して掛かれ。ここはただの噂では済まぬ実害が出とる」
「ああ、気を付けるよ」
「うん!」
「畏まりました。では御2人共、参りましょう」
「3人とも、気を付けてな」
「勇人さんもね」
1階組は特に問題なさそうだ。
「じゃ、私達も行こうか」
「ああ」
フレイヤさんに続いて階段を上る。
「腐った所等も有りませんね。外からだと大分古い建物に見えたのに…」
「そうよね…ジルとメイドさんも言ってたけど、中は随分綺麗だし…」
「逆に不気味じゃな…」
「確かに。どうなってんだ…」
「あれは…地図かな?」
階段は1回だけ折り返して2階に着いた。階段の正面の壁にはこの階の部屋を表示したプレートが埋め込まれてる。通路は2人で並んで歩けるくらい。剣を振りまわすのは難しい。戦闘になったらイトハちゃんと俺は厳しいな。
「左右に分かれておるの…間取りは両方とも同じじゃな」
この階には同じサイズの部屋が5部屋ずつ真横に並んでるみたいだ。1階のソファを考えると10人が最大収容人数と想定してるのか?
ちなみに右の真ん中に男子トイレ、左の真ん中に女子トイレがある。
「じゃあ私達は左ね」
「気を付けてな。勇人、私達も行くよ」
「ああ」
そう言って前に出る。フレイヤさんは中距離が本業だ。俺が前で戦わないと…
「勇人、そんなに警戒しなくても…私を守るためかい?」
「うっ///そうだよ、悪いか!」
こういうのは相手に知られると恥ずかしいんだよ…
「いや、ちょっと嬉しかったよ♪…私は普段は守る側だからね。とりあえず1部屋ずつ見ていこう」
まぁ、フレイヤさんを守れる程強い人なんてメイドさんくらいだしな…他の人じゃ守られる側になっちゃうか。
「1部屋目だね。さて、何が出るか…」
前にいた俺がドアを開ける。
きぃぃぃぃ…
高い鈍い音だ。玄関扉とは違った嫌な音だな…中は…
「何だよ、これ…」
「勇人、どうした?…お札?」
部屋中の壁にお札が貼られている。それも全部赤黒い文字だ…不気味だし目が痛い…
「これは…血文字かね?」
「多分、そうだろう。微妙に擦れてるし、全部走り書きだな…」
お札の字は達筆過ぎて、かろうじて『姿を見えなくする結界を張る』みたいな事かもしれない、という程度にしか読めない。そもそも、そんな魔法知らない。
「魔力は流れてないね…危険だしお札はこのままだね」
部屋には服掛けと机と椅子とベットのみ。それ以外は何も無い。スペースもベットの下くらいだが、もちろん何もない。机に付いてる収納棚を漁ってみたが何もなかった。
お札は服掛けにも張られている。
「やっぱり、窓は無いね」
「ああ…それに埃もないな」
「……次に行こうか」
「ああ」
隣の部屋はお札がない事以外は全く同じだった。その後の部屋も全部同じ。拍子抜けしてしまったが、端の部屋の前でふと思い出した。
「この部屋には窓が付いてるはずだったな」
「そうだったね。うっかり忘れる所だったよ」
中に入ってみたが他の部屋との違いは窓だけだった。ベットの上に付いている。
「随分高い位置にあるな。丁度俺の頭の位置くらいか」
俺の身長は178センチくらいある。あの窓はリリーちゃんじゃベットの上に乗って目が下の冊子に届くくらいか。
「そうだね…それに、あの槍は何なんだろうね?」
そう言えばそうだ。窓から尖った先端が見える。錆びてるな。
それにこの窓の下は剣山になっていたはずだ。本当にどんな設計になってるんだ?
「時計塔、丁度正面に見えるね」
フレイヤさんが試しているがベットの上から外を見ると時計塔が真正面にくるみたいだ。
「…皆に合流しようか。今後の事も決めたいし」
そうしよう。他の皆の報告も聞いてみたい。
結局1日1話投降し続けてしまいました。
流石に今のストックが切れたら間があくと思います。