女Bは魔界の法を垣間見る
Side:女B
「おや、イトハ殿御1人とは珍しい」
「あ、テッタ。私だって1人の時くらいあるわよ」
濃い青髪ショートヘアーの長身の美人、テッタ・エイザン。なんでも勇者の血を引く魔族で、斬り込み隊の女隊長。切り込み隊はこの人以外は皆男らしい。
「左様で。常に魔王様と御一緒にいる印象が強いものですから」
なんと言うか…この人の喋り方は武士っぽい。丁寧と不遜の間とでもいう喋り方だ。
腰に吊るした鞘の形からも分かるけど刀を使う。昔の勇者が刀を広めたらしく、刀は魔界ではちょっと珍しいくらいの印象だ。サシなら剣より使い易いと聞いた。
「アイツが一方的にくっ付いてくるのよ。私はなるべく離れてたいわ」
「そんなに邪険に扱われては魔王様が強行手段に出るやもしれませんよ」
「…もう遅いわ…」
アイツは何回か強行手段に出てきた。キスだけだからまだイイけど…これ以上は考えない方がイイわね…
「左様で…某もいっそ…」
「お願いだからヤメテ。これ以上変態増えられたら私本当に城出るわ…」
実はこの人もリリーと同類。強行手段に出ないだけでアイツと同レベルの危険人物。何で私は女の人にしか好かれないのよっ!?
「それは困ります。それに、その…言いにくいのですが…イトハ殿を追って相当数の者が城を抜けると思います…」
「……城で大人しくしてるわ」
「懸命な判断です」
褒められてもあんまり嬉しくない…
「イトハ様、テッタ様、リリー様がお呼びですわ。至急謁見場まで来て頂けますか」
あ、この前私にイチャモン付けてきた貴族っ子のシフルネ・フレイライン。今では普通にリリーの御付としてアイツに魔王の仕事をさせている。その分私の稽古はテッタに頼んでいる。魔王の仕事が何かは知らないけど。
それにしても…いつ見ても不思議な縦ロールの黄髪だわ…
「シフルネ殿、承知しました」
「久しぶりね。何かあったの?」
「お久しぶりです。イトハ様に会えないのは私にとっては、本当に、本当に寂しい日々で…」
「シフルネ殿、落ち着いて下さい。イトハ殿は今は目の前に居りますよ」
「…そ、そうよ。だから何があったのか教えてくれない?」
どうしよう…この子怖い。テッタのフォローも怖いけど…
「…そうですよね。イトハ様は、今は目の前///」
顔赤くする所じゃないでしょうがーっ!
「はっ!見苦しい所を御見せしました…歩きながら話しましょう。本日、一部の大臣達がリリー様の年齢を理由に魔王に相応しくないとの声明を元に、謁見場にてリリー様に詰め寄っているのです。彼らは<契約の魔印>を移せと要求してきました」
「<契約の魔印>?」
「イトハ殿は知らないでしょうが、魔王の証となるスキルです。このスキルを持つ者が魔王になるのです」
「でもスキルなんて移せるの?」
「一部の特殊スキルで移せるモノも有るそうですが、某は見た事は有りません」
「私もです。ですが<契約の魔印>は多分移りません…」
「何でそんな事分かるの?」
「この<契約の魔印>が発現するとそれに関する知識が得られるとリリー様に聞いた事が有ります。その時、呪いの様だと呟いていましたから…おそらくそう簡単に移るモノではないかと」
「大臣達は…知らないのかしら?」
「知っていたら、魔王様に詰め寄ってはいないでしょう」
「私も同じ意見です。リリー様には<契約の魔印>の発現条件を公開してはと進言したのですが、『おそらく今以上の混乱が起こる』と申しておりました」
「そう…これ以上は本人に直接聞いた方が速そうね。急ぎましょう」
リリー、もう少し待ってなさいよ…
「リリー様、我らとてなにも嫌がらせでこのような事をしているのではありません。ですが、やはり貴方は幼すぎる。城に客人を迎えるのは良いとしましょう。女性達の士気も上がり、城も活気づいています。しかし、それと同時に最近の貴方には緩みが見える。統治者としてとの緩みが!」
謁見場に入った瞬間嫌味な演説に遭遇した。まるで自分の演技に酔っている3流役者みたいで見ていてサムい。
「ほう。全員が同じ思いのようじゃの。して、どうしたいのじゃ?残念ながら<契約の魔印>は移せん。移る理由も言う訳にはいかん。この事を踏まえた要求を聞こう」
玉座に座るリリーを100人以上の魔界貴族(男ばかり)が見ている。コイツらが今回の騒ぎを起こしたメンツね。
「…我らは、現状に満足できぬのです!何故人間を放置するのです?何故奴らが魔族を攻める準備をしているのに何もせぬのです?何故この状況で城を空けたりするのです?貴方は魔王としての自覚が足りないのでは有りませんか!」
『そうだ、そうだーっ』と他の連中が野次を飛ばしてる。明らかに便乗してるだけのヤツらが偉そうに口開いてんじゃないわよ!
「そのような方に、魔王が務まると思っているのですか!?」
…ようするに権力寄こせって言いたい訳ね…
「イトハ殿、ここは暫し抑えて下さい。時期に終わります」
「どうして分かるのよ?」
「ふふふ♪イトハ様、リリー様は決してあのような低能な者達に負ける御方では有りません」
シフルネ、随分楽しそうね。何か知ってるのかしら?
「ふむ。お前達がわらわを魔王に相応しくないと申すならば、法に従い雌雄を決するしか有るまい。それが<契約の魔印>を剥奪する、唯一の方法じゃ」
「…剥奪だ、等と物騒な…」
「じゃがわらわが魔王に相応しくないと申すならば、剥奪するしか有るまい。それとも今までの高説は何の意味も無い言掛りとでも申すか?」
「…では、法に従い、王決めの儀を、貴方に申し込みます!」
「よかろう、受けて立つ。明日の正午までにお前達の中から5人、わらわはお前達以外の者を4人。選抜し雌雄を決する。では、解散!」
…何がどうなったのよ…
ちょっと前に出てきた魔王城の人達が登場しました