ドワーフとは
俺が生まれ育った国……ドヴァルディア王国。
世界でも有数の豊かな国であり、そして何より、ドワーフが築き上げた世界最高峰の文明を誇る国だ。ドヴァルディア王国の国土は、それほど広くない。それでも、この国には世界中から人が集まってくる。
理由は単純だ。
ドワーフが持つ鍛冶技術と金属加工技術、そして製造技術が、世界最高峰だからだ。武器や防具はもちろん、工具や日用品に至るまで、ドヴァルディア王国で作られた製品は世界中で高い評価を受けている。そのため、この国にはドワーフだけでなく、多くの人間や他種族が暮らしている。もともとは出稼ぎでやってきた人間が、そのままこの国を気に入り、家族を呼び寄せて移住することも珍しくない。街を歩けば、ドワーフよりも人間の姿を見かけることの方が多いだろう。
ドヴァルディア王国に住むドワーフは、人口全体の約一割。残りの大半を人間を中心とした他種族が占めている。農業や畜産、飲食、土木、物流など、国を支えるさまざまな仕事を他種族が担っているのだ。そんなドヴァルディア王国の街並みは、俺が前世で知っていたファンタジーのドワーフの国とは大きく違っていた。
石造りの無骨な建物が並んでいるわけではない。広い敷地に大きな庭。重厚な門に、美しく整えられた外壁。大きな窓や装飾が施された、まるで貴族が住んでいるような西洋風の豪邸が立ち並んでいる。道路も整備され、街には多くの人が行き交っている。宿屋や商店が並び、さまざまな種族が働き、暮らしている。豊かで、清潔で、活気がある。それがドヴァルディア王国という国だった。
ただし……ドワーフの住む家には、ほぼ必ずと言っていいほど、あるものが備えられている。庭や地下室、専用の部屋。場所は家によって違うが、そこには必ずと言っていいほど、筋力を鍛えるための設備がある。バーベル、ダンベル、懸垂器具。その他にも、身体を鍛えるためのさまざまな器具。ドワーフにとって身体を鍛えることは、生活の一部なのだ。そして、それは俺が暮らしていた孤児院も例外ではなかった。俺の住んでいた孤児院は、決して貧しい場所ではない。むしろ、かなり立派な建物だった。子供たちにはそれぞれ一人一部屋が与えられ、三食きちんと食事が用意される。生活に困ることは何もなかった。そして孤児院の庭には……やはり、筋トレ器具が並んでいた。
ドワーフにとって、身体を鍛えることはそれほど当たり前のことなのだ。
俺たちは七歳になると、全員が学校へ通う。学校では読み書きや計算、歴史などの一般的な教育を受ける。そして学校が終われば家へ帰り、自分で考えた鍛錬メニューをこなす。筋力を鍛える者。持久力を鍛える者。七歳から十五歳になるまでの八年間、身体を鍛え続けるということだけは、すべてのドワーフに共通している。もちろん、これには明確な理由がある。ドワーフには、他種族にはない特殊な体質がある。
それが、剛身素と呼ばれるものだ。剛身素は、身体を鍛えることで分泌量が増加するドワーフ特有のホルモンである。筋肉を発達させるだけではない。筋肉そのものを強靭にし、まるで鋼のような硬さを与える性質を持っている。
鍛錬によって剛身素を十分に蓄積したドワーフの肉体は、常人とは比べものにならないほどの強度を持つ。極限まで鍛え上げられたドワーフなら、剣による斬撃すら跳ね返すほどの硬さを誇る。そして、その強靭な肉体は、驚異的な持久力にもつながっている。身体そのものが疲労に強いため、長時間にわたって激しい運動を続けても、他種族ほど簡単には疲れない。だからこそ、七歳から十五歳までの八年間が重要になる。この時期にどれだけ身体を鍛え、体内に剛身素を蓄積できるかによって、十五歳以降の肉体の強さが大きく変わる。
つまり、この八年間は、ただ筋肉をつけるための期間ではない。
将来、剣すら跳ね返す強靭な肉体と、疲れを知らない持久力を手に入れるための土台を作るためのとって極めて重要な八年間なのだ。理想とする肉体を手に入れるため、七歳から十五歳までの鍛錬は、ドワーフ社会にとって当たり前の習慣となっていた。
そして十五歳になると、ドワーフとしての人生を大きく左右する選定試験を受ける。その先にあるのが、鍛冶師ギルドだ。ドヴァルディア王国では、鍛冶師は単なる職人ではない。国の産業を支える、非常に重要な存在だ。そのため、鍛冶師には明確な階級制度が存在する。
最も下に位置するのが、見習い鍛冶師、そして、正規鍛冶師、副師範鍛冶師、師範鍛冶師と階級が上がっていく。そしてその上に存在するのが、王級鍛冶師。さらにその上には、世界各地にある七つの大きな拠点をそれぞれ統括する、七大鍛冶師がいる。七大鍛冶師は、単に優れた武具を作るだけの鍛冶師ではない。ドワーフの鍛冶技術を支え、世界各地の拠点を管理する、最高位の鍛冶師であり指導者でもある。
そのさらに上に立つのが、五人の鍛冶師によって構成される長老会だ。長老会は鍛冶師ギルドの最高意思決定機関であり、ドヴァルディア王国の国王と同等の権限を持っている。つまり、この国では鍛冶師という職業そのものが、国家を支える大きな力を持っている。鍛冶は単なる職人仕事ではない。ドワーフが長い年月をかけて築き上げてきた、文明そのものなのだ。




