↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ドワーフ鍛冶師、死刑を宣告されたので、ドワーフ国へ復讐することにしました!  作者: にんじん
第2章 追放の道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/26

新たな目的

 真実を知るまでは生きてやる。その言葉を胸に刻んだことで、俺は再び生きる気力を取り戻していた。死んでもいい……そう思っていたはずなのに、今は違う。俺は生きなければならない。そう思い直したとき、とある疑問の謎が解けた。母さんは異端の鍛冶師だった。魔石と武具を融合させようとした、ドワーフの鍛冶道から外れた存在。そして、俺と同じような研究をしていたという。


「……もしかして」


 頭の中に、ある場所が浮かぶ。町の外れ。森の奥。俺が偶然見つけた、古びた工房。地下にあった部屋。そこに残されていた大量の記録帳。鍛冶道具の使い方や鍛冶技術、魔石についての記録。そして、ミスリルという未知の金属に関する情報。あの場所が母さんの工房だったと考えれば、すべてがつながる。


「間違いない……」


 俺は小さく呟いた。もちろん、これは俺の憶測にすぎない。母さんが俺のために記録帳を残したわけではないのかもしれない。そもそも、俺があの工房を見つけることすら想定していなかった可能性もある。それでも、あの工房があったからこそ、俺は鍛冶を学ぶことができた。記録帳があったから、鍛冶道具の使い方を知ることができた。魔石の存在を知り、魔剣を作ることができた。そして、ミスリルという未知の金属の存在まで知った。俺が鍛冶師として歩み始めるために必要だったものが、あの場所にはそろっていたのだ。


「母さん……ありがとう」


声に出した瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなった。母さんが本当に俺のために残したものなのかは分からない。それでも、俺は確かに受け取った。あの工房で学んだ技術も、記録帳に残された知識も、今の俺を形作っている。ならば、無駄にするわけにはいかない。


「絶対に、無駄にはしない」


 そして同時に、俺の中でドヴァルディア王国への復讐心が燃え上がった。母さんを異端者として否定した国。俺の夢を奪い、鍛冶を続けることすら許さなかった国。いつか必ず、思い知らせてやる。俺たちが間違っていたのではない。ドワーフの鍛冶道だけが、鍛冶のすべてではないということを。そう決意した、そのときだった。


 ぐうううううう……。


「…………」


 盛大な腹の音が鳴った。復讐心に燃えていた俺の腹が、空気を読まずに現実を突きつけてくる。そういえば、三日間何も食べていなかった。


「……腹、減ったな」


 どうやら俺の身体は、復讐を考える前に自分自身を大切にしろと言っているらしい。俺は隣を見る。そこには、荷台の隅で丸くなって眠っているトトがいた。


「おい……」


 肩を揺する。反応がない。


「おい、起きろ」


 もう一度揺する。それでも起きない。


「……起きろ!」


 今度は思い切り身体を揺さぶった。


「う、うぅ……チュー……」


 ようやくトトが目を開けた。


「なんですかチュー……?」

「腹が減った。何か食べさせてくれ」


「……やっと食べる気になったチューね」


 トトは眠そうに目をこすりながら、荷台の端を指差した。


「あの袋にパンとチーズが入ってるチュー。横の樽には水が入ってるチュー。好きなだけ食べるチュー」

「ありがとう」


 俺は言われたとおりに袋を開けた。中には硬めのパンと、塩気の強いチーズが入っていた。パンを手に取った瞬間、胃が強烈に食べ物を求めているのが分かった。俺はさっそく、一口かじる。


「……!」


 うまい。ただのパンなのに、信じられないほど美味しく感じた。二口、三口。俺はパンを次々と口へ運んだ。チーズも手でちぎり、そのまま口に放り込む。硬いパンをろくに噛まずに飲み込み、水を一気に流し込んだ。


「ちょ、ちょっと待つチュー! そんな勢いで食べたら――」

「んぐっ……!」


 喉に詰まりそうになり、慌てて水を飲む。それでも、手は止まらなかった。三日間、何も食べていなかった。空腹というものが、ここまで恐ろしいものだとは思わなかった。パンを食べても、チーズを食べても、身体がもっと寄越せと訴えてくる。袋の中身が、みるみる減っていった。


「……はぁ……はぁ……」


 ようやく最後の一切れを口に入れ、今度はしっかりと噛んで飲み込んだ。腹の中が温かくなっていく。俺は荷台に背中を預けた。


「……食った……」

「三日も何も食べてなかったんだから、当然チュー」


 トトは呆れたように言った。


「もう少しゆっくり食べるチュー。身体がびっくりするチューよ」

「……悪い」


 満腹になった途端、今度は猛烈な眠気が襲ってきた。


「少し眠らせてもらうぞ」

「どうぞチュー」


 俺は目を閉じた。今度の眠りは、以前とは違った。死ぬための眠りではない。生きるための眠りだった。


 朝。


 荷台に差し込む光で、俺は目を覚ました。身体を起こすと、昨日までとは少しだけ感覚が違っていた。腹が満たされたおかげか、頭もかなりはっきりしている。


「……そうだ」


 俺は周囲を見渡した。


「モル」

「なんだチュー?」


 荷台の前方にいたモルが振り返る。


「聞きたいことがある」

「構わないチュー」


 俺は自分の両足に目を落とした。そこには、重たい足枷が付けられていた。鎖は短く、荷台の中を歩き回る程度なら問題ないが、走って逃げることはできそうにない。


「この足枷は?」

「逃げ出さないようにするためチュー」


「……」


 俺が足枷を見つめていると、モルが少し真剣な顔になった。


「それについても、役人から伝えるように言われていることがあるチュー」

「なんだ?」


「よく聞くチュー」


 モルは俺の目を見た。


「お前がこの荷馬車から逃げ出せば、国外追放の処分は取り消されるチュー」

「……」


「その場合、お前はドヴァルディア王国からの逃亡犯として指名手配されるチュー」

「指名手配……?」


「そうチュー。そして、捕まった場合は今度こそ死刑チュー」


 背筋が冷たくなった。モルの口調は淡々としていたが、冗談を言っているようには見えなかった。


「それだけじゃないチュー。お前は二度とドヴァルディア王国へ入ることを許されていないチュー」

「……戻ったら?」


「死刑チュー」


 俺は黙り込んだ。


「お前の追放処分と再入国禁止は、ドヴァルディア王国中に通達されているチュー」


 つまり、俺はもうドヴァルディア王国には戻れない。


 追放された。それだけだと思っていた。だが、実際には違う。俺はドヴァルディア王国から完全に切り離されたのだ。逃げても、戻っても、待っているのは死。


「……分かった」


 俺は足枷を見つめた。両親の手掛かりは、ドヴァルディア王国にあるかもしれない。だが、もう調べるために戻れない。これから先、どうやって真実を追えばいいのかも分からなかった。それでも、諦めるわけにはいかない。何も知らないまま、投げ出すわけにはいかなかった。


「……俺はどこへ連れていかれるんだ?」

「ドヴァルディア王国からかなり離れた、人間族が治める国、ラグナード王国にあるエメルアという町チュー。ここから荷馬車で一か月以上はかかるチュー」


 聞いたことのない国。そして、聞いたことのない町の名前だった。そこに両親の手掛かりがあるとは思えない。だが、今は行き先を選べる立場でもなかった。


「ラグナード王国は、人間族の国では珍しく鍛冶に力を入れている国だチュー。そういう意味では、お前にとって幸運かもしれないチュー」

「……え?」


 俺は思わず顔を上げた。


「鍛冶に力を入れているって、本当なのか?」


 人間の国で鍛冶に力を入れている。俺には、すぐには信じられない話だった。


「詳しくは知らないが、間違いないチュー。ただ、エメルアはワシたちも初めて行く町になるチュー。本来の搬送先は、ラグナード王国の王都だからチュー。エメルアに鍛冶工房があるかどうかは分からないチュー」


「そうか……」


 期待するなと言われたわけではない。だが、鍛冶工房があるという確証はない。それでも、可能性があるだけで十分だった。俺はもう二度と金槌を握れないと思っていた。鍛冶師になる夢は終わったのだと。けれど、もし追放先に鍛冶工房があるのなら、もう一度鍛冶を始められるかもしれない。その考えが浮かんだだけで、胸の奥が熱くなった。俺には鍛冶眼(グランド・アイ)がある。あの工房で学んだ知識もある。記録帳に残された技術を手掛かりに、俺は魔剣を完成させることさえできた。普通の鍛冶なら、すでにレベル4の武具を作れるだけの技術も身につけている。もちろん、人間の工房で同じように作れるとは限らない。道具も素材も、ドヴァルディア王国とは違う可能性があるからだ。それでも、鍛冶ができる。それだけで、俺には十分だった。


「……また、鍛冶ができるかもしれないのか」


 鍛冶ができると知った時、俺の中で新たな考えが形になり始めた。両親の真実を知ること。それが、今の俺が生きる理由だ。だが、それだけではない。母さんが目指していたものが、あの記録帳に残されていた。母さんはレベル三の魔剣までしか完成できなかった。俺はミスリルを使ってさらにその上を目指したい。そして、最終的には魔剣の技術を世界に広めてやる。


 ドヴァルディア王国が異端と呼んだ技術で、世界の鍛冶を変えてやる。ドワーフの鍛冶道だけが正しいわけではないことを、俺自身の鍛冶で証明する。それが、母親を殺したドヴァルディア王国への復讐だ。


「……ふふ」


 思わず笑みが漏れた。まだ何も始まっていない。エメルアに鍛冶工房があるかどうかさえ分からない。それでも、俺の前には、わずかでも可能性が残されている。


「……楽しみだな」


 荷馬車は長い道のりを進み続ける。その先に待っているエメルアという町で、鍛冶工房があるのかもしれない。そう思うと俺の心が躍っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。