成果
魔石の記録帳を読み終えた俺は、しばらくその場から動くことができなかった。胸の奥が熱い。魔石と武具を融合させる技術。魔石の魔力を武具へ流すための道。それが完成すれば、剣に炎を纏わせることができる。前世のアニメやゲームで見たような、魔法の力を宿した武器。それを、この世界で本当に作ることができる。
「……すごい」
思わず声が漏れた。俺は記録帳を抱きしめるように持ったまま、興奮していた。これまでずっと想像していたものが、ただの空想ではなかったのだ。魔法を宿した武具を作ることができる……そう思った。だが……。
俺はすぐに、あることに気づいた。
「…………」
俺は机の上に置かれている一本の剣を見る。五年。鍛冶を始めてから、五年もの歳月が流れている。その五年間、俺はひたすら鍛冶に打ち込んできた。そして、ようやく作れるようになったのがレベル二の剣だった。
レベル二。ドワーフ以外が作れる武具の最高級。だが、ドワーフの鍛冶師が作る武具として考えれば、まだまだ低い。そんな俺が、魔石と剣を融合させる。できるわけがない。記録帳に書かれている方法を読めば読むほど、それが理解できた。魔石の魔力を剣へ流すためには、剣の内部に魔力が通る道を作らなければならない。それは、まるで人間の身体に張り巡らされた血管のようなものだった。ただ穴を開ければいいわけではない。魔力が流れる道を正しく作り、剣そのものを壊さず、魔石から流れ込む魔力を武器全体へ伝える。しかも、その道は非常に細かい。少しでも失敗すれば、魔力が上手く流れない。最悪の場合、武器そのものが壊れてしまう。
「……無理だ」
自然と、そんな言葉が口から出た。悔しい。ものすごく悔しい。魔石と武具を融合させる方法を知ることができた。理屈も理解できる。やってみたい。今すぐにでも試したい。それなのに今の俺には、その技術がない。
「今の俺じゃ……届かない」
五年間、鍛冶を続けてきた。それでも、まだレベル2。そんな俺にとって、魔石と武具の融合は、あまりにも遠い領域だった。そこで俺は、改めて思い知らされた。鍛冶というものは、山を登るのと同じなのだ。登れば登るほど道は険しくなる。鍛冶の道とは断崖絶壁をクライミングするのと同じだ。だが、その壁を越えても、新たな壁が待ち受けているのだ。頂上が見えない。それでも、登るしかない。
「……今は無理でも」
俺は自分の作った剣を握りしめた。
「いつか、絶対に作ってみせる」
魔石と武具を融合させた剣。炎を纏う剣。いつか必ず、自分の手で作ってみせる。そう、心に誓った。そのためには、もっと鍛冶の技術を身につけるしかない。魔石の研究は、いったん置いておく。今の俺には、まだ早い。ならば……。
「もっと鍛えるしかないな」
俺は再び鍛冶場へ向かった。そこからの二年間、俺は今まで以上に鍛冶へ打ち込んだ。何百本もの剣を作った。そして、何百本もの剣を溶かした。失敗した剣をそのまま捨てることはできない。俺に使える材料には限りがあるからだ。一度作った剣を炉へ戻し、溶かす。再び素材へ戻し、また剣を作る。それを何度も繰り返した。
「……まだだ」
作っては確認する。鍛冶眼で状態を確かめる。問題があれば、また作り直す。
「ここが駄目か……」
そして、また炉へ戻す。
そんな毎日の繰り返しだった。もちろん、材料を買うためには金が必要だった。だが、俺にはそれほど多くの金を持っているわけではない。俺が暮らしている孤児院では、子供たちに毎月小遣いが渡されていた。これはドヴァルディア王国が孤児院へ支給している金から出されている。豊かな国だからこそできる、孤児たちへの支援だった。そして、孤児院の子供たちには一つの習慣があった。もらった小遣いの半分を貯金する。十五歳になって孤児院を出るとき、その貯めた金を生活費や旅費などに使うためだ。俺も、本来ならそうするはずだった。けれど……。
「これも材料に……」
俺は毎月もらう小遣いを、一度も貯めなかった。半分どころか、全額を鍛冶のために使った。鉄を買うためだ。そのため貯金は全くない。それでも、俺は後悔していなかった。俺には、どうしても作りたいものがある。だからこそ、一枚の硬貨すら惜しかった。そして、十四歳になったある日。俺は一本の剣を完成させた。いつものように、最後の確認をする。
俺は鍛冶眼を発動させた。視界に、情報が浮かび上がる。俺は表示された文字を、一つずつ確認していく。そして……。
「……え?」
思わず目を見開いた。そこに表示されていた評価は。
「……レベル、四……?」
五年間。何百本もの剣を作ってきた。何百本もの剣を溶かしてきた。何度も失敗して。何度もやり直して。それでも届かなかった領域。それが今、ようやく、俺の手に届いた。
「……やった」
胸の奥から、じわじわと喜びが込み上げてくる。
「やった……!」
俺は完成した剣を両手で握りしめた。十四歳。鍛冶を始めて七年。俺はようやく、ドワーフが作る武具として最低限認められるレベル四の剣を、自分の手で作り上げたのだった。




