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転生ドワーフ鍛冶師、死刑を宣告されたので、ドワーフ国へ復讐することにしました!  作者: にんじん
第1章 鍛冶師への道

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魔剣

 十四歳。選定試験まで、残り一年。鍛冶を始めて、七年。俺はこの七年間、一日たりとも鍛冶を休まなかった。最初の頃は、鉄を叩くだけでも失敗した。熱し方を間違え、叩く位置を間違え、形を崩した。何度やっても、レベル二を超える鑑定結果を出すことができなかった。それでも、俺は諦めなかった。記録帳を読み、実際に手を動かし、失敗しては原因を考える。そして、また作り直す。何百本もの剣を作った。そして、そのほとんどを溶かした。失敗した剣を材料へ戻し、再び鍛える。それを何度も繰り返した。そうして七年間、鍛冶を続けた結果……俺はようやく、レベル四の剣を作れるようになった。ドワーフが作る武具として、最低限の商品として認められる品質。だが、決して低い技術ではない。だけど、俺にとってはゴールではなかった。むしろここからが、本当の始まりだった。


 俺が本当に作りたかったものは……。魔石と武具の融合。魔石に宿る魔力を武具へ流し込み、魔法の力を宿した武具を作る。前世のアニメやゲームで見た、あの魔法の武器。炎を纏う剣。雷を宿す武器。特殊な力を持った装備。それを、この世界で本当に作ってみたかった。


 そして、そのための手がかりは、すでに俺の手元にある。地下の研究室に残されていた記録帳。そこには、魔石と武具を融合させるための研究が記されていた。俺は記録帳を何度も読み返した。魔石の魔力を武具へ流すには、武具の内部に魔力を通すための道を作る必要がある。完成した剣に、あとから溝を掘ればいいわけではない。二枚の薄い剣身を作り、それぞれの接合面に溝を刻む。そして、その二枚を正確に重ね合わせる。二枚の溝が一本につながることで、剣の内部に魔力が流れる道が生まれる。その方法については、記録帳に詳しく書かれていた。だが、それだけではない。魔石から流れ込む魔力を、必要なときだけ流すための仕組みも記されていた。その名は……魔力遮断弁。魔石と剣内部の魔力経路の間に組み込む、小さな機構。閉じている間は魔石から魔力が流れない。開けば魔力が流れ、剣の内部に作られた魔力経路を通って刀身へ届く。そして、柄に取り付けられた操作部によって、その開閉を行う。仕組みそのものは、記録帳に書かれている。どういう構造なのかも分かる。理論上、どう動くのかも理解できる。けれど……。


「……これを、本当に作るのか」


 記録を読むことと、実際に作ることはまったく違った。まず俺は、二枚の剣身を作るところから始めた。普通の剣なら一本の剣身を作ればいい。だが、魔剣は違う。二枚の薄い剣身を、寸分の狂いなく作らなければならない。厚さが違えば、重ねたときに歪む。形が少しでもずれれば、内部に作る魔力経路もずれる。俺は何度も剣身を作り直した。


「……もう少しだけ薄く」


 削る。


「ここが少し歪んでる……」


 また削る。ようやく二枚を合わせられる形になったと思えば、今度は接合面に刻む溝が問題になる。深すぎれば剣身が弱くなる。浅すぎれば、魔力が十分に流れない。位置が少しでもずれれば、二枚を合わせたときに一本の道にならない。


「……難しいな」


 俺は何度も記録帳を読み返した。そこに書かれている構造は理解できる。だが、実際に金属を加工してみると、ほんのわずかな誤差が結果を大きく変えてしまう。それでも、俺は手を止めなかった。剣身を作り直す。溝を刻み直す。二枚を合わせて確認する。失敗すれば、また最初からやり直す。そして、それと並行して魔力遮断弁の製作にも取りかかった。


 こちらも簡単ではなかった。魔力遮断弁は、とにかく小さい。剣の柄の中に収めなければならない以上、大きくするわけにはいかない。しかも、魔力を止めるための部品だ。閉じた状態では、魔力が完全に止まらなければならない。ほんの少しでも隙間があれば、魔力が漏れてしまう。逆に、完全に閉じることだけを意識すれば――。


「……開かない」


 今度は魔力が流れなくなる。部品を削り直す。また試す。それでも駄目だった。


「くそ……」


 魔力が漏れる。操作部を押しても弁が動かない。動いたと思えば、今度は戻らない。力を加えすぎれば部品が壊れる。小さく作りすぎれば、加工そのものが難しくなる。記録帳には、魔力遮断弁の構造が書かれている。だから、何を作ればいいのかは分かる。だけど、その形を、自分の手で正確な部品にするのは別の話だった。


「……ここを、もう少しだけ」


 削る。試す。


「駄目だ」


 また削る。


「今度は……」


 試す。また失敗する。何度も作り直した。失敗した部品を壊し、形を確認する。記録帳を読み返す。そして、また作る。七年間、鍛冶を続けてきた。だからこそ、金属を加工する技術は身についている。それでも、魔力遮断弁は難しかった。普通の剣を作るのとは、求められる精度がまるで違う。小さな部品のわずかなズレが、魔力の流れを変えてしまう。やがて俺は、ようやく一つの魔力遮断弁を形にすることができた。


「……よし」


 小指の先端ほどの小さな部品。何度も作り直した末に、ようやく形になった。だが、これで終わりではない。今度は、それを剣の中へ組み込まなければならない。二枚の剣身。それぞれに刻まれた魔力経路。その始点に接続される魔力遮断弁。そして、その先にある火属性の魔石。すべてを正確につなげる必要がある。どこか一つでもずれれば、魔力は正常に流れない。俺は一つ一つの部品を確認しながら、慎重に組み上げていった。


「……これで、合ってる」


 記録帳に描かれた構造と照らし合わせる。何度も確認する。そして、ゆっくりと二枚の剣身を重ねる。二枚の溝が重なり、一本の魔力経路になる。その経路が、魔力遮断弁へつながる。さらに、その先が魔石へとつながる。最後に柄を取り付ける。外側から魔力遮断弁を操作できるように、小さなボタンを組み込む。ここまでの仕組みは、すべて記録帳に書かれている。俺が考えたものではない。だけど、それを自分の手で形にするのは、想像以上に難しかった。作っては失敗する。失敗しては作り直す。魔力経路を調整する。魔力遮断弁を作り直す。剣身の接合をやり直す。魔石との接続を変える。一つ直せば、今度は別の場所に問題が出る。それでも、俺は鍛冶場から離れなかった。そして……半年が過ぎた。


「……できた」


 俺の目の前にあるのは、一振りの剣。見た目だけなら、普通の剣と大きな違いはない。だけど、その内部には普通の剣には存在しないものがある。二枚の剣身を重ね合わせて作った、一本の魔力経路。その始点には魔力遮断弁。そして柄には、それを操作するための小さなボタン。さらに、その先には火属性の魔石。理論上は、これで魔石の魔力を剣へ流すことができる。けれど、本当に成功しているのかは、まだ分からない。俺は剣を手に取った。まずは、鍛冶眼(グランド・アイ)を発動する。視界に、いつものように情報が浮かび上がった。

【名称】炎の魔剣

【武具ランク】レベル2

【材質】鉄

【強度】普通

【硬度】普通

【靭性】普通

【切れ味】普通

【耐久性】普通

【重量】普通

【均質性】普通

【属性】火

【魔石】火属性魔石

【魔力経路】普通

【魔力伝導率】低

【炎出力】極小

【炎の持続】短

【武具状態】普通


「……レベル二」


 思わず呟いた。俺がこれまでに完成させた最高の剣は、レベル四。それと比べれば、二段階も低い。しかも、魔力伝導率は低い。魔力経路そのものは正常に形成されている。けれど、魔力の流れは弱い。その結果、炎の出力も極めて低い。


「……なるほど」


 俺は表示された情報を見ながら、小さく頷いた。魔石と武具の融合自体には成功している。魔力経路も正常。だけど、まだ完成度は低くレベル4には遠く及ばない。それでも、俺は柄にある小さなボタンを見つめた。ここまで作り上げた。あとは、自分の目で確かめるだけだ。俺はボタンへ指を置いた。


「……」


 緊張する。今まで何度も失敗してきた。魔力が通らなかったこともある。途中で止まったこともある。魔力を流した瞬間に剣が割れたこともある。だけど……今、俺の手の中にある剣は違う。鍛冶眼(グランド・アイ)は、この剣をレベル2の魔剣として認めている。少なくとも、魔石と武具の融合は成立している。あとは、それが本当に動くのか。


 俺は息を吸った。


「……いくぞ」


カチッ。


 ボタンを押す。その瞬間、剣の内部を魔力が走った。


「……!」


 淡い光が、刃の根元から伸びる。魔力遮断弁が開き、魔石から流れ込んだ魔力が、剣の内部に作られた道を進んでいく。そして……。


ボッ。小さな炎が生まれた。


「…………」


 俺は目を見開いた。炎がある。確かに、刃が炎を纏っている。


「……できた」


 思わず声が漏れた。


「できた……!」


 俺は剣を握ったまま、炎を見つめた。消えない。魔力が、ちゃんと剣の内部を流れている。そして、その魔力が刃へ届き、炎を生み出している。


「やった……!」


 思わず声が大きくなる。だけど……その炎は、あまりにも小さかった。刃全体を包み込むような炎ではない。剣の表面を、ほんの五ミリほど覆っているだけ。炎というより、薄い火の膜と呼んだほうが近い。


「……」


 俺は炎を見つめた。小さい。本当に小さい。前世のゲームで見たような、刀身全体を包み込む巨大な炎とは比べものにならない。これでは、実戦で使ったとしても大した威力にはならないだろう。でも……。


「……へへ」


 俺は笑った。嬉しかった。たった五ミリ。それだけしか炎を纏っていない。それでも、俺にとっては十分だった。今まで何度やっても、魔力は上手く流れなかった。炎をまったく纏わないこともあった。一部分だけ炎を纏って終わることもあった。魔力の流れに耐えられず、剣そのものが割れたことも何度もある。だけど、今回は違う。魔力が流れた。そして……炎が生まれた。


「俺の魔剣だ……」


 小さな炎を見ながら、俺は笑い続けた。まだまだ未完成だ。炎は小さい。威力だって低い。鍛冶眼(グランド・アイ)の判定も、レベル二。俺が七年間かけて作れるようになった普通のレベル四の剣には、まだ遠く及ばない。それでも、俺にとっては、大きな一歩だった。普通の剣を作れるようになっただけではない。俺はついに魔剣を、自分の手で完成させることができた。


「……もっと大きくできる」


 俺は炎を見つめながら、そう呟いた。初めて作った魔剣は、ほんの五ミリしか炎を纏わなかった。だけど、その五ミリは、俺にとって何よりも大きな一歩だった。


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