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俺には、やりたいことがあった。それは、このドワーフの鍛冶技術には存在しないもの。武具と魔石の融合だ。前世の記憶にあるアニメやゲームでは、武器に魔石のようなものをセットすることで、武器に魔法の特性を付与することがあった。炎を纏う剣。雷を放つ槍。氷を生み出す弓。もちろん、そんなものが現実世界に存在したわけではない。ただのアニメやゲームの知識だ。もし、この世界に魔法が存在しなかったら。もし、人間しか存在しない普通の世界だったら。俺だって、前世の空想上の知識を現実に試そうなんて馬鹿なことはしなかっただろう。けれどここは魔法が実在する世界だ。魔獣が存在し、その身体には魔石がある。そして俺は、ドワーフに転生した。
「だったら……試してみる価値はある」
そう思っていた。いや。本当は、ずっと思っていた。けれど、すぐには手を出せなかった。俺には本格的な鍛冶の知識がなかったからだ。武具を作ることすらできない人間が、いきなり魔石との融合なんてできるはずがない。だから俺は、まず正道を学ぶことにした。地下室で見つけた記録帳。そこに書かれていた鍛冶道具の基礎。鍛冶技術・基礎編。そして応用編。俺はそれらを読み、実際に道具を使い、鉄を叩き、何度も失敗した。それを五年間、ひたすら繰り返した。七歳から始めて、十二歳。五年だ。五年もの間、俺は鍛冶を続けた。もちろん、学校にも通った。ドワーフとして必要な身体の鍛錬も続けた。それでも、空いた時間のほとんどを鍛冶に費やした。そして今。俺はようやく、一人で武具を作れるようになった。ただし俺が作れる武具のランクは、まだレベル二。それは、ドワーフ以外の者が作る武具なら最高級とされるランクだ。だが、ドワーフの世界では違う。レベル三でさえ、鍛冶師ギルドから製品として出荷することはできない。ドワーフの製品として最低限認められるのは、レベル四から。つまり、俺は五年間鍛冶を続けても、まだドワーフの製品としては最低ラインにすら届いていない。
「……まだまだだな」
作業台に置かれた剣を見る。五年前の俺なら、この剣を作れたことだけで飛び上がって喜んでいただろう。今でも嬉しい。けれど、同時に分かる。まだ足りない。鍛冶技術は、もっと上げられる。このまま鍛冶技術の向上にまい進する。それが正しいのかもしれない。ドワーフの鍛冶師として考えるなら、それが正道だ。もっと技術を磨く。もっと良い武具を作る。レベル三、レベル四。そして、レベル五。その先にあるレア。そこまで進むことを目指す。それが普通なのだろう。
「……でも」
俺は地下室に戻る。この場所には、まだ読んでいない記録帳がある。
五年前、この地下室にある記録帳のタイトルをすべて確認した。その中には、気になるタイトルがいくつもあった。そして、その中に『魔石』と書かれた記録帳があった。俺は、その記録帳をまだ読んでいない。あえて読まなかった。まずは正道の鍛冶を学ぶ必要があると思ったからだ。武具すらまともに作れない状態で、魔石の研究を始めるなんて順番が逆だと思った。だから、ずっと我慢していた。
五年間。
鍛冶を覚えるために。そして今。俺は武具を作れるようになった。まだレベル二。それでも、五年間も我慢したのだ。
「……読むだけなら、いいよな」
俺は棚に手を伸ばした。
そして……一冊の記録帳を取り出した。
『魔石』
表紙に書かれた文字を見つめる。胸が高鳴った。ようやく、この日が来た。俺は記録帳を開いた。
魔石。それは魔獣の体内に存在する、魔力を生み出す源。魔獣が魔法のような特殊能力を使えるのも、体内に魔石を持っているためだと記されていた。魔石には、七種類の属性が存在する。
赤――火。
黄色――雷。
青――水。
水色――氷。
茶色――土。
緑――風。
紫――闇。
魔石は、その色によって属性が判別できる。そして、もう一つ。魔石の魔力量は、大きさだけでは決まらない。重要なのは濃度。同じ大きさの魔石でも、色が薄いものと濃いものでは、内部に蓄えられている魔力量が大きく異なる。色が濃いほど、魔石に含まれる魔力量は多い。
「……なるほど」
俺は記録帳を読み進めた。そして、次の項目を見た瞬間……。
「……これだ」
俺は思わず声を漏らした。魔石と武具の融合。そこには、俺がずっと考えていたことが書かれていた。魔石を武具に組み込む。それによって、武具そのものに魔力を宿らせる。しかし、ただ魔石を武具に取り付けるだけではない。重要なのは魔力の道。武具の内部に、魔力が流れるための経路を作る。それは、人間の身体に存在する血管と似ている。血液が血管を通って身体中を巡るように、魔力が武具の内部を巡る。その魔力の道を作ることで、魔石から生み出された魔力を武具全体へと行き渡らせる。そして、魔力を帯びた武具が完成する。
「武具の中に……魔力を流す道を作る」
俺は記録帳を読み返した。武具そのものを魔石に合わせて加工する。魔石から生み出された魔力を、武具内部へ流す。そして、武具の先端や刃など、必要な場所へ魔力を導く。理論そのものは、驚くほど分かりやすかった。ただし記録帳には、何度も理論上と書かれていた。これは完成された技術ではない。まだ研究段階なのだ。筆者が成功させたのは炎を纏う剣。それだけだった。魔石から流れ込んだ火属性の魔力が剣全体を巡り、刃に炎を纏わせる。剣を振れば、その刃は炎を纏ったまま敵を斬る。だが、炎を放出することはできなかった。
剣から炎を飛ばす遠距離から火属性の攻撃。そこまでは成功していない。記録帳には、炎を纏う剣を作ることができたという結果と、そのために行った実験が細かく記録されていた。けれど、その先は失敗の連続だった。魔力が武具の一部にしか流れない。途中で魔力の流れが止まる。魔力が武具の外へ漏れる。魔石が壊れる。武具そのものが耐えられず破損する。様々な失敗が記録されていた。俺は黙ってページをめくっていく。そして最後のページまで読み終えた。
「……可能なんだ」
俺は記録帳を閉じた。胸の奥が熱くなる。前世のアニメやゲームでしか見たことのなかったもの。魔石を使った武器。魔法の力を宿した武具。それが……。
「この世界なら……本当に作れる」
俺は立ち上がった。五年間。俺は正道の鍛冶を学んだ。鉄を知った。鍛冶道具を知った。熱を知った。叩き方を知った。武具の作り方を知った。そして今。ようやく、その先へ進むための知識を手に入れた。
「……面白い」
俺は笑った。今まで生きていた中で一番うれしくて笑ったのだ。




