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回環〜君と紡ぐ幾億の記憶  作者: 天賜 撫子
2章 過去と現実の関係

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9/20

パニックにならない方法

 自宅に戻ると、アーヴさんがいた。

「おかえりレイダ。アーヴが来てるよ。今丁度お茶を出そうと思って準備してるところだ」

「只今。あら、もう来て頂いてるのね。少ししたら行くわ」


 さて、どこから話したものか……


「アーヴさん、本日は急にお呼び出ししてしまい、すみません」

「いえ、いいんですよ。今日はどうしたんですか?」


 まず、アーヴさんにこのことを伝えた。

・政府からの通知が来たと同時に、2名の取締役と3名の研究員の退職希望が出た

・取締役員のとの面談で、アシがまるで人身御供のような状態で教団の科学部隊へ入ることを言われた。

・取締役員のデボラは、教団に入ることで自由に研究を続けることができると言われたのでスカウトを受けた。

・防衛大臣と厚生大臣は教団に目をつけられたことで、引き越しである。

・本日オフィスを出ようとしたところで、教団らしき人物がワープシステムで壁から出てきて、自由に行き来しているところを見てしまった。


「なるほど……。それは大変でしたね。イエーゼス教団については銀河連合でも常にマークしているので、今回の新薬の介入については注視しておりました。もしかしたら、ペロイオネ製薬内に教団関係者によるスパイが入り込んでいることも考えられます。情報の機密性には気をつけてくださいね。壁移動については他に誰が知っていますか?」

「いえ、誰にも伝えていません。かなりのパニックになると思いますのでまだここだけの話です」

「現状、政府が主導で契約を進めてしまっているので、御社と教団でのやり取りは難しいと思います。ただ、泣き寝入りは好きでは無いので、ジワジワと追い詰めるような方法を考えて行きましょう。あはは」


 このアーヴさんは何者なんだろう?

 銀河連合のどう言った立場の人なのかしら?

「アーヴさんは、一体どういったお立場の方なんですか?率直な質問ですみません」

「いや、いいんですよ。僕はただの『顔が広いだけ要員』ですよ。細かいことは別の専門家がしてくれるので、いわゆるプロジェクトのような形にして設計していく役目です。この広い宇宙ではいろんなことがあるので、僕みたいな要員は沢山います。そして、実はアヌはさらにグレーゾーンの要員ではありますがね」


 グレーゾーン要員……初めてアヌのサイドビジネスのことを聞いた。画家であることは、そこで生かされているということなのかしら。


「わかりました。では、あなたのお立場を考慮して、またあなたを信頼をして極秘中の極秘事項をお伝えします。私はこのペロイオネ製薬の代表取締役兼開発研究者です。この新薬の設計をしています。簡単に申し上げますとこの新薬エターナには誰かが手を加えようとすると、全く違う効果になるように仕組んでいます。プログラムを書き換えることで爆発するかもしれませんし……エターナはエターナ以外にないのです」思い切って話してみた。


「なるほど、まあ、表向きは政府での管理ですから、ここだけの話ということにしましょう。引き続きその研究は銀河連合内基地でやってください。あなたのオフィスではもう色々と根回しされているでしょうし」


そう言って、移動装置の鍵をもらった。

「ちなみに、ここの会話は?」

「大丈夫ですよ。あなたは知らないと思いますが、かなり前からここは異空間に置かれていて、誰も盗聴できない。時間の流れも違うというか、出たい時間に設定できるんですよ。ね?アヌ」

「ああ、言ってなくてごめんよ。秘密にしてるわけでは無いが、仕事柄そうなんだ」

「ううん、安心したから大丈夫。だから今までどんなにギリギリでも仕事の時間までに出社できてたのね!ありがとう!」アヌは安心した様子でレイダを見つめた。


「アーヴさん、今日はありがとうございます!」

「そうそう、あなたの仕事仲間であるテレサさん。彼女にも気をつけてね。ちょっと気になることもあるし……。じゃあまた!!」

 私たちは、軽くハグをして見送った。

 別れ際で、気になることを言われてしまった……。

               ***

 

 とりあえず、なんとか纏まった気がする。

 「アヌ、急にあなたのことが頼もしく思えた。うふふ。一緒にいてくれてありがとう。もう一人ではないと思えた」

「そうでしょ?ただの画家では無いんだよ〜」彼は私をフワリと抱き上げて、私の目の奥をじっと見つめた。私はラッキーだ。こんなに頼もしい人と一緒にいられることで、このプレッシャーが軽減されて心が軽くなれた。一人だったら……と思うとゾッとする。

彼の瞳の奥を見つめながら、私はそう考えていた。


「レイダ。このところお腹の赤ちゃんの調子はどう?大丈夫?気分が悪かったらりしたら、ちゃんと教えてよ!」そう言ってそっと下ろしてくれた。

「ええ、順調よ」そう言って胎児の状態映像をアヌに見せた。

「わあ!まだ肌の色とか性別もわからないね。愛しい」

「ふふ。あとは、感情の共有は今は切っているので、私のストレスを感じることなく成長している状態かな。今の私のストレスを受けたら流れてしまうからね」

「そこが心配だったんだよ。いいこと聞いたよ。ありがとう、愛してる」


 その夜、今日会った出来事を思い巡らした。「テレサには言わないこと」

 ちょっと引っかかったけど、彼女にそう言った影があるのか、またはまだ調査中なのか?でもアーヴさん達のことを信じよう。社内では誰でも敵だと思って上手く立ち回るように気をつけなきゃ。


 就寝前に、1日の体験したデータを宇宙へアップデートさせた。私だけの情報空間。


 「レイダ、今日は疲れたでしょ?おやすみ」

 シャワーから出てきたアヌが現れた。少し筋肉質の整った体が大好き。私達、ずっとこれからも一緒にいられるかしら……。少し不安になった。

この状況が、まさか銀河連合も加わるような只事ではない事件になっていて、正直怖くなってきたし、多分この感情をアヌは知っている。


「レイダ。僕がついてるから大丈夫だよ」強く抱きしめてくれた。温かい彼の胸の中でそのまま私は眠りについた……。


                ***

 

 毎晩のように、レイダの記憶がダウンロードされていく。それと共に記憶の結晶も増えていってる。

 日記のように毎日記録をつけて行ったら、対処法とかレイダの言いたいことも分かるかもしれないな。

 既に何日分か、漏れているけれど後で読み返すことができるからそれがいいな。

 今は、適当な紙に書いておこう。あと、アシがこの部屋にやって来たこと……。

 「そういえば、アシはあの時点では、嫌々教団に入った風だったよな。恨みがあるのかな?」呟いていたらアシが側にいた。


「やあ、呼んだかい?」

「えー!なんで?? 呼んでませんけど!何か御用でしょうか?ぼ、僕はまだ記憶を見てないので聞かれても分からないのですが……」

「あはは、冗談だよ。こちらから来たら、たまたま君が私のことをボヤいているところだった。気にしなくていいよ。レイダ……。僕たちが開発したエターナはまだ暴走しているよ。少し話をしようか」


 果たして、このまま話を聞いていて、いいのだろうか?

 「今回の君は、話が弾みそうな気がするんだ。私は教団のに入るしかない理由があったのだよ。私は一応幹部職員だったから、エターナの基礎プログラムについてよく理解していた。だから奴らは私を利用しよとしていた。私は多額の借金を持っていたんだが、横領していたことを教団側に調べ上げられていて脅されて……。もう十分に利用されたよ。もう疲れたんだ。だから早く終わりにしたい。ただ、その前に正常に機能するエターナを見届けたいのだ。レイダ、お願いだから早く修復してくれないか!私はもう自由になりたいこの永遠のループから!」


 記憶の中にいたアシと今のアシの姿は、同じ人物には見えなかった。

 病的というか、目が尋常じゃないくらい狂っていた。シワシワの手を伸ばし、肩を掴まれそうになった。 


 その手を払い、アシの感情に同調してしまった俺(・)は恐怖に震えた。足が小刻みに震えて、アシの怒りや空虚感、悔悟の念など沢山の黒い感情が流れてきた。


 「もう、いいよ!聞きたくない!さっさと帰ってくれ!!気持ち悪い!!吐きそうだ!」

 そう吐き捨てると、アシは感情をぶつけた俺のエネルギーに押されて去って行った。


 「なんなんだよ!今の俺に何ができるというんだよ!勘弁してくれよ!」不貞腐れてベッドに戻った。

 もう、寝るのが怖い……。

 布団を頭から抱え、隙間からあの絵を見つめ、また眠りについた。



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